琥珀色の戯言

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【読書感想】盤上の向日葵 ☆☆☆☆

盤上の向日葵

盤上の向日葵



Kindle版もあります。

盤上の向日葵

盤上の向日葵

内容紹介
実業界の寵児で天才棋士――。 男は果たして殺人犯なのか! ?


さいたま市天木山山中で発見された白骨死体。唯一残された手がかりは初代菊水月作の名駒のみ。それから4ヶ月、叩き上げ刑事・石破と、かつて将棋を志した若手刑事・佐野は真冬の天童市に降り立つ。向かう先は、世紀の一戦が行われようとしている竜昇戦会場。果たしてその先で二人が目撃したものとは! ?
日本推理作家協会賞作家が描く、渾身の将棋ミステリー!


 563ページもあって、けっこう厚い本なので(僕はKindleで読んだのですが)、これは読むの大変だな、と思いながら読みはじめたのですが、途中からは夢中になって、一気に最後まで読みきってしまいました。
 

 山中で発見された白骨死体は、なぜ、数百万円もする、将棋の駒を抱いていたのか?

 その謎とともに、将棋の世界、すべてを賭けた勝負に取り憑かれた男たちが描かれるのです。
 というか、正直なところ、この作品、ミステリとしては、意外などんでん返しがあるわけではないのです。
 性格は悪いが有能なベテラン刑事と元奨励会員だった若い刑事とのやりとりも、面白いのだけれど、途中からは、「これ、捜査の話、要る?」という気分になってきます。
 せっかく「元奨励会」という設定なのだから、この刑事と将棋との因縁、みたいなものがディープに語られていくのかと思いきや、単なる狂言回しにとどまっている感じです。
 本来はもっとこの刑事と容疑者のプロ棋士の関係を描くはずだったのかもしれないけれど、容疑者のプロ棋士のエピソードがあまりにも長く、そして濃厚になりすぎてしまったので、警察側のストーリーを大幅に省くことになってしまったのではなかろうか。
 

 いやほんと、ラストといい、「もうちょっとやりようがあったのではないか」と言いたくなる作品ではあるんですよ。
 こんなに面白い作品なのに、『このミス』では、9位にとどまっているのも、「人間ドラマとしては最高だけれど、ミステリとしては中途半端」だということなのかもしれません。
 現代の『砂の器』という書評をいくつか見かけたのですが、言い得て妙だな、と。


 この作品、なんというか、「普通には生きられない人間たちの、ヒリつくような世界」が、鮮やかに描かれているのです。
 ある登場人物の子供時代の話は、読んでいてつらくなるばかりだったのですが、彼は将棋に巡り合うことによって、人生を取り戻すことになります。
 「真剣師」として知られる小池重明さんを彷彿とさせるような男が出てくるあたりから、ストーリーは盛り上がりまくり、読んでいる僕もすっかりのめりこんでしまいました。
 僕がこの小説に惹かれるのは、将棋やゲームが好きで、僕自身もギャンブルに溺れてしまいがち(なのだけれど、完全に溺れることができるほど「真剣」でもない)人間なのだからではないかと思います。
 どうしようもない人間の「どうしようもなさ」に、なぜ、こんなに魅力を感じてしまうのだろうか。

「そういう意味じゃあ、将棋の世界は遺恨の塊だなあ」
「そうなのか」
 石破が意外そうに、徳田に訊ねる。
 王と玉、どちらの駒を上位者が使うか知らなかったくらい、石破は将棋に疎い。プロ棋士はもとより、プロ棋士の育成期間である奨励会の内幕は知る由もないだろう。
 徳田は手を伸ばし、煙草の灰を灰皿へ落とした。
「遺恨なんてひと言で片づけられる世界じゃない。妬み、嫉み、怒り、プライド、強烈な劣等感、人生の崖から落下するかもしれない恐怖が、ドロドロに煮詰まっているところだ」
 石破はなにか考えるように、徳田をじっと見ていたが、佐野に目を向けると半ば本気の口調で感心してみせた。
「お前、よくそんな恐ろしいとこにいたな」
「いえ、そんな——」
 そんな恐ろしい場所ではありません。反射的に否定しようとした。しかし、そんな——から先が、口から出てこなかった。


 プロ棋士が集まって研究会を開催し、コンピュータのデータベースを使うことが当たり前になっている現代の将棋で、「真剣師」(賭け将棋のプロ)がプロ棋士につけいる隙は無いような気はするんですよ。
 それでも、ここに描かれている「勝負の世界」は、ものすごく蠱惑的なのです。
 将棋好き、ゲーム好きには、たまらない作品ですよ、これ。


孤狼の血 (角川文庫)

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砂の器(上) (新潮文庫)

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砂の器(下) (新潮文庫)

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