琥珀色の戯言

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【読書感想】アンジャッシュ渡部の大人のための「いい店」の選び方の極意 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
目の前におとしたい女性やクライアント、もしくは上司や部下、あるいは大事な家族や友達がいるとき、「いい店」を知っていると最強の武器になります。本書は芸能界のアテンド王として確固たる地位を確立している著者による、「いい店」の探し方から店でいい客になってひいきされる方法、そしてデート・会食・出張などにおすすめのいい店を紹介する1冊です。


 芸能界の「食通」として知られる渡部さんなのですが、僕は正直、この新書を読むまでは、渡部さんって、「ビジネス食通」(本当はそれほどたいしたことないのに、「仕事」として食通役を演じている)じゃないのか、と疑っていたのです。

 芸能界にはすごい食通の方々がいて、僕などまだまだかなわないのですが、「アテンド王」と呼ばれるのはちょっと嬉しいことです。なぜなら食に詳しいとか、店に詳しいというだけでなく、誰かが食事を楽しむことのお手伝いをできる、食の楽しさを提案できるということですから。
 今では、人に聞かれたり頼まれたりすると、要望に合わせてふさわしい店を紹介しますし、もちろん自分が行く店はすべて自分で決めます。プライベートな食事会でも、仕事の会食でも、番組の打ち上げでも、初めてお会いするクライアントさんとの会食であっても僕が決めます。相手の方が「いい店に連れて行ってほしい」と言ってこられるケースが増えている、というのもあるのですが。


 逆に会食などで「この店を予約しましたから」と先方に店を決められるのは苦手です。せっかく食事に行くなら、自分が行きたい店に行きたい。食事ができる回数は決まっているので、一食たりともムダにしたくないんです。
 だから、食事会でなくても、仕事の打ち合わせなどでも「食事しながらにしましょう」と提案して行きたい店に行きます。知人が「久しぶりに会おう」と言えば「じゃあ、ご飯食べよう」、後輩が「悩みを聞いてください」と言ったら「わかった。メシ食いながら聞こう」という感じです。
 限られた時間の中で、とにかく店に行く機会を少しでも増やしたい。
 そんな食生活をしているうちに、ブログを始めた頃は年間250軒くらいだったのが、今では500軒を超えています。東京だけでなく、地方の店にも行くようになりました。


 渡部さん、本当に食べることが好きというか、「生きがい」なんだな、ということがこれを読むと伝わってくるのです。
 そりゃ、この本だって、ライターさんが書いた可能性も十分ありますけど、「熱意」は本物でしょう。
 自分で店を選んで「アテンド」するのは「限られた自分の食事の回数をムダにしたくないから」なのだとか。
 渡部さんは、はじめて行く店には、「ひとりで行くことが多い」そうですし、行列には、普通の人と同じように並ぶとおっしゃっています。
 「芸能人枠」みたいな感じで、裏口から入れてもらっているのではないかと思っていたのですが、そういうのは店や他のお客さんへの礼儀に反するから、と。
 おすすめの店のガイド本みたいな感じかと思いきや、店の名前は挙げられているものの、個々の店の連絡策や詳しい説明が巻末にまとめられているわけでもありません。
 興味を持ったら、ネットで検索するくらいの手間はかけてね、ということなのでしょうね。
 紹介されている店も面白そうで、地方在住の僕でも、東京に行ったときには訪れてみたい、と思うようなところばかりでした。実際は、突然思い立っても行けないような人気店ばかりなのでしょうけど。


 他の人をご飯に誘うときの殺し文句もいろいろと紹介されていて、僕もあと20歳くらい若かったら、使えたのに……なんて思いながら読んでいたのです。

「並べば入れる」というのも、特に最近、効くキーワードです。
 予約を取らない店で大行列ができる店は、それを聞いただけで敬遠してしまう人が多いのですが、並ぶということは、並べば入れるわけで、電話をかけ続けてもつながらないような店に比べれば、より確実に入店できるわけです。
 ちなみにこの場合は、「あの店は並ばないと入れない」という言い方ではなく、「あの店は並べば入れる」という表現の方が、人を誘うときには有効です。
 同じように「予約が取れない店」というのも刺さります。たとえば月に1回しか予約を受けつけていない店の予約が取れたとしても、それも最高の誘い文句になるはずです。


 僕などは「並ぶ」というだけで、「それなら他の店にしようよ」って思ってしまうのですが、ものは言いようだよなあ、って。


 渡部さんは「美味しいものを美味しいタイミングで食べることに妥協したくない(ただし、店の雰囲気はリラックスできるほうがいい)」というタイプだそうなので、「美味しいものは好きだけれど、それほど強いこだわりはない」「会話が弾んでいれば、料理が冷めてもそんなに気にしない」という僕とは温度差がありそうですが、本当に「食べることが好き」な人にとっては、渡部さんが選んだ店は参考になるはずです。


 ちなみに、渡部さんが新しい店を見つけるためにいちばん参考にしているのは、同好の士(食通)たちからの「口コミ」なのだとか。
 「食べログ」を利用することもあるそうです。

 たとえば「食べログ」には点数やコメントなどが掲載されています。
 総合点数を見て店選びをする人も多いと思いますが、僕は総合点数が高いという理由で店に行くことはまずありません。総合点はその店の実態をどの程度表しているかわかりにくいですし、たとえば2つの店を比べる場合、点数の差が本当に店の優劣を表しているかどうかわかりにくいからです。
 だから、僕は特定のレビュアーの点数やコメントを見るようにしています。自分と嗜好が合う人を見つけて、その人のレビューを追うようにするのです。自分好みのレビュアーさえ見つかれば、その人を追っていけば、点数でそれぞれの店の相対評価がわかりますし、コメントでイメージをつかめます。こうした同好の士(?)を何人か見つければ、より情報の確度が高まります。


 自分と嗜好が合う人を見つけるには、自分が実際に行って気に入った店を検索して、そこで高い点をつけている人、自分と同じような感想のコメントを上げている人を探します。そしてそのレビュアーが行っている店を一覧し、自分が好きな店とどれだけ重なっているかを見ればすぐにわかります。
 とはいえ、自分の好みと一致している人はなかなかいないものです。そんな場合は、比較的好みが似ている人を何人か見つけて、2人以上が評価している店に行ってみるなど、自分なりの基準をつくるのも手です。


 なるほど、「行ってみたい店についての、いろんな人の感想」を見る前に、まず、自分が良かったと思う店の感想をみて、自分と好みが合いそうな人を探し、その人をフォローすればいいのか。
 「平均点」よりも、「自分と好みが合う、信頼できる人」の意見を重視するほうが実用的というのは、わかるような気がします。
 「食べログ」の評価をみると、同じ店でも、評価する基準というのは人それぞれで、「得段が高い」というだけで低評価にする人もいれば、「隣の客が騒いでいたから減点」という人もいますし。
 「集合知」で、「間違いは少なくなる」かもしれないけれど、「自分にぴったりハマるもの」は、かえって見つけづらくなるところがあるんですよね。


 予想していたよりずっと渡部さんはストイックな「食通」(というのも変な表現ですが)なのだということがわかりましたし、気になる店も何軒かありました。
 考えてみれば、一生ものの「使える店」を一軒知ることができれば、新書一冊分の代金は、けっして高くはないよなあ。


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