琥珀色の戯言

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【読書感想】「富士そば」は、なぜアルバイトにボーナスを出すのか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
日本全体が短期的な利益追求に走り、ブラック企業がはびこる中で、首都圏を中心に一三〇店舗以上を展開する立ち食いそばチェーン「富士そば」は真逆を行く。アルバイトにもボーナスや有給休暇を支給し、社員には年間一〇〇〇万円を超える報奨金や、さらには海外旅行までもが用意されているのだ。富士そばが、ここまで従業員を大切にする理由はいったい何なのか?創業以来四〇年以上の歴史を持ち、現在も成長を続ける老舗チェーン店の「ふしぎ」な仕組みと経営哲学の全貌を、創業者自らが明かした驚きの一冊。


 「富士そば」って、九州の地方都市住まいの僕にとってはほとんど縁がない店で、東京に出張したときに一度入った記憶があるくらいです。
 ものすごく美味しい、というわけではないけれど、手頃な値段で、遅くまで開いていて、こういう店が地元にもあったら便利だよなあ、と思いました。
 この本、「名代富士そば」を運営するダイタングループの創業者である丹道夫さんが、「富士そば」をはじめるまでの経緯と、店舗を運営していく際に心がけていることを書いておられるのです。
 読んでいて感じたのは、丹さんは、「そばの味」については、そんなにこだわりはないのかな、ということでした。
 「最高の一杯を目指す」というよりは、それなりの味で、社員もアルバイトも働きやすくして、お客さんにとって居心地の良い店をつくる、と割り切っているようです。

富士そばは、アルバイトにもボーナスを出すんですか?」
 富士そばの会長としてインタビューに応えて会社の仕組みを説明したところ、驚かれたことがあります。よほど物珍しかったのでしょうか、そのインタビュー記事は話題になったようで、「富士そばって、ふしぎな会社だな」という声が耳に届くようになりました。
 ふしぎに思われているのはボーナスの話だけではないようです。他に話題になることが多いものを挙げてみましょう。たとえば、飲食店のチェーンなのに細かいマニュアルが存在しない。業務時間中に買い物に出ても怒られない。店舗ごとにメニューが違う。おまけに、「トルネードポテトそば」などという、とんでもなく個性的なメニューがある……。
 富士そばは、東京を中心に展開する立ち食いそば屋です。2017年10月現在、店舗数は国内外合わせて約130店舗で、従業員は1000名弱。多くの店が駅前にあってサラリーマンの利用が多く、かけそばを一杯300円で提供しています。首都圏の方には馴染みがあるかもしれませんが、出店していない他の地域の方からすれば、富士そばは一層謎の存在として映るかもしれません。
 また、社内の従業員からも「会長は不思議な人だな」と思われることがあるようです。

「はじめに」でご紹介したように、富士そばにはふしぎな仕組みが多いと言われます。しかし、私が最も大切にしていることは、突き詰めればたった一つだけ。それは一言でいえば、「従業員をなるべく大切に扱う」という、至極当たり前の方針です。そんなあまりにもシンプルな考え方が、今の時代にはかえって新鮮に映るのかもしれません。


 読んでいくと、正直、こんな「ゆるい」会社で、だいじょうぶなんだろうか、とも思うんですよね。
 そばのつくりかたにしても、従業員にマニュアルどおりにつくってもらうのではなくて、「マニュアルは参考程度で、最終的には自由に調理してもらって良い」と伝えているそうです。 
 そばの湯切りのやり方も、人それぞれなのだとか。

 私が好んで使う言葉があります。「細かいことは良いから、うまくやってくれ」。調理もまさにそれ。出来上がりさえ良ければ、自己流も大歓迎です。


 逆に言えば、出来上がりが良くなるように、各自工夫しなさい、ということですから、必ずしも「なんでもあり」なわけではないんですけどね。
 このやり方だったら、仕上がりにバラツキが出てしまうのではないか、と思うのですが、「富士そば」の経営が順調であることを考えると、食べる側は、多少のブレは気にならないのかもしれません。
 味にこだわり抜く人は、老舗の有名そば屋が東京にはたくさんあるわけですし。


