琥珀色の戯言

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【読書感想】私が愛した広島カープ: 歴代優勝監督巡礼+マル秘エピソード集 ☆☆☆☆

内容紹介
地元、テレビ新広島のアナウンサーとして長年にわたり広島カープを取材、またカープ戦の実況も担当。球団に対する愛情では誰にも負けないと自負する著者・神田康秋が、満を持して上梓したのが本書。古葉竹識阿南準郎山本浩二緒方孝市の四氏を訪ねる「歴代優勝監督巡礼」や、著者だから語れる監督や選手のマル秘話など、本邦初公開の「カープネタ」が満載。カープファンはもちろん、すべてのプロ野球ファンに楽しんでもらえる一冊。


 神田さん、こんな本を出していたのか……
 2016年、四半世紀ぶりの優勝を受けて行われた対談を収録したものなのですが、2017年のリーグ優勝も含めて、カープで優勝(リーグ優勝)を成し遂げた監督さんって、古葉竹識阿南準郎山本浩二緒方孝市の4人だけなんですね。そして、日本一になったのは、古葉さんだけなのか……


 古葉さんや阿南さんは、もう80歳を超え、僕が子どもの頃のヒーローだった山本浩二さんも、もう70歳を過ぎておられるんですよね。
 この対談集では、まだまだみなさんお元気そうで、優勝当時の話や監督という仕事について、面白い話をたくさんされている、とても貴重な証言集だと思います。
 神田康秋さん、僕も『プロ野球ニュース』で、出てきたときの神田さんの表情でカープの勝敗を悟っていたものです。
 今はネットですぐ試合結果がわかる時代なのですが、インターネットが普及するまでは、観たくもない巨人戦を途中経過を知るためだけに観ていたんですよね。
 神田さんに対しては、同じカープファンで、みんなが巨人・巨人と言っているなかで、カープを応援してくれている貴重な存在として共感を抱いていたのと同時に、僕もカープファンでありながら、「あまりにカープ目線だと、他所からみたら、カープファンがみた巨人びいきのアナウンサーと同じだよな」なんて、ちょっと斜に構えていたところもありました。


 それでも、すべてのチームの試合結果が採りあげられる『プロ野球ニュース』というのは、本当にエポックメイキングな番組で、そこから、今の「巨人一極化ではないプロ野球人気」が生まれてきたのではないか、とは思っているのです。
 

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 古葉監督の話を読むと、当時のカープの選手たちとファンの距離の近さに驚かされます。
 この時代、僕はもう生まれていたはずなんだけど。

古葉:そうそう、監督時代は、よくファンの方が自宅まで来ましたからね。


神田:監督のご自宅まで?


古葉:はい。本当に僕を応援してくれてた方たちが、開幕戦のときに必ずうちに来られるんですよ。僕も、「どうぞどうぞ」と家に上がってもらって、「これ、飲んで下さい」って話をするんですね。そして、「そろそろグラウンドに行かなくては……。今日の試合は昼ですから、僕は球場に向かいますね」って。そして、僕が車に乗って、「行ってきまーす」と言うと、「頑張れー」と手を叩きながら、僕の家から応援していただいたんですよね。ああいう思い出が、僕の気持ちの中にすごくあるんですよね。


神田:いい時代ですね(笑)。

神田:山本浩二さんと涙を流し合ったという思い出はありますか?


古葉:やっぱり初優勝のときですね。あの日の後楽園球場は、すごかったですからね。外野のあの高いフェンスの上から、ファンのみなさんが飛び降りてきてくれてですよ。


神田:もみくちゃでしたよ。


古葉:すごかったです。みなさん方が来られてね、胴上げしてくれたものですから、「もうおろせ、おろせ、おろせ」って言ってね。で、ベンチに戻って、みんな泣いていましたね。


 優勝して喜びを爆発させるのは、どこのチームでも同じだと思うのです。
 でも、ここまでの歓喜と涙をもたらすチームは、そんなにないはず。
 2016年の優勝のとき、僕も黒田と新井の抱擁と、顔をおさえながら胴上げされる黒田をみて泣きました。いや、思い出しながら、これを書いているだけで、涙が出そう。


 古葉監督が、テレビに映るとき、ベンチの陰に半分隠れながら戦況を見守っている姿は、小学生時代にみんなでよく真似していたものです。
 古葉監督は、「あの場所がいちばん戦況がよく見えるんだ」と仰っていますが、こんな証言もあるのです。

 古葉監督といえば、いつも一塁側ベンチの右端に立って、顔半分だけ見えている印象が強い方も多いと思います。高橋慶彦から聞いた話です。
「古葉監督は、カメラの位置をしっかり意識しているんです。選手たちがベンチ裏に行く際は、必ずテレビカメラの後ろを通らなければならないんですけど、監督が立っている位置は、ちょうどテレビカメラの死角になるんです。もしも、ミスをした後にベンチ裏に行こうとすると、古葉さんはカメラに映らない角度で、その選手に蹴りを入れるんです(笑)。しかも、まったく表情を変えずに。それは、”ここならばカメラに映らない”という場所をしっかりわかっているからできることなんですよ」
 この経験があるから、慶彦は今でも「古葉監督は怖い」と言うのでしょう(笑)。若手だった頃の長嶋清幸も、「古葉監督には足技がある」と言っていました。


