琥珀色の戯言

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【読書感想】百貨の魔法 ☆☆☆☆

百貨の魔法

百貨の魔法


Kindle版もあります。

百貨の魔法

百貨の魔法

内容紹介
時代の波に抗しきれず、「閉店が近いのでは?」と噂が飛び交う星野百貨店。エレベーターガール、新人コンシェルジュ、宝飾品売り場のフロアマネージャー、テナントのスタッフ、創業者の一族らが、それぞれの立場で街の人びとに愛されてきたデパートを守ろうと、今日も売り場に立ちつづける――。百貨店で働く人たちと館内に住むと噂される「白い猫」が織りなす、魔法のような物語!


 2018年「本屋大賞」ノミネート作。


 ああ、「いい話」だ……
 歴史がある、そして、それだけに、時代の波に抗えなくなってきている老舗デパートで働いている人たちの「まごころ」の物語。
 読みおえて、こういう「優しい物語」は、いつの世の中にも必要なんだよな、と感じたのです。その一方で、「こんな良い人ばかりのデパートなんて、あるわけないだろ……そして、きっとこのデパート、誠実な商売をしている一方で、けっこう高いんだろうな……僕には縁がなさそうだな……」とか、考えてしまったところもあって。
 そもそも、これまで何度か書いてきたように、僕は「常連・お得意様扱いされる」のが大の苦手で、この星野百貨店の家族的なサービスには、「物語として読むには良いけれど、自分が実際にこういう雰囲気で仕事をしたり、接客されたりするのは重過ぎるなあ」とも感じました。
 商品をちょっと見たいだけでも「何かお探しですか」って、「親切な」店員さんが寄ってきて、「お似合いですよ」と、明らかに似合っていない商品を勧められ、リアクションに困る……そんなことを、つい想像してしまうのです。
 

 この小説を読むと、僕のなかの「子どもの頃よく行っていたデパートの思い出」がどんどん湧き上がってきました。
 屋上にあったゲームコーナーで、10円ゲームとか『国盗り合戦』とかをずっとやっていたなあ、とか、校則におびえつつ『スペースインベーダー』に100円を入れたものの、800点しか取れなくて「これで100円……」とがっかりしたこと、おもちゃ売り場で、「もう、今置いてあるのが最後です!」というのを聞いて、親に頼み込んで買ってもらったゲームウォッチの『マンホール』が、1か月後くらいにまた入荷していて「大人ってズルいな……」と思い知らされたこと。母親が服を選ぶ時間を本当に長く感じたよなあ。
 もう、そのデパートはとっくの昔に無くなってしまったのですが、今みたいに郊外型の巨大ショッピングモールができる前に子どもだった人は、誰でも、ひとつやふたつは「デパートの思い出」を持っているはずです。
 この本を読むことによって、そんな昔の自分のことを思い出す人も多いはず。
 

 そして、あらためて考えさせられるのが、人間にとって、モノを買うとか消費するっていう行為は、ものすごく日常的なものであり、特別なものでもある、ということなんですよ。
 人間はお金の奴隷になってしまった、と言う人もいるけれど、「何かを買う」というのは、人生の大きな愉しみだし、いまの日本で、何も買わずに生きていくことはできないのです。
 何をどこで買うか、というのは、どう生きるか、でもある。
「経済」って大事だよなあ、と、僕はこの年になって、あらためて感じています。

 
 たぶん、この星野百貨店のような老舗百貨店は絶滅危惧種だし、ごく一部の店を除いては、消えていく運命なのでしょう。
 それでも、こういう「思い出」や「受け継がれていくもの」は、あるんですよね。
 あの頃、あんなに当たり前で、そして、鬱陶しくさえ感じていた「丁寧な接客」っていうのが、今はもう、高級百貨店だけの「とびきり贅沢なもの」になってしまったということに気づかされる作品です。
 奇跡や魔法があるかどうかは僕にはわからないけれど(正直、たぶん無いと思っている)、奇跡や魔法を信じる人たちも生きやすい世の中であってほしい、そんな気持ちになりました。



桜風堂ものがたり

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