- 作者: 吉田勝次
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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- 作者: 吉田勝次
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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内容紹介
狭い、暗い、死ぬほど危ない……それでも洞窟に入るのはなぜなのか? 話題の洞窟探検家が、未踏洞窟の探検や世界中の洞窟を語る。洞窟写真の美麗カラー口絵付。
洞窟探検か、なかなか面白そうだな……でも、僕は子どもの頃、秋吉台の秋芳洞で「幽霊滝」というプレートを見て、怖くなって入り口までダッシュで出ていった記憶があるんですよね。
ましてや、ここで紹介されている洞窟は、そんな観光用に整備されたものではなく、狭い場所を這って進まなければならなかったり、高いところから、命綱をつけて下り続けなければならなかったり。さらには、水中を経由しないと行けない場所、なんていうのもあって、読んでいるだけで過呼吸になりそうでした。
インドア派の僕は、冒険・探検もののノンフィクションが大好きなのは、自分にはできないことへの憧れ、という要素が大きいのです。
それにしても、この本の著者の吉田勝次さんは、すごいバイタリティだな……
巻頭に収められている、洞窟内の幻想的な光景は、一度この目で見てみたい、と思うのだけれど、洞窟内には光全くないので、機材を持ち込み、ライトをセッティングして、大きさがわかるように写真のなかに人が入るようにして、ようやく撮られた写真なのです。
洞窟で泥まみれ、水浸しになり、生命の危険にもさられながら撮影した洞窟内の写真を、こうして本やネットで眺められるというのは、それはそれで幸せなことだよなあ。
グーグルアースで誰もが気軽に地球上のあらゆる場所を見られる時代に、誰も知らない、グーグルアースにも写らない世界、それが洞窟なのだ。「こんな空間が地下に広がっているのか!」と多くの人を驚かせたい一心で、僕は洞窟の写真を撮影している。
著者は、今の時代、グーグルアースで見ることができないのは洞窟の中か深海くらい。深海に行くのは潜水艇のような乗り物が必要だから、洞窟というのは、人間が生身で行ける唯一の未踏の地なのだと仰っています。
この本のなかで紹介されている、洞窟探検の実際の様子を読むと、こんな大変な思いをしてまで、洞窟探検をするなんて、好事家だなあ、と感じるのですが、世界には、けっこうたくさんの同好の士がいるそうです。
国の天然記念物でもある秋芳洞(山口県)、世界遺産のカールスバッド洞窟(アメリカ)やフォンニャ洞窟(ヴェトナム)などのいわゆる観光洞窟には一年中、大勢の人が訪れる。訪れれば、きっと人それぞれ、洞窟の何かに心が動かされると思う。
しかし、同じ洞窟に入る行為でも、こうした観光洞窟の奥の観光化されていないところや、まだ誰も入ったことのない未踏の洞窟に入るようなものこそが「洞窟探検」であり、これは日本ではまだあまり馴染みがないが、海外とくに欧米では「Caving ケイビング」というアウトドアスポーツとして人気がある。中でもフランスは、もっとも盛んな国として知られている。
さらに洞窟探検は、スポーツ的な面からだけではなく、学術的にも興味深いものである。昔の人の住居跡や絶滅した生き物の化石が残っていたり、目の前の生き物がその洞窟だけの固有種だったりもする。考古学、地質学、地理学、水文学、古生物学、生物学、人類学など多種多様な学問と密接な関係にあるのだ。ただ穴の中に入って帰ってくるだけではなく、入れば何かしら発見があるのである。
洞窟探検には、人が足を踏み入れたことがないところに行く、という喜びだけではなくて、学術的な意義もあるのです。
それだけに、著者たちのグループでは、洞窟の中を荒らさない、というのを徹底していて、排せつ物も、大小を問わず、すべて持ち帰ってくるそうです。
ちゃんとしているんだなあ、と感心してしまうのですが、自らの(あるいは仲間の)排泄物を狭くて自由に動けない洞窟内で運ぶというのは、この本でその様子を知ると、なんというか、悲喜劇、という感じではありますね(読む側としては、けっこう面白かったのですが)。
さて、そんなわけで荷物を背負って山を登って洞口に着くと、早くも達成感を感じて油断する人がいる。それで「えー、こんな穴に入るんですかー」とはしゃいで安易に洞口を覗き込もうとする人もいる。これが一番危ない。
洞窟で最も事故が起こりやすいのが竪穴の洞口で、死亡率がいちばん高い。まず、入口なので明るく、安心感があって油断する。洞窟に入る前にごはんを食べたり、仲間としゃべったりしているうちに、「どんな洞窟だろうねー?」とふらふらっと洞口に近寄っていったりして、そのまま穴に落ちてしまうのだ。
穴の底までは、何十メートル、洞窟によっては何百メートルもある。洞口は洞窟で一番高い場所だから、一番危険な場所なのだ。また、洞口のまわりの岩や土はどても崩れやすいということもある。だから、体をロープで確保せずに洞口の縁から2メートル以内に近づいてはいけない、と僕はみんなに言っている。自然洞窟の洞口のまわりには、安全のためのロープは張られていない。自然の洞窟に入るときは常に油断禁物なのだ。
『ドラゴンクエスト』のようなRPG(ロールプレイングゲーム)では、ダンジョンの入口付近のモンスターは弱くて、奥に進むにしたがって敵が強くなっていくのですが、自然の洞窟探検は「入口がいちばん危ない」そうなのです。
もし未知の洞窟の入口を見かけることがあったら、御注意ください。
そんな機会がある人は、そんなにいないだろうとは思うけど。
洞窟探検を行っていくためには、勇気や好奇心、大胆さとともに、危険をちゃんと認識できる、適度な恐怖心や、いざというときに困らないように、使う道具をふだんから整理しておく几帳面さ、ピンチになっても、すぐにパニックに陥ることなく(あるいは、短時間で立ち直り)、生き残れる可能性が最も高い行動をとれる冷静さなどが求められるのです。
そんなにハードルが高いのか!と驚くくらいなのですが、洞窟の中で、狭い空間に身体がハマってしまい、身動きがとれなくなったときの話を読んでいると、「これは僕には無理だ……」と思いました。
「誰でもみんな著者のような洞窟探検ができる」と言いたい本ではなくて、「洞窟探検の楽しさと怖さ」をちゃんと説明して、それでも興味を持ってくれる人には薦めたい、というスタンスなんですよね。
それは、すごく誠実な姿勢だと感じました。
ここまではちょっと、という人には、比較的安全な、ガイドさんがついてきてくれる「洞窟探検ツアー」もありますし。
話は少し脱線するが、火山洞窟が月面にあることが近年の研究で明らかにされつつある。月の表面に陥没孔の竪穴や、連なって分布するクレーターがあり、それらの地下には火山洞窟がある可能性が高いという。大きな火山洞窟は幅数百めーとる、高さ数十メートルという試算もあり、将来的に人が月面で活動する際の天然基地としても期待できるそうだ。このニュースを知ったとき、「人類未踏の月の洞窟に行きたい」という気持ちが爆発して、すぐに「月の洞窟探検には、ぜひ吉田勝次を指名してください!」とNASAへ熱いメールを送った。二回送ったのだが、未だ返信はない……。
僕と同じように「川口浩探検隊」を観て、「探検」に憧れた人が、いつか、月の洞窟を探検する日が来るかもしれないと想像すると、なんだか少し元気が出てくるのです。
- 作者: 吉田勝次
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