琥珀色の戯言

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【読書感想】プロ野球 奇人変人列伝 ☆☆☆

プロ野球 奇人変人列伝 (詩想社新書)

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Kindle版もあります。

プロ野球 奇人変人列伝 (詩想社新書)

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内容紹介
ノムラが見た球史に輝く強烈キャラクター52人を選出! !


・徹夜で麻雀をして、球場入りするなり出番まで医務室で寝ている選手
・交代のためマウンドに来ようとする監督を、怒鳴ってベンチに追い返す投手
・財布を持ち歩かない、とんでもなくケチな選手
・素振りもせず、常に鏡の前でフォームばかりチェックしている不思議なバッター
・ラフプレーが日常茶飯事のケンカ野球の申し子
・野球の監督というより、軍隊の上官のようだった監督・・・など
球界に携わって60年以上の著者が、
アクの強すぎる名選手たちの、いまでは想像もつかないような
ド級の「変人伝説」を大公開!
日々、高いレベルでしのぎを削るプロ野球界の意外な一面が垣間見えてくる。


 野村監督、よくここまで実在の選手のことを書いたなあ、という感じです。
 紹介されているのは、最近の選手はほとんどおらず、野村監督が現役時代に一緒にプレーしていた選手が多いんですけどね。


 「チームプレー」が大事なはずのプロ野球も、いまから半世紀前くらいまでは、こんな「野球は上手いけど、人間性に問題がある選手たち」が我が物顔で主役をつとめていたのか、と驚かされます。


 金田正一さんの項より。

 日本球界で唯一の400勝を達成した人だけに、やはり普通ではないのだ。強烈に我が強く、頑固でわがままという面では、人を人とも思わないようなところもあった。
 国鉄時代のニックネームは「金田天皇」だった。4回までに味方が大量リードすると、自ら登板を志願し、人の勝ち星を奪うワンマンぶりは歴代監督も制御できなかった。
 金田さんが登板しているときに、監督がマウンドに行こうものなら、金田さんが「帰れ!」とマウンド上から監督をベンチに追い返すということが何度もあった。
 私が目撃したのは、浜崎真司さんが国鉄の監督のときだった。浜崎さんも選手時代は偉大な選手であり、尊敬を集めていたのだが、マウンドに向かおうとすると、金田さんは「コラーッツ」と一喝してベンチに追い返していた。こんな我の強い選手を見たのは、後にも先にも金田さんしかいない。


 400勝はすごいけど、この「4回まで大量リードしていると、登板を志願して人の勝ち星を奪う」って、ひどいよなあ。奪われるほうはたまらない。今のプロ野球でも、シーズン終盤で最多勝がかかっている、というような状況なら、1試合くらいはありえるかもしれませんが。
 今の時代にこんな選手がいたら「チームの和を乱す」ということで、飼い殺しにされるのではないかなあ。それでも、野球が上手ければなだめすかして起用するのが首脳陣の手腕、ということになるのでしょうか。


 また、毎日オリオンズ榎本喜八さんという天才バッターについては、こんな話を紹介しています。

 さて、晩年の榎本であるが、バッティング技術の向上にのめり込み過ぎ、また、酒も飲まない真面目な性格が災いしてか、年を経るごとに奇行が増えていった。
 南海時代に私も対戦したが、3割を打てなくなってきたころから、彼のノイローゼのような症状がグラウンド上でも出るようになっていた。
 南海の選手が一塁に出塁すると、ファーストの榎本が、「お前、明日死ぬぞ」と言ってくるのだ。だれか特定の選手が言われるのではなく、一塁に出塁した選手全員が、「お前、明日死ぬぞ」と榎本から言われるのである。みんな気味悪がって、榎本はどうしてしまったのだろうと心配したこともあった。
 聞いた話では、毎日オリオンズのチーム練習の際も、外野スタンドに座って、チームメイトをやじり倒したり、部屋に引きこもって、先輩の荒川博さんが説得しても出てこないというようなこともあったらしい。
 私が監督を務めた、1970年の甲子園球場で開催された日米野球のときも、試合中、榎本はダッグアウトのいちばん隅に座ったきり、まったく動かなくなった。しゃべらず、呼びかけても返事をせず、試合が終わってもそのままじっとしているのだ。仕方なく私は、そのまま帰ってしまったことがあったが、その後の榎本がどうなったのか、だれもわからないのである。


 榎本さんの場合は、「病院に行ったほうが……」と思うのですが、こういう裏話を知らないまま、みんな試合を観戦していたのです。

 実は、プロ野球界には、伝説的なケチの人たちの呼び名がある。東のケチの横綱と言われるのが森祇晶、西のケチの横綱が吉田(義男)さんだ。そして、「巨人三大ケチ」と言われるのが、森に加え、広岡達郎さん、牧野茂さんの3人だ。


 プロ野球界ではみんなが知っている話であったとしても、一般の人も読むであろう本で、これらの人たちを名指しで「ケチ」と言い切ってしまう野村克也さんって、すごいですよね。
 野村さんは「人気チームの選手にはタニマチへのたかり体質みたいなものが染み付いていることが多い」とも仰っています。
 こんなの書けるのは、野村さんだけではないかと。
 それと同時に、この「巨人三大ケチ」は、データ野球や緻密な采配で知られる、名将と呼ばれる人たちでもあるんですよね。


 野村さん自身も、ズケズケものを言うため、ずっと球界のアウトローであり、野球解説者時代にヤクルトの相馬オーナーに見初められて、監督に就任しなければ、名将として活躍することはなかったのです。
 ちなみに、当時のヤクルトの他の経営陣は、野村さんの監督就任に軒並み反対で、相馬オーナーの強い後押しがあって実現したのだとか。
 どんな才能も、見いだすひとがいればこそ。


 こんな野村さんですが、誰彼構わずネガティブなことを言っているのではないんですよね。
 これを読んでいると、野村さんに賞賛される選手というのは、本物の人格者なんだなあ、と納得せざるをえないのです。

 王(貞治)さんは特に、弱い立場の人への配慮を欠かさないところがあった。あるとき、王が新聞記者たちを連れて銀座に飲みにいったときのことだ。クラブで、記者のひとりが、専属歌手に曲をリクエストした。しかし、歌手が歌い出すと、記者らは、歌をまったく聞かずに大騒ぎしていたという。
 そのとき、王が、曲をリクエストした記者に詰め寄り、「お前がリクエストした曲じゃないか。ちゃんと聞けよ。失礼じゃないか!』と声を荒らげたという。王が珍しく怒った出来事だったが、クラブの専属歌手という弱い立場の人間への配慮や礼を欠かさない、王ならではのエピソードだろう。


 王さんは、野球選手としての力量だけではなく、その人間性においても、「すばらしい人」だということが伝わってきます。
 そんな人格者でも、ダイエーの監督時代は、なかなか勝てなくて、「王ヤメロ」という横断幕を掲げられたり、ファン(と言って良いのかは疑問ですが)に生卵を投げつけられたりしていたのですから、「人柄だけじゃ、評価してもらえない世界」ではあるんですけどね。
 

 多くの野球人が紹介されているので、ひとりひとりに割かれたページは少ないのですが、けっこう赤裸々なエピソードが紹介されていて、オールドファンには楽しめると思います。


幸運な男――伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生

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野村ノート

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