 ひとりで食べる店としては、ものすごく美味しいけど敷居が高いよりは、ふらりと入ってお腹が一杯になって、すぐにお会計をして出られるほうがラクなんですよね、僕の場合。
 

 「富士そば」では、アルバイトにもボーナスを出すし、従業員が提案したメニューで、丹会長のところまで上がってきたものは、基本的に全部店頭に出すようにしているそうです。
 「トーストそば」や「まるごとトマトそば」なんて、話題にはなるかもしれないけれど、そんなに食べる人がいるとは思えない(やっぱり、そんなに売れなかったそうですが)。
 しかしながら、それがメディアに採りあげられることで宣伝になるし、提案者のやる気もアップする。
 損することをしないようにする、失敗を避けるのが「経営」ではない。
 挑戦すれば失敗することがあるのは当たり前で、失敗を責めることはしない。
 失敗をおそれて、挑戦をやめてしまうことや失敗から学ばないことのほうが「問題」なのだと丹会長は仰っています。
 

 従業員を追い込んで100万円の売上を達成するより、みんなで楽しくやりながら80万円の売上を確保できるほうが絶対に良い。ほどほどに儲けて、精神的な余裕のある状態が一番。差額の20万円は、損ではなく、余裕代として払ったと考えれば良いのです。


 丹会長は、最初から「富士そば」で成功したわけではなく、連れ子として苦労した末に東京に出たものの、身体を壊してしまったり、不動産事業は成功したものの、仕事に面白みを感じられなくなってしまったりと、何度も挫折を経験しているのです。
 働けない寂しさも、働きすぎるつらさも、両方知っている人なんですよね。
 それが「富士そば」のスタッフに対する絶妙な気配りにつながっているのではないかと思います。


 この本で、丹会長は「立ち食いそば屋は物件がすべて」だと仰っていて、そのノウハウの一端も公開されています。

 周辺環境としては、大学のように人の集まる施設があると繁盛しそうに思われるかもしれませんが、それは誤解です。というのも、大学は年に二回も長い休みがあって、閑散としてしまう時期があるからです。遊園地も休日はにぎわうけれど、平日はそこまで混みません。集客を見込んでこうした施設の近くに出店した場合、時期によって売上に大きくムラが出てしまうことになりかねません。たとえ人が多く集まっている印象のある場所であっても、出店するときにはよく吟味・検討しなければならないのです。
 結局、一番良いのは会社がたくさんあって、サラリーマンがたくさん集まっているビジネス街なのです。会社員は雨が降ろうが槍が降ろうが、必ず出社しなければなりませんし、仕事をしていれば必ずお腹が減るものですから。
 都内のOLは、食べたいランチがあれば電車で二駅ぐらい移動することがあるといいます。富士そばの本社で働く若い女性社員に聞いても、同じことを言っていました。しかし、サラリーマンは、まずそんなことはしません。店が近くにあって、頼んだらすぐ出てきて、手軽で安くて、それなりに味も良い。そういう要素を重視する。つまり、立ち食いそばはサラリーマンの食べ物であり、ビジネス街に出すのが基本であるということなのです。
 こう書くと、さも当たり前の結論に思えるものですが、立ち食いそばの商売を始めた当初は、そんな当たり前のことさえもわかっていませんでした。こういうことは、試行錯誤を繰り返すうちに学んだわけです。
 また、一つの出店の基準として「5分間に100名以上通る場所」という条件もあります。その際、注目するのが通行人の「色」です。
 女性は赤などの原色の服を鮮やかに着こなしますが、サラリーマンが身に着けるのは、ほとんどが黒っぽいスーツ。つまり通行人全体の印象として黒ければ黒いほど、出店は成功する可能性が高いと言えます。そのため、私はこのように指示を出しています。
「黒い服を着た人が、5分間に100人以上通る道を狙いなさい!」


 「従業員」を大切にすることと、背伸びも妥協もせずに、店の性格にあったお客さんをしっかり確保すること。
 読んでいると、なんだか古くさいようだけれど、きわめて合理的で真っ当な商売をしている会社なんですね、「富士そば」って。
 こういう会社が「ふしぎ」だと思われていることが、おかしいのではなかろうか。


fujipon.hatenadiary.com

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