- 作者: 佐藤雅彦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/09/20
- メディア: 単行本
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内容紹介
バザールでござーる、だんご3兄弟、ピタゴラスイッチ、0655……。
30年間、表現と教育の分野で、「伝える」方法を追究し続けてきた著者。そのマイルストーンとなる1冊。
50数点の作品と解説エッセイで、「分かる」ことの喜び、楽しみを体感する本。「分かる」とは、人生が広がることだと実感できます。
「頭がいい、と思う人を挙げてください」と問われたら、僕が真っ先に思い浮かぶのが、この本の著者の佐藤雅彦さんなんですよね。
佐藤さんは「バザールでござーる」「ドンタコス」などのCMや『だんご3兄弟」の作詞、プレイステーションの『I.Q. インテリジェントキューブ』などのゲームに『ピタゴラスイッチ』と、数々の記憶に残る仕事をされてきているクリエイターなのです。
著書にも、「いま、そこにあるもの」を違う角度からみてみる、というのをわかりやすく書かれていることが多くて、毎回唸らされるのです。
この「新しい分かり方」、書店でみかけて、けっこう大きくて値段が高く、写真の多い本だなあ、と思いながら購入しました。
最初に出てくるのは、ビーカーの水に沈んだ卵と食塩が一杯に入った容器。
見開きの隣のページには、水に浮かんだ卵と、食塩が減った容器。
説明文はまったくないのですが、これを見ただけで、「何が起こったのか」というストーリーを、多くの人は組み立てることができるはずです。
普段はほとんどそういう機能の凄さについて意識することはないのだけれど、こうしてあらためて実例を提示されてみると、人間の「あいだを埋める能力」というのは、けっこうすごいものがありますよね。
コンピュータはすごいスピードで進化してきているけれど、この能力に関しては、まだまだ人間には及びません(そのうち、追いつかれてしまうのでしょうけど)。
この本には、そういう、何気なくやっているけれど、あらためて考えてみるとけっこうすごかったり不思議だったりするプロセスやルールみたいなものを丁寧に写真や絵、あるいは文章で示しているのです。
Q.ここで、突然ですが、この本を使ったクイズを出します。
いたずら好きな誰かが、あなたの大事なこの本のページを何十ページもビリビリと破りとったとします。
このページ(125ページ)から始まり、連続して破りとられたのでした。
破りとられた最後のページの数字は、このページと同じ数字が異なる順序で並んでいました。
さて、破りとられた最後のページは何ページでしょうか。
ちなみに、この本は全部で265ページあって、この125ページは見開きの左側にあたります。
1、2、5という数字の組み合わせはそんなにたくさんあるわけではないので、総当たりでも答えは出せると思いますが、その「理由」もちゃんと説明できますか?
これ、「偶奇性」の問題だそうで、この言葉だけでも、分かる人にはすぐ分かってしまうかもしれませんが。
僕自身、最近、ネットをやっていても、自分の枠のなかで物事を判断してしまいがちだな、と、ふと思うことが少なくないのです。
年齢のせいかもしれないし、ネットでは、どうしても、自分に近いものばかりを周りに置きがちになります。
佐藤さんは、民放のクイズ番組に出演していたNHKの気象予報士の女性と司会者とのこんなやりとりを紹介しています(佐藤さんは、派手なセットのなかで清楚な佇まいのその人に、痛々しささえ感じた、と仰っています)。
その番組の進行役の芸人が、普段は出演するはずもないそのきちんとした人をいじりだした。
「NHKとかに出ていると、言ってはいけないことも、たくさん、あるんじゃないですか?」
「そうですねぇ……」
その進行役は、それを聞いて、しめたと思ったのだろう。畳み掛けて、質問を投げかける。
「どんなことが、NHKでは言えないんですか?』
普段は扱えないNHKの内情を、面白おかしく聞き出してやろうという魂胆が感じられた。
「実は、私、天気予報のコーナーを担当させていただいているのですが、例えば、いい天気になります、とは言えないんですね」
「えー、なんでですか。いい天気、みんなうれしいじゃないですか」
「そうですねぇ、確かに、晴れれば、旅行はいい天気かもしれませんが、雨を望んでいる、農業をやっている方たちには、一概に、晴れはいい天気とは言えないんですね。だから、私たちは、明日はいい天気になるでしょうとは、言わないんです」
私は、そのスタジオが一瞬、静まったように感じた。その予報士の回答は、出演者や制作者たちの背筋まで一瞬伸ばしたようであった。
佐藤さんは、多くの人は「受け手に自分と同じ解釈基準を期待して、情報を送っている」と述べています。
でも、受け手の立場や解釈の基準は、必ずしも自分と同じとはかぎらない。
相手が「わかってくれない」のは、置かれている状況や解釈の基準そのものが違うことが原因なことが少なからずあるのです。
その前提を意識せずに、相手を「話がわからない人」だと決めつけてしまっては、いつまでたっても、コミュニケーションはうまくいかないのです。
佐藤さんの話を読んだ直後は、そう思うのですけれど、日常において、こういう意識を持ちつづけるということは、かなり難しいと思うんですよ。
だから、この本は、小学校高学年とか中学生に読んでみてほしいし(文章はちょっと難しいかもしれないけれど、写真だけでも得られるものは多いだろうから)、大人も、手元に置いて、ときどき眺めてみると良さそうです。
「今まで、自分はわかっているつもりで、わかっていなかった」ということを実感させられる貴重な一冊だと思います。
- 作者: 佐藤雅彦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2004/03/01
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