琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】集中力はいらない ☆☆☆☆

集中力はいらない (SB新書)

集中力はいらない (SB新書)


Kindle版もあります。

内容紹介
――「失敗するのは注意散漫だったから」は本当か?
1日1時間労働の人気作家が明かす、発想力のコツとは?


私たちは「一つに集中するのはすばらしい」という思い込みにとらわれている。
「だらだら」「非効率」を排除しようとする風潮の中、
累計1600万部超の人気作家が提唱する「アンチ集中力」のすすめとは?
人間のもつ本来の力を発揮するには?
誰もいわなかった情報過多時代の<知的生産術>。
これから結果を出したい社会人から、大学生まで。
全世代におすすめしたい、常識のとらわれない頭の使い方を1冊にまとめました。


 子どもの頃から、「飽きっぽい」とか「集中力が続かない」と言われ続けてきた僕にとっては、すごく興味深いというか、もうちょっと早く読みたかった……と思う本でした。
 学生時代、ちゃんと聞いておかなければならない教授の講義とか、長いカンファレンスとか、ちゃんと睡眠もとって内容もそこそこ理解しているはずなのに、部屋が暗くなってスライドが流れていると、眠くなってしょうがない。集中しようと思えば思うほど、気が遠くなっていく、ということがよくあって、僕はつくづく集中力が持続しない人間なのだな、と悩んでいました。
 ネットで調べてみると、集中しようとすればするほど、かえって眠くなる、という人は少なからずいるみたいです。ナルコレプシー、という病気もありますし(僕はナルコレプシーではなさそうだけれど)。
 僕の場合は、体裁を整えるために、「他のことを考えたり、メモをとって手を動かすことによって、とりあえず居眠りを避けるようにする」ようにしていました。
 「適度に気を散らせる」とか「聴いているふりがうまい」とか、そういうのもまた、処世術ではありますよね。
 人間が本当に集中できる時間というのは40分くらいで、それに合わせて小学校の授業の1コマは決められている、と聞いたこともあります。
 面白い本やゲームなら、夢中になっていたら、いつのまにか1時間くらい経ってしまっていることを考えると、結局、興味がないことをやっているからなのかな、とも思うのですけど。

 そもそも、僕は「集中力」を全否定するつもりは毛頭ない。それどころか、集中力は大事だと思っている。ただ、説明が難しいのだが、全面的にそれを押し通すのはいかがか、という問題を提起したい。集中力は、みんなが持っている印象ほど素晴らしいものではない、少しずれているのでは、と気づいてもらいたいのだ。
 子供のときの僕は、大人が「やりなさい」と言ったことには集中していなかったが、少なくとも、自分がやりたいこと、自分が考えたいことには集中していた。これは、僕の「集中」であるが、一般的なやるべきことへの「集中」ではなかった。また、同じことを長くは続けられないけれど、僕にしてみれば、同じことをずっとしているよりも、沢山のことを少しずつでもやれば、その一つ一つについては集中できるし、しかも効率が良い、ということを感覚的に知っていたのである。何故なら、同じことをじっと長時間やらされると、僕はだらだらとしてしまうからだ。大人が「集中しなさい」というとおりにすると、結果的に「集中できない」状態になってしまうのだ。
 この感覚がわかってもらえるだろうか? 案外、多くの人が同じようなことを感じているのではないか、と僕は思う。


 僕の経験上も「集中しようと思うほど、眠くなってしまう」ということが多かったので、その感覚はわかるような気がします。


 森先生は、「やる気のコントロールは意識的にされていますか?」という編集者からの質問に対して、こうおっしゃっています。

森『そんなに気合いを入れるほどのことでもなく、毎日の習慣にしている、というだけです。やる気なんてものは、やり始めれば自然に出てくる。つまりエンジンがかかってくるものではないでしょうか。どうしても、前向きになれない、仕事や勉強が好きになれない、と言う人がいますが、後ろ向きのまま、嫌いなままやれば良いだけです。やらないと困ったことになるならばですよ。そうでないなら、やらなければ良い。
 やるやらないを、好きか嫌いかという問題にわざわざ置き換えなくても良いのです。どうして好きになろうとするのかの方が、僕には不思議です。自分を騙す必要はないのでは。
 この頃、子供に対して、楽しく勉強ができるとか、算数が好きになる教育とか、そんな子供騙しみたいなことをしようとしますが、楽しくない子や好きになれないと感じてしまった正直な子は、それができなくなってしまうのではないでしょうか。仕事も楽しさを求めようとしすぎるから、ちょっと辛いことがあると、これは私の望んでいた職場ではない、と悩んでしまう。勉強も仕事も、遊びみたいに楽しいわけがない。苦しいのが当たり前でしょう。人間は、苦しいでも、将来の利益のために行動ができる、ということをもう一度認識した方が良いと思います。
 ですから、僕の場合、まったくそういった「やる気」みたいなものを持っていませんので、コントロールするもなにもない。仕事をする動機というのは、賃金が得られるからですし、そうして得たお金で自分の好きなことができる、自由が手に入る、ということなのです。その原則が、すべてだとは言いませんが、大部分であることは確かです。


