琥珀色の戯言

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【読書感想】父・横山やすし伝説 ☆☆☆☆

父・横山やすし伝説

父・横山やすし伝説

内容紹介
横山やすしがラジオ「漫才教室」に初出演したのが、1958年1月。ちょうど60年がたちました。
このタイミングで、父についてまったく語ってこなかった息子の木村一八が、父について初めて本を書きます。
彼が知っている父・横山やすしは、人々が知っている横山やすしとはまったくの別人。
家で子どもに手を上げたことはたった一度だけ。家では非常にやさしい男だったのです。
さらに、一八だけが知っているエピソードも満載。一八が聞いたやすしの最後の言葉は「愛人の面倒をよろしく」だった。
さらに愛人と本妻との直接対決の場面でとった横山やすしの驚くべき行動とは。
誰も知らないその矛盾に満ちた横山やすしの生涯が初めて明らかになります。


 横山やすしさんが亡くなられたのは、1996年1月21日ですから、もう22年も経つんですね。
 漫才ブームが起こった1980年、横山やすしさんは36歳、相方の西川きよしさんは34歳。当時、ツービートとして活躍していたビートたけしさんは34歳、タモリさんは35歳だったのです。
 そうか、やすしさんは、たけしさんやタモリさんとほぼ同世代なのだから、存命だったら、まだまだ活躍していたかもしれないんだな……
 とはいえ、横山やすしという人が、70歳を過ぎて、好々爺になっている姿も想像しがたいものがあるのです。
 僕の世代にとっては、尾崎豊が生きていて、「あの人は今」に出演して、懐かしそうに『卒業』を歌う姿が「ありえない」のと同じように。

 
 息子の木村一八さんからみた「横山やすし」の中には、みんながイメージする、ボートと女性と芸に狂った男と、そういう「破天荒な芸人・横山やすし」を演じている男が共存しているようにみえます。
 こんなお父さんだったら、グレるだろ……と思った直後に、木村一八さんの「自称・武勇伝」の数々を読み、結局のところ、子どもの「生きざま」というか「価値観」みたいなものは親の影響を受けやすいものだし、一八さんは、一八さんの「正しさ」を貫いて生きてきたのだな、と感じました。
 この親子の「正しさ」というのは、僕の価値観とは相容れないものではあるのです。
 でも、一八さんが、とくに美化することも、露悪的にでもなく、「自分が見てきた、横山やすし」を語っておられるのは伝わってきます。
 

 こんな風に言うと、やっぱり親父は破天荒な人物だと思われてしまうが、実際はぜんぜん違う。確かに、親父は芸人だったから、一般の人とは違う。しかし、僕から見れば、親父は根暗だったし、酒だって弱かったし、暴力だってほとんど振るったことがない。お母さんの啓子さんのほうが、手が早かったくらいだ。
 だから、親父が外で見せる姿と家族に見せる姿はまったく違っていた。このことは、この本で一番言っておきたいことだ。もちろん、親父は一般人の常識から、かけ離れた世界で生きていたから、子どもにとっても驚くようなこともいっぱいあった。もちろん、そのような驚くエピソードも言い残しておこうと思う。それも親父・横山やすしだからだ。


 この本を読んでいると、横山やすしという人は、常識にとらわれない人だったのか、感情や愛情の表現があまりにも不器用だったから、結果的に「破天荒な私生活」だと思われていたのか、よくわからなくなってくるのです。

 寂しがりやの親父はとんでもない”心配しい”でもあった。実際、序章で語った光(やすしさんと啓子さんの娘で一八さんとは腹違いの妹)の朝礼のときもそうだし、トイレの戸を閉めさせないのも、子どもの姿が見えなくなるのが心配だったというのもある。
 親父は、僕が小学生のとき、修学旅行先に来たことがある。それも広島県の宮島だ。
「よっ! 一八、元気か。ちょっと通りかかったんで来たったわ」
 そんなことあるかよ。宮島だ。確かに競艇場はあるけど、わざわざ来たに決まっている。普通の親は修学旅行先なんかに来ない。僕が心配で見に来たんだ。
 ちなみに、このとき、親父は、僕に白いスーツを着て修学旅行に行くように言った。真っ白いスーツだよ。いくらなんでも派手すぎる。でも親父の指示は絶対服従。修学旅行中、僕は白いスーツに身を包み、どこに行っても、目立って目立って仕方がなかった。
 妹の雅美は、学校の行事用にチャイナドレスを買ってもらったという。そのとき、親父に服を買ってもらった雅美はうれしくて学校に喜んで着ていった。しかし、友達の目が点になっている。そりゃそうだ。赤のチャイナドレスだもん。雅美は二度とその服を着ていない。愛人へのプレゼントじゃないんだから、子どもにチャイナドレスはないでしょ。
 しかし、親父は、僕や雅美に、もちろん光にも服を買ってあげられるのがうれしかった。着てもらえれば、大ハッピーだ。そんな親父だった。


