琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【映画感想】祈りの幕が下りる時 ☆☆☆☆

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あらすじ
滋賀県に住む女性が東京都葛飾区で殺され、松宮(溝端淳平)ら警視庁捜査一課の刑事たちが担当するが、捜査は難航する。やがて捜査線上に女性演出家・浅居博美(松嶋菜々子)の存在が浮かび上がり、近くで発見された焼死体との関連を疑う松宮は、その遺品に日本橋を囲む12の橋の名が記されていることを発見する。そのことを知った加賀恭一郎(阿部寛)は心を乱し……。

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2018年、映画館での3本目。
観客は僕も含めて30人くらいでした。


朝、ネットニュースで、阿部寛さんが台湾地震の被災者支援のために1000万円を個人的に寄付すると明言した、というのをみて、これは、いま上映中でやたらと評判が良いこの映画を観にいかなくては!と決意したんですよね。
予告編を観た時点では、「ああ、それなりに面白そうではあるけれど、TV版の延長みたいなものだし、DVDでよかろう」という感じだったのですけど。


news.livedoor.com


「ありがとうローマ人!」台湾でも愛されてる(そしてネタにもされてる)なあ、阿部さん。
この会見で地震の話をしたことに不快感を示した司会者への阿部さんの直言も人柄が出ていますよね。
司会者は司会者で、「それが仕事」ではあったとしても。


前置きが長くなってしまったのですが、この映画、最初のほうが、観ていて「地雷臭がした」のです。
冒頭、やたらと展開が早く、「しかし、その後、まったく捜査に進展はなかった」みたいなテロップで状況説明がなされていくので、「なんだこの『ナレ死』ミステリは……」、こんなのにみんな感動しているの?とか思ったのです。


でも、本編に入ってからは、ストーリーはかなり複雑怪奇かつさすがにそれは「わざとややこしくするためにやってるだろ!」と言いたくなるような登場人物の行動だらけではあるものの、演じている人々の存在感に、ぐいぐい引き込まれていきました。


このシリーズの最初に阿部寛さんが加賀恭一郎を演じると聞いたときには、いくらいま旬の俳優さんだからといっても、あの阿部さんの「濃さ」は、ちょっと違うんじゃないかなあ……と感じたのは遠い昔。
もう、阿部さんの加賀恭一郎じゃないと満足できない!
ミステリとしては、この物語の「トリック」でもある「橋の謎」は、ちょっと強引すぎる気はしますし、最後のあの人の行動は、「せっかくここまである人物がやってきたことが、そんなことしたら台無しじゃないか!」って思うんですよ。
しかしながら、そこに「親子の情」が絡むと「そんなことまでやってしまうのも、まあ、ありえる話なのかな」と納得させられてしまうところもあるのです。
単行本で活字として読んだときの「違和感」みたいなのを、人が演じることで消してしまうのが、すごい役者なんだなあ、とあらためて思い知らされます。
世界の中心で、愛をさけぶ』とか、本を読んだときには「なんだこの劣化村上春樹は……こんなのがベストセラー?」だったのが、長澤まさみさんが死にそうになったら、今よりはだいぶ強かったはずの僕の涙腺も大決壊でしたし。


僕も人の子として、そして親として、いろいろ考えずにはいられないのです。
人というのは、一度弱い立場に追い込まれてしまうと、助けようとしてくれる人もいるのだけれど、それにつけこんで、甘い汁を吸おうという人も群がってくる。そういう人たちも、また弱さを抱えてはいるのだろうけど、この映画で命を落とした人を僕なりに考えてみると、一人は殺されてもしかたない、と思うくらいの悪党、一人は微妙、一人はもらい事故というか、かわいそうとしか言いようがない、と感じました。
あと一人は、まあ、自決みたいなものだよね。ノーカン。
これは原作のときも同じことを考えたのですが、その「もらい事故の人」は、本当にかわいそうではあります。映像でみると、おせっかいっていうのはロクなことにならないな、という黒い感慨もわいてくるのですが。


あと、松嶋菜々子さんのヒロインをみていて、そういえば、昔、『古畑任三郎』で、松嶋さんが犯人役の回(EPISODE42/ラスト・ダンス)があったのを思い出しました。
この映画、その『ラスト・ダンス』とちょっと似ている感じがしたのです。
古畑任三郎もまた、「きわめて優秀なのに世渡りがあまりうまくない刑事」だったのですよね。


fujipon.hatenadiary.com



加賀恭一郎に対して、お父さんもお母さんも、「あの子の将来に期待している」という気持ちが伝わってくるのです。あの子のためなら、何でもやる、というくらいに。
加賀さんも、剣道で日本一になったし。


その一方で、加賀を捜査一課のエリートコースから離脱させ、10年以上も同じ場所に縛り付けてしまったのは「親への想いやこだわり」からでした。
両親のことがなければ、加賀の実力があれば、出世街道を驀進するか、捜査一課でもっと活躍していたのではなかろうか。
親の心子知らず、とは言うけれど、子の心も、親は知らない、想像することが難しい。
親としては「親たちのことなんかどうでもいいから、自分自身のことに集中しろ」なのだろうけど、子供の側は、そんなふうに割り切れるものではない。
人生というのは、親子というのは、難しいものですね。
ミステリとして、というよりは、そういう親子とか家族というものの喜びと哀しみが伝わってくる作品として、すごくよくできた映画だと思います。


僕は、困っている子供や若者の弱みにつけこむような大人にはなりたくないものだ、と心底思いながらエンドロールを観ていました。もちろん、それが他人の子供であっても。
そんな大人になりたい子供なんて、たぶん存在しなかったはずなんだよね。
でも、実際はそんな大人がたくさんいる。
本当に、人生というのは難儀だ。


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