 これを読んで、僕はなんだか安心したのです。
 そうか、「好きじゃなくても、やらなきゃいけないからやる。それで良いんだよな」って。
 医療の仕事をしていて痛感するのは、給料に関しては比較的恵まれている一方で、他人の生死にかかわること(というか、「死」が多い)について宣告したり、汚物や血液まみれの現場で手を動かし続けたり、感染のリスクを負ったり、ときにはいろんな感情のはけ口になったり、夜中の呼び出しにも対応しなければならなかったりするのは、僕にとってつらい、ということなんですよ。たぶん、みんな濃淡はあれ、つらいはず(中には、そういうことに生きがいを見出している人もいるのも事実なんだけど)。
 でも、そういう「みんながつらいと思うようなことをやっている」からこそ、職業として成り立っていて、それなりの報酬を得られているのでしょう。
 誰もが簡単にできて、お金もたくさんもらえる、なんていうのは、まず「仕事」にはならない。
 スポーツ選手や芸術家は、もともと「好き」でやっていることではあるのでしょうけど、それで稼げるレベルになるのは、並大抵の努力では難しいし、競争も激しいのです。
 それに「好きだからやる」というのでは、「嫌いになったらやらなくてもいい」ということになってしまう。
 それよりは、「やらなければいけないことだから」嫌々でも続けてやっている人のほうが、安定した仕事ができることが多いはずです。
 もちろん、本当に嫌で嫌でしょうがない、このままでは生きるのがつらい、という状態に陥ってしまったら、やめてしまったほうが良いのですが。
 ただ、どこまでが限界か、というのは、当事者にとってはわかりにくいものではありますよね……


 森先生は、こんなことも書いておられます。

 今後、機械化がさらに進み、AIが人間に代わって多くの仕事をこなすようになる。仕事がなくなると危惧する声も多いが、仕事なんてなくなれば良いのではないか、と僕は考えている。機械に任せられるなら、任せれば良い。人間は今よりも自由になる。自由になったら、無駄な道草をして楽しめば良い。
 これまで、社会が人間に「集中しなさい」と要求したのは、結局
機械のように働きなさいという意味だったのだから、そろそろその要求自体が意味を失っている時代に差し掛かっているということである。


 森先生は、「せっかち」で、ものごとをじっくり進めるのが苦手だそうです。「もう少し落ち着いてじっくりと取り組みなさい」と子供の頃からさんざん言われてきたのだとか。
 

 たとえば、接着剤が硬化するのを待っていられない。塗装も完全乾くまえに手を出してしまうし、すぐ次のことをしたくなって失敗をする。急ぐから作業が不充分になり、どうしても雑な仕上がりになってしまう。
 これは、つまり一つの工程に集中できないというか、早く次の工程に進みたい、という欲求が強いのだろう。とにかく手っ取り早く終えるから、作業は人よりも速いものの、どうしても完成度が低い。それはわかっているのだが、自分としては、それで良いと思っていた。つまり、自分のために作っているのだから、たとえ人から褒められなくても、気にならない。
 僕にしてみると、じっくりとこの作業を続ければ、どうなるかがもうやっているうちにわかってしまうから、ある意味、完成形を見たも同然というか、シミュレーションの結果として、自分が到達できるのはそこまでだ、という「仮の終わり」に達してしまう感覚なのだ。それ以上やってもしかたがないから次に進みたくなる。
 子供のときなどは、完成の手前で投げ出した作品ばかりだった。


 そんな森先生は、作品の完成度を高めるために試行錯誤し、「我慢して時間かける」よりも、「作業のやりかたを変える」ことによって、工作の完成度を上げることにしたそうです。

 そういった体験を重ねてきた結果、僕が考案したやり方が、沢山の作品を同時進行で進める工作法だったのだ。たとえば、接着剤や塗料を使ったら、その作品からは一旦離れる。ほかの作品へ移る。そちらももちろん、やりかけのものだ。そこでまた作業を少し進める。キリの良いところまでは進めない。むしろ、キリの悪いところで中断し、さらにまた別の作品へ移る。
 このようにすると、接着剤は知らないうちに硬化しているし、塗料も乾いているので、全然待たずにすぐ次の工程に進める。結果的にじっくりとゆっくりと慎重に進めているのと同じことになる。


 自分はなんでこんなに「集中力」がないのだろう、と感じている人は、ぜひ一度読んでみてください。
 集中力の持続時間を高めるための修行をするよりも、いまの集中力でうまくやっていけるようなシステムを構築すればいい、ということなんですよね。
 森先生と同じことをやるのは、かなり難しいとは思うのですが、こういう発想の転換で解決、あるいは改善できる問題って、けっこうあるはずだから。


すべてがFになる THE PERFECT INSIDER S&M (講談社文庫)

すべてがFになる THE PERFECT INSIDER S&M (講談社文庫)

小説家という職業 (集英社新書)

小説家という職業 (集英社新書)

アクセスカウンター