 あの優しくて紳士にみえる古葉監督にも、こんな一面があったのです。
 テレビカメラに映らないように、って、けっこう悪質(?)だなあ。
 今、この話を読むと、思わず笑ってしまうんですけどね。


 山本浩二さんは、選手時代の初優勝(1975年)のことを、こんなふうに振り返っておられます。

山本:だって、その年(1975年)の戦いはものすごく苦しかったんだよ。夏場に優勝争いをしているけど、経験がないから、優勝するなんて思っていなかったからね。


神田:実感がないですよね。


山本:実感はなかったね。それで、夏が終わって、「ひょっとしたら?」という頃に、みんなでプレッシャーを感じるわけ。「誰でもいい、誰か打ってくれ!」っていう気持ちになって、それでだんだん、だんだんチームが一つになっていく。


神田:ミスター赤ヘルもプレッシャーがあった?


山本:当たり前やないか!


神田:怒らないでくださいよ(笑)。どういうプレッシャーですか?


山本:誰だって、「ここで打たなきゃ」っていう場面はプレッシャーがあるよ。毎試合、優勝がかかっているわけだから。それはやっぱり、かなりのプレッシャーだったよ。最後のゲームも1対0のままで、9回に(ゲイル・)ホプキンスが3ラン。どれだけ嬉しかったか。ワシはネクストバッターだったけど、心から万歳したからね。あれほど嬉しいものはなかったね。ずっと「誰か打ってくれ」っていう気持ちだったから。


神田:その後インタビューされましたよね。


山本:その前に泣いていたね。ベンチに入って、ロッカーでみんなと抱き合って。


(中略)


神田:さて、浩二さんといえば、もう1人の大選手の存在も忘れてはいけません。続いて衣笠さんのことを伺いたいのですが、やはり、あの年(1975年)のオールスターのアベックホームランが忘れられないですね。あの瞬間こそ、日本中に赤ヘル旋風が巻き起こり、赤ヘル軍団が世間に認知された瞬間ですよ。ようやく赤のユニフォームが似合った瞬間だったと思うんですけども。


山本:だね。あのオールスターでキヌとアベックホームラン打って、それで「赤ヘル旋風」って言われ始めたからね。それで勢いがついたっていうのはあるね。


神田:そうですよね。衣笠さんとは仲間でありライバルだったんですよね。


山本:もう、最初からライバルだね。同級生だから。カープに入団したときは、お互いに「負けたくない」って気持ちだけだったと思うよ。腹を割って話をするっていうのは、そんなになかったから。私生活でもほとんどつき合いはなかったよ。でも初優勝のときのことを思い出すと、真っ先に頭に浮かぶのはロッカーで抱き合ったキヌのことなんだよな。


神田:そのときはお互いに泣いていた。


山本:お互いがね。それからもライバル。でも優勝したことで初めて、腹を割って話せるような仲になったね。お互いに「お前には負けんぞ」と思っていたのが、やっぱり優勝の味がすごく感動的だったから、「もう一度優勝するために、お互いに頑張ろう」となったわけ。だって、もう一回優勝したいじゃない。我々も中堅からベテランになってくる頃だから、「チームが勝つにはどうする?」っていう話をするようになる。それから家族同士でつき合うような間柄になったからね。本当によきライバルよ。


 二回も監督になった山本浩二さんに対して、コーチにすらなっていない衣笠祥雄さん。
 長年のカープファンの僕には、正直腑に落ちないし、巷間、いろいろ言われてはいるのですが、山本浩二さんに、直接衣笠さんのことをぶつけられるのは、神田さんだから、なんですよね、きっと。
 そして、山本浩二さんも、その質問に対して、(たぶん、答えられる範囲で)ちゃんと答えているし、お互いに信頼しあっていたということも語られています。
 この山本浩二さんの話を読んでいて感じたのは「チームワークが良いから勝てる」というよりは、個人が実力をつけ、勝ちが見えてきたからこそ、「チームワーク」に目覚める、というものなのかな、ということでした。
 そして、「勝つことの感動」を実際に体験したからこそ、またそれを味わうために、「そのために必要な協力」を考えるようになるのです。
 「常勝チーム」というのは、こういう経験をみんなが活かしているからこそ、その強さを維持できる。
 四半世紀も優勝できなかったにもかかわらず、連覇を達成した今年(2017年)のカープをみていると、「一度勝つ経験をするというのは、本当に大きなことなのだな」と思います。
 もちろん、そこで満足してしまって、それ以降はサッパリ、というケースも少なくないのですけどね。


 御紹介したいところはたくさんあるのですが、カープファンにとってはもちろん、なんらかの組織のリーダーとして振る舞わなければならない人にも、けっこう参考になる本だと思います。
 古葉監督の時代から、緒方監督の時代まで、「理想のリーダー像や選手との接し方の変遷」みたいなものも「優勝監督」の仕事を通じて伝わってくるんですよね。
 これも、「名将だから結果を出した」のか、「結果が出たから名将なのか」というのは、なかなか難しいところではありますが。
 連覇を達成して、いまや「押しも押されぬ名将」となった緒方監督の1年目なんて、「辞めろ!」の大合唱だったものなあ。


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