 こんな話を読んでいると、白いスーツやチャイナドレスっていうのはありえないよな、という感じなのだけれど、やすしさんと同じくらいの世代で、同じように家族への愛情表現が下手くそだった僕の父親のことも思い出すのです。
 なんでもお金で済まそうと思って!なんて僕も反発していたのですが、自分が大人になってみると、家族が生活に困らないように稼ぎ続けるというだけでも、けっこう大変なことなのだよね。
 そして、僕の親世代(いま70代くらい)は、その父親から、マイホームパパ的な愛情を受けたこともなくて、自分がどうすれば良いのかわからず、ずっと戸惑っていたような気がします。
 子供にとって、親が子どもに接する姿勢って、常に「時代遅れ」なんだよなあ。
 横山やすしさんを「一般論の枠」に含めてしまうべきではないのかもしれないけれど。

 

 もうひとつ親父の知られていない側面がある。それは根暗だったことだ。家ではほとんどしゃべらなかったし、テレビもつけてはいけなかった。親父がいるときにテレビをつけると怒られる。
 親父は自分を世界一の芸人だと思っていたから、わざわざ日本の芸人をテレビで見て、何かを学ぶ必要はなかった。家では漫才の練習姿も、努力する姿も見たことがない。見たのは机に向かって何か原稿を書いているところだ。黙々と書き続ける姿は、子ども心に「親父は根暗」という印象を植え付けてくれた。


 芸人さんには、「テレビに出ているときのテンションの高さと日頃の姿が全然ちがう」という人は、少なくないようです。というか、僕が聞いたことのある範囲で、テレビの前もプライベートも同じようにふるまっているのは、明石家さんまさんくらい。逆に、さんまさんのほうが「怪物」なのかもしれません。
 

 親父は、謹慎が解けて、西川きよしさんの成長もあり、「MANZAI」ブームに乗って、一躍、スターダムに駆け上がった。しかし、一方で破天荒の性格を世間に見せていた。ここで少し、親父の破天荒振りを木村(政雄・吉本興業で、やすしきよしの元マネージャー)さんに聞いてみたい。
「やすしさんは、ボートのために仕事現場に来ないというのは、普通にありました。やすしさんは私の取ってきた仕事は、ふたつ返事です。『木村が取ってきた仕事なら出る』という感じです。一方、きよしさんは違います。ギャラは、待遇は、内容はと、こと細かく聞いてきます。
 だけど、きよしさんは約束した仕事には必ず来てくれます。一方やすしさんは約束はしてくれるけど、来てくれないこともあるのです。
 あるとき、病気で来られないと連絡があったのですが、次の日の新聞を見たら、ボートに乗ってピースサインをしているやすしさんが載っていました。うそをついて岡山のボートレースに出ていたのです」
 親父の破天荒さは、こんなものではない。
「やすしさんの、表面に出ていない小さな事件はいっぱいありました」
 もちろん、木村一八、僕自身もそんなものいっぱいあったけど。
「ただ、私はそれもありかな、と思っていました。事件といえるようなものではなく、本当に小さなことでした。酔っ払ってからんだとか。
 まあ、それも含めての横山やすしだと思っていました。それに、その小さなことを大阪の新聞はドーンと大きく載せてくれます。
 大阪のスポーツ紙は、阪神か吉本ぐらいしか、売れるネタがありません。大したことでもないのに、『横山やすし、また暴れる!』なんて1面で書いてくれます。これは不謹慎ではありますが、ある意味でいい宣伝になると思っていました。やすしさんネタは、大阪の人が面白おかしく話せるネタなのです」
 ただ、木村さんの話に付け加えれば、この親父の破天荒ネタが、東京の新聞になると、いつの間にかリアルな事件になってしまう。大阪のノリを東京の人はなかなか理解できない。大阪の人が、「また、やっさんが、誰か小突いたみたいやねん」、「またかいな。こりんなあ」と笑ってネタにすることが、東京では暴力事件になってしまう。これが難儀だった。


 東京と大阪での世間の反応って、そんなに違うものなのか……今ではどうなのだろう?
 やすしさんの「破天荒」は、いまだったらネットで拡散されて、一発退場になりそうです。
 大阪だったら許される、というか、大阪の人たちが求める「横山やすし像」を演じていたところもあったのかもしれませんね。
 やすしさんが有名になり、全国的に知られたことによって、あるいは、時代の変化とともに「芸人・芸能人にも、以前より厳しい規範の遵守を求められるようになった」ことで、やすしさんのような芸人は、生きづらくなってしまったのも事実なのでしょう。
 ビートたけしさんは『フライデー襲撃事件』を起こしたあとも、謹慎を経て復帰し、いまでは「聖域」みたいになっていますよね。
 このふたりを分けたのは、いったい、何だったのだろうか。


 僕には横山やすしさんや木村一八さんの価値観は受け入れがたいのですが、これは、「時代の証言」として、貴重な内容だと思います。
 木村一八さんの顔、お父さんにすごく似てきたな……


fujipon.hatenadiary.com

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