琥珀色の戯言

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【映画感想】キングスマン:ゴールデン・サークル ☆☆☆☆

トピック「キングスマン」について
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謎の組織「ゴールデン・サークル」によって、ロンドンにある高級スーツ店を隠れみのにしたスパイ組織「キングスマン」の根城がつぶされてしまう。残ったのは、以前スカウトされて腕を磨いたエグジー(タロン・エガートン)と、教官でありメカ担当のマーリン(マーク・ストロング)だけだった。二人は敵を追い、同盟組織の「ステイツマン」の協力を求めてアメリカへ渡る。


www.foxmovies-jp.com


 2018年、映画館での1本目。
 観客は10人くらいでした。


 前作『キングスマン』は、DVDで観たんですよね。
 これ、けっこう面白いよ、という話をいろんなところで聞いて、劇場公開からだいぶ経ってから観たのですが、たしかに予想外に楽しめる作品でした。荒唐無稽なことを真面目にやりきるのって、素晴らしい。
 そこで、この続編は映画館で見ることにしたのですが、正直なところ、不安もあったのです。
 前作は、期待値があまり高くなかったおかげで、「掘り出し物を見つけた満足感」があったのだけれど、今回は観る側のハードルがかなり上がっています。
 そこで、スケールを大きくしたり、豪華キャストになったりして、かえって、ありきたりの大作アクション映画になってしまう事例って、少なからずあるので。
 さて、『キングスマン』の続編は、どうだったのか?


 上映時間が140分くらいと聞いていたので、ちょっと長いかな、と思っていたのですが、オープニングのカーチェイスのシーンから、今までの設定をリセットするような大事件まで、いきなり引き込まれていきました。
 それにしても、あの麻薬王の「お仕置き」のシーンとか、これ、PG12で良いのかよ、たしかに血がたくさん出るわけでも、性的露出が大きくもないけど、けっこうトラウマになるのではなかろうか。スタイリッシュだけど、けっこう下世話だったり残酷だったりするところも、なんとなく「英国風」なのかな、という気もするんですけどね。
 正直、「楽しいアクション映画」を期待してデートで行ったりすると、微妙な空気が流れるリスクもあるのではなかろうか。
 だが、それがいい……僕にとっては、ね。


 『残虐マトリックス』風のアクションシーンとか、登場人物の生命の「軽さ」とか、観客をおちょくっているような小ネタの数々とか、しょうがねえなあ、でも、好きな人は好きだよねこれ。
 登場人物が死んでも、どうせまた生き返るんだろ、『キングスマン』だし、みたいな楽観に包まれてしまうのです。
 というか、今度はどうやって生き返らせるんだろう、などと考えてしまいます。
 思いっきり不真面目な『007』をつくったら、こんな感じかもしれないなあ。
 『007』シリーズって、もともとそんな堅苦しい作品じゃないんだけどさ。


 こういうのが英国風のジョークなんでしょうけど、エルトン・ジョンのパロディには苦笑するばかり。
 いくらなんでも、こんなふうにネタにされたら、エルトン・ジョンも怒るんじゃない?
 本人には許可をとったんだろうけどさ。
 それにしても、エルトン・ジョン役には、もう少し似ている人を起用すればよかったのに。
 ……って、えっ?


 洋楽に詳しくない僕にとっては、「あの人」が復活したこと以上に、エンドロールでのどんでん返しに驚かされました。
 すごいな『キングスマン』。


 前半は『ステイツマン』に母屋を乗っ取られそうな感じだったのですけど、途中からは、「ああ、これはやっぱり、『キングスマン』だな!」と嬉しくなってきたのです。
 今作はキャストも豪華になったよねえ。
 まあでも、やっぱり、『キングスマン』は、コリン・ファースだよなあ。


 麻薬王の行動など、あんまり真面目に論じてもしょうがない、というところは多いのですが、僕が考えさせられたのは、「麻薬」に対するこの映画のスタンスというか、西欧の考え方でした。
 観ながら、「とはいえ、麻薬を使っているような連中だろ……癌の痛みのコントロールのためのモルヒネとかは別としても、麻薬王の言いなりになって麻薬がより蔓延するくらいなら、現在の使用者を見捨てるっていう選択肢は、少なくとも、検討には値するのでは……」と思っていたんですよ。
 でも、この映画の世界では、それは「ひとつの選択肢」ではなく、「陰謀扱いされる発想」なんですね。
 競争社会というけれど、アメリカやイギリスという国には「競争で生まれた敗者や弱者を守るのも、選ばれし者たちの務め」という矜持が根強くあるのだなあ、あるいは、「自分たちだって、麻薬とずっと無縁とは限らない」という実感を持っているのだなあ、というようなことも感じました。


tocana.jp


 いちおう検索してみたのですが、日本はアメリカやイギリスに比べると、麻薬依存の治療を受けている人は少ない国のようですし、それだけに、麻薬中毒者に共感しづらい環境にあるのかもしれませんね。
 もちろん、それは悪いことではないのだろうけど、この映画の「ラスボス」に対する嫌悪感は共通でも、「もうひとつの巨悪とされたもの」については、僕は「ここまで批判されるようなことなのか」と考えずにはいられませんでした。
 

 とりあえず、前作『キングスマン』を先に観ておいたほうが楽しめる映画です。
 前作が肌に合わない人には、やっぱり、今作も難しいのではなかろうか。
 あと、人と育てるというのは、一方的な関係ではなくて、育てる側も変わるというか、育てている相手に教わって、成長していくものなのですよね。
 このシリーズ、これからも続編がつくられて、「ご当地キングスマン」がどんどん出てくるのだろうか?
 もしそうだったら、出尽くすまで長生きして「今度はこれかよ!」ってニヤニヤしつづけたい。
 僕にとっては、そんな映画です。


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