琥珀色の戯言

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【読書感想】勝負師と冒険家―常識にとらわれない「問題解決」のヒント ☆☆☆☆

勝負師と冒険家―常識にとらわれない「問題解決」のヒント

勝負師と冒険家―常識にとらわれない「問題解決」のヒント


Kindle版もあります。

内容紹介
三手先を読む、三日先を予想しない/運の差じゃなくて、運をつかむ実力の差/負けない手を打っていては絶対に勝てない/いま持っている力は温存せずに早く使え/最終局面は反射神経が勝負を決める/画期的なアイディアはハイリスク/目先のことを一回否定してみよう……。


 斯界で各々頂上を極めた棋士と冒険家。その異能の才が織りなす至言の数々に驚き、学び、愉しむ、珠玉の対談。冷静と熱情、至言と雄弁、すべてに対照的な二人が、相通じる勝負の「決断」を糸口に語る「問題解決力」とは? 勝負に、人生に、そして家族と、畏友はどのようにして、さまざまなハードルをクリアしてきたのか……。


 先日、「永世七冠」を達成した羽生善治さんと、アドベンチャーレースや数々のヨットレースで活躍している海洋冒険家・白石康次郎さんの対談本です。
 棋士と海の冒険家なんて、接点がないというか、異種格闘技みたいなものだろう、と思ったのですが、意外なことにお二人は初対面で意気投合したそうです。

白石康次郎:最初に羽生さんと会ったのは、富士通の講演会のときでしたね。お互いに富士通で、講演をやったのがきっかけでしたね。


羽生善治そうでしたよね。


白石:ある日、富士通の講演担当の坂本美奈さんから「羽生さんと白石さんは、『決断』の基準が同じですよ」と言われました。富士通にはいろいろな研修があって、対象者のニーズに合わせてテーマや講師を選んで決めていくことを仕事にしている女性なんですよ。そんな何百人もの講師との接点がある中で、決断のプロセスや決め手が最も似ているのが僕たちだと言われました。そこで「今度羽生さんが講演するから、会いに来ませんか」と誘われたんですよ。で、図々しく伺いました。


羽生:たしか、私の控え室に来られたんですよね。


 白石さんと羽生さんのファーストコンタクトの話を読むと、白石さんのほうが少し年上とはいえ、天下の羽生善治にマイペースで接する様子に、読んでいるほうがハラハラしてしまうくらいです。
 羽生さんって、あれだけの名声を得ながら、こんなにフラットに人に接する人なんだなあ、と感心してしまいました。
 そういうところが、羽生さんの凄さであり、強みなのかもしれません。


 僕は羽生さんの著書はかなりたくさん読んでいるので、この対談のなかでは、白石さんのヨットの話がけっこう面白かったのです。スポンサー探しの苦労とか、ひとりで海の上でヨットの修理をしなければならないこととか(修理するための機材も「荷物」になるので、どこまで修理用具や予備の部品を載せるか、というのも戦略のひとつなのだそうです)、こんな世界があるんですね。
 日本ではそんなにメジャーでもないし、企業の大きな宣伝になるわけでもないのに、すごくお金がかかってしまうヨットレースは、続けるだけでも、けっこう大変みたいです。

羽生:私が白石さんに会うまでは、ヨットの世界ってそれこそすごい猛々しい男たちが豪快にやっていくものだと思ってたんですよ。だけど膨大なデータを集めたりとか、細かなテクニックを磨いたりとか、どう言えばいいんですかね。すごい野性的なところと、最新のテクノロジーとが融合しているんだなあ、というところに新鮮な驚きを感じたんですね。私から見ると「あ、すごい、これ、おもしろい世界だなあ」と思ったんです。


白石:それは、羽生さんの視野の広さがあってこそです。


羽生:しかも、何かテクノロジーに頼っていないところが、またすごいところで、私が聞いていて一番印象に残ったことがあって、それが「調子が悪いときはラップトップのデータを見るけど、調子がいいときは自分の直感を信じる」という言葉でした。「あっ、それはそうだな」と。ものすごくその感じがよくわかったんです。たしかに、データもあるし、GPSもあるし、いろんなやり方もあるんだけど、でも最終的に人間の研ぎ澄まされた勘とか感覚とか、積み上げたものとかというのは、やはりとんでもない価値があるというところを、すごく感じさせてくれるところがあったんですよね。


