琥珀色の戯言

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【映画感想】ちはやふる -結び- ☆☆☆☆☆

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あらすじ
瑞沢高校競技かるた部員の綾瀬千早(広瀬すず)と若宮詩暢(松岡茉優)が、全国大会で激闘を繰り広げてから2年。真島太一(野村周平)、綿谷新(新田真剣佑)らと共に名人・クイーン戦に挑む千早だったが、詩暢と戦えない自分の実力不足を痛感する。そんな中、千早たちの師匠・原田秀雄(國村隼)が史上最強の名人とされる周防久志(賀来賢人)に敗れてしまい、新が彼に挑戦状をたたきつける。その後3年生になった千早は、高校最後の全国大会に向けて動くが……。


www.chihayafuru-movie.com
注意:音が出ます!


2018年、映画館での8作目。
観客は40人くらいでした。


上の句、下の句はDVDで観たのですが、予想外に面白くて、原作漫画は未読にもかかわらず、この完結編は映画館で観ることにしました。
広瀬すずさんって、批判されることもあるのだけれど、華がある良い女優さんなんだな、とあらためて感じたのも、この『ちはやふる』だったんですよね。


fujipon.hatenablog.com


広瀬さんは「演技派女優」みたいな位置づけで、『怒り』や『海街diary』『三度目の殺人』と、複雑な背景や傷つけられる女の子を演じてきたのが印象的だったのです。
 でも、この映画のなかの広瀬すずさんは、こういう「ど真ん中のストレートな青春映画」のヒロインとして、本当に輝いていて。
 原作は未読なので、原作の千早のイメージと比べて云々、とは言えないのだけれど。
 『上の句』『下の句』と、この『結び』の間のエピソードをまとめた『ちはやふる -繋ぐ-』のDVDのメイキング映像をみて、この映画がすごく良い雰囲気のなかで、なおかつ、細かいところまで手を抜かずに作られている、ということも伝わってきました。


 そして、この完結編である「結び」なのですが……


 参った、これ、ある一点を除いて、ケチをつけるところがまったくない極上の青春エンターテインメント映画です。正直なところ、僕が高校生くらいのときに観たら、「なんで自分には、こんな輝かしい青春がなかったんだ……」と嫉妬してしまったのではなかろうか。
 野球とかサッカーとか、そういう体育会系の世界は、僕にとっては「もし自分がここにいたら……」と想像するのが困難な世界なのですが、「競技かるた」には、もしかしたら、運動音痴の自分にもこれ、できたのではなかろうか……とか、ちょっと考えてしまうんですよね。実際は反射神経とか「耳の良さ(劇中では「感じが良い」と表現されていましたね)」、体力だって必要なんでしょうけど。何気に「部活対抗リレー優勝!」とかいうのが部室に飾ってあって、「やっぱり体力も必要なんだよ」とアピールされていましたし。そうだよね、やっぱり、体力あっての集中力、という面もある。
 この映画には、「競技かるた」や「百人一首」への敬意も込められていて、中盤に出てくる、有名な二首が、ある歌会で直接対決して、さて、勝ったのはどっち?なんて話は、気になって仕方がありませんでした。家に帰ったら、絶対ググろう、と。


 新入部員の加入によって、物語が薄まるのではないかと思ったのですが、本当にこの映画の脚本はよくできていて、潔いくらいに「背景を伝えてはいるけれど、詳しくは描かない」ことを徹底しているのです。せっかく新入部員2人を入れたのだから、そのサブストーリーもやりたかったと思うんですよ。でも、あえてそうせずに、瑞沢高校競技かるた部全体の濃密な物語にしたのではなかろうか。
 ちばあきおさんの『キャプテン』みたいに。
 あらためて考えてみると、主人公のはずの綾瀬千早は、この映画の中で、「ただ、一生懸命にカルタに向き合っていた」だけなんですよね。そんな千早の傍にいるだけで、周りの人たちは影響されてしまって、生き方が変わっていく。ほんと、カリスマだよね、千早も広瀬すずさんも。
 こういう人に魅了されたら、人生って、楽しくて、けっこうややこしいものになるのだろうなあ。
 

 それで、ただ一点だけ、僕が納得できなかったところを書いておきます(ほんのりネタバレ)。
 

 真島太一、お前だけは絶対に許さねえ!!


 いくらなんでも、あのタイミングであれはありえない。
 受験も大事だろうけど、千早について、いろいろと思うところもあるのだろうけどさ。
 他のみんなとずっとやってきたことを一人で台無しにする資格はないだろさすがに。
 その後の瑞沢高校競技カルタ部の面々や千早の対応も「それでいいの?」としか思えませんでした。
 いや、ドラマとしては、マンガとしては、それで良い、そのほうが良いのかもしれないよ。
 僕も、日向小次郎かよ!って内心ツッコミを入れながら観ていましたし。
 でもさ、僕が瑞沢高校の部員だったら、「そりゃないよ」って思うよ。ズルいだろあれ。
 リスクを承知で、後輩に「継承」しようとしていたはずなのに、伝えたかったのは、そういうことなの?
 そもそも、その間の太一の状況を知らなかった他のメンバーにとっては、あれが「勝つためのベストの戦略」だとは思えないはず。怒れよお前ら!


 ……とか思うのも、僕自身、部活では全く活躍できない地味な存在だったため、縁の下の力持ち的な存在である、机くんや大江さん、西田くんを内心応援していたからでもあるのです。
 さっき、千早はただカルタをやっているだけ、って書いたのですが、この「結び」では、彼ら「脇役」たちの存在感がものすごく大きかった。大江さんとか、カルタ部で、千早のようなスタープレイヤーと恋愛体質の後輩の板挟みの中間管理職的な存在で、ほんと、大変だったと思うよ。


 いやほんと、この「ただ一点」を除けば、文句のつけようがない。
 あんまり恋愛寄りになっていないところも、僕好みです。
 周防名人もいいよね、ちょっと『DEATH NOTE』の「L」を思い出したけど。
 あの場に居合わせた受験生たちは災難だとしか言いようがないとしても。


 真剣さの中にも、笑えるシーンも散りばめられていて(というか、松岡茉優さん良い仕事するなあ。三谷幸喜さんが評価しているのもわかる!)、しっかり緩急もつけられています。
 

 これ、ぜひ多くの人に、シリーズを通して観ていただきたい作品です。
 でもなあ、やっぱり太一のアレだけは、僕は許せないなあ。ほんと、その一点だけ、なんだけどねえ。


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