 こういう、人間の勘とテクノロジーの融合(あるいは使い分け)、みたいなものが、将棋の世界にもあるのでしょう。
 この本が出たのは今から7年くらい前なので、コンピュータ将棋が人間を凌駕してしまった現在は、羽生さんの考えにも変化がみられるかもしれませんが。

羽生:それから、こういうことってよくあるんですよ。たとえば、やらなかった選択ってあるじゃないですか。大部分の人は、やらなかった選択はいい結果になる、と思ってることが多いんですよ。こっちをやっておけばよかったとか、この道を選んでおけばよかったと。でも、それをやっていたら、いまよりももっと悪くなってる可能性だってけっこうあるんですね。だけど意外と、選択してないことに関して、すごい楽観的になってる。とくに、こっちの道を進んでいけばよかったと思っても、悪い状況のときにその道を選んでいたら、いまの悪い状況よりも、もっともっと悪い状況になっていたかもしれないというケースってすごくあるんで。だから、それを選んだ以上は後悔しないとか、あとは振り返らないというのが、すごく大事なことだと思うんですけど。


(中略)


白石:僕の勘では、「出ていれば、これだけリタイアしたんだから上位へ行ったよ」というのは違うかもしれないと思う。要するに、出られなかったことがラッキーだということになるわけ。準備不足のままあれに出てたら、僕、死んだかもしれない。世の中では、政治家が、これやったらこう失敗したって言うわけよ。たとえば郵政民営化をやったら、こんなになったと。じゃあ、やらなかった場合どうなるんだ。それをだれも言わないんだよね。偏っているんですよ。やってもひどくならないけど、やらなかったらもっとひどい場合がものすごくあるんだよね。そこの判断ってとても大切だよ。


羽生:そうなんですよ。だから、忘れることは大事なんです。ミスしたら、とにかくなぜミスしたのかを絶対検証はしなきゃいけないんです。けれども、それが終わったらもう忘れたほうがいいんですよ。


 羽生さんのこんな考え方は、なにかと後悔しがちな僕は参考になりました。
 たしかに、やらなかった選択肢が、現在よりも良い状況を生み出していた、という保証はないのです。
 選ばなかったのには、それなりの理由もあるし、もしかしたら、「それをやらなかったおかげで、最悪の事態は避けられた」可能性もあるのだよなあ。
 

 おふたりは、子どもたちに、こんなメッセージを送っています。

羽生:いまの子どもたちに、一言だけこの言葉を伝えたいなというのを選ぶとしたら、どういう言葉になりますか。


白石:「素直にまっすぐ」です。それだけ。


羽生:私は「裏切らないこと」ですね。前にもちょっと話をしましたけれども、これに尽きると思ってるんですよね。いまの子どもたちは、周りの空気が読めるというかよくわかっているから、周りの期待にすごく応えようとしちゃうんですよ。そのために自分を裏切ってるというケースがすごい多いんですね。応えよう応えようと思って一生懸命やってるんだけど、じゃあ本当に自分のやりたいことは何かとか、自分が望んでいることは何かということがしっかり持てていないんですね。


白石:それって、まったく同感です。


羽生:それから、自分も裏切るなということです。いや、自分の我を通して周りを裏切るのも同じですけど(笑)。だから、両立するのは難しいけれども、ちょっとずつそれを学びながら、すり合わせていくというのが大事ですよね。それに、子どもが元気じゃないと、社会全体も活気が出ないでしょう。


 羽生さんは朝のゴミ出しをしたことがない(本人によると、やりたくないのではなくて、そういう生活の基本みたいなことに絶望的に向いていない、とのことです)そうなのです。
 自分を裏切らなかったからこそ、将棋の世界で、これだけの実績をあげることができたのか、もともと天才だったから、裏切らない生き方が許されてきただけなのか?
 僕としては、羽生さんなら、ゴミ出しできなくても許されるよなあ、と思うのですけどね。


 2010年の対談なので、ちょっと前のお二人の考え、ということになりますが、今読んでも面白い本だと思います。
(ちなみに僕は、Kindle Unlimitedで「読み放題」に入っていたので読みました)


fujipon.hatenablog.com

七つの海を越えて―史上最年少ヨット単独無寄港世界一周 (文春文庫)

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