琥珀色の戯言

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【読書感想】行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
きっかけは、八年前。当時は海外に興味なんてなかったし、危ないというイメージの方が強かった。ところが、突然親友のリッキーがフィリピンへ行ったきり、消息不明に…。そこから始まる、おれの冒険譚。エジプトの砂漠を渡るべく、ラクダ飼いの見習いになったら死にかけたり、モロッコを横断するため、変態ロバや番犬の子犬、小猫や鳥たちと行商したり…。行方不明の親友を探しに海外へ…からの大冒険!


 「冒険・探検もの」が大好きなこともあり、すごく面白かった!
 正直、最初のほうは、著者のノリについていけない感じがしたり、同性愛者に襲われそうになった話にネタ的に出てくる「ホモに脱がされる」という言葉に、これ、今だとポリコレ的によろしくないのでは……と引っかかったりしていたのです。
 しかしながら、読んでいくうちに、動物たちとのモロッコの旅、というか、著者の動物たちへの愛情と誠実さに圧倒されてしまいました。
 ああ、僕がいままで飼ってきた動物たちにいまひとつ愛されなかったのは、僕の愛情が欠けていたからなのだろうな……と反省しながら読んでいたのです。


 著者の春間豪太郎さん、すごい人なんですよ。
 著者の紹介には、こんなふうに書かれています。

大学を休学して行った海外ではスラム街に入り浸り、ヒッチハイクや野宿などを繰り返して危機管理能力を高める。国内では歌舞伎町や難波、祇園で客引き系の仕事をして交渉スキルを磨く。また護身用に、師と仰ぐ人物からキックボクシングを教わる。フィリピンのナイフ術も身につける。


 英語にフランス語が使えて、スペイン語アラビア語も少しは話せる。
 現地で短期間に身につけたそうなのですが、現地の人に溶け込む能力といい、高野秀行さんを彷彿とさせます。
 ロバが引く荷車を自分でつくったり、さまざまな道具を工夫したりといった器用さもある。
 

 実はおれは交渉が好きだ。以前は経験を積むために歌舞伎町や難波、京都祇園で客引き系の仕事をやっていたことがあり、特に歌舞伎町ではトップになったことがあるので自信もある。交渉は、相手の言動や仕草を分析することで相手の心中を見極め、適切なタイミングでぎりぎりの値段を提示する競技だ。ゲーム感覚で楽しめ、奥が深くて癖になる。


 著者のさまざまなスキルの高さと危機に対する対応力に驚かされるのです。すごいスキルの持ち主だな、って。
 この人が起業したり外交官になったり営業職についたりすれば、きっと大成功すると思う。
 でも、著者は、このものすごい能力を「モロッコを野宿しながらロバ・犬・猫・鳥たちと旅をすること」のためにフル活用するのです。
 なんかもったいない……僕だったら、もっと「役に立つ」ことをやるのに……というか、世の中のためにも、もったいないような気がする……


 ……と言いたいところなのですが、そんなすごい人が、地位や名誉やお金のためじゃなくて、自分のやりたいことをやっていることが面白いんですよね。
 まあしかし、人間の興味とかモチベーションというのは、ままならないものではありますね。


 僕はモロッコという国には行ったことがありません。
 イスラム圏は、なんとなくコミュニケーションしづらいのではないか、というような先入観もあります。すぐに絨毯を売りつけられるのではないか、みたいな。
 しかしながら、著者が旅をしているあいだ、モロッコではたくさんの人たちが親切にしてくれるのです。きっと著者は冒険の話も上手い、魅力的な人だと思うのですが、「旅人を丁重にもてなす文化」が残されてもいるんですね。
 都会や「ヨーロッパの高級住宅街を模した街」では邪険に扱われることもあったようです。


 著者は、「海外でヒッチハイクを安全に成功させるためのコツ」を、こう書いています。

 一番大事なのは、車に乗っている人間の見極めだ。あまり頻度は多くないが、「悪い人間」の乗った車が来てしまった場合は、多少強引にでも理由を付けて乗車拒否をしなければならない。少し気まずいが、これを躊躇してしまうと、後でとても面倒なことになる。海外でははっきりと意思表示をすることが非常に重要だ。


 僕自身は、海外で(たぶん国内でも)ヒッチハイクをする機会はないと思います。
 でも、「せっかく停まってくれたのだから」みたいな情に流されて、不安を感じつつもなりゆきに任せてしまうようなことは、してはいけない、というのは、ヒッチハイクに限ったことではありません。
 乗せてくれる車を探すコツ、ではなくて、停まってくれた車でも、危険を感じた場合には乗らない勇気と慎重さについて、旅の達人が語っていることには、意味があるはずです。


 旅をしていくうちに「たくさんの動物と荷車を引いて旅をしている男」はモロッコで話題となり、著者は現地ではかなりの有名人になりました。

「こんにちは。あなたと写真を撮ってもいいかしら?」
 キャラバンが珍しかったんだろうと思い、快諾してから荷車が写真に写るように移動しようとすると、女医はそれを制止してそのままおれと二人で写真撮影をした。
「あれ、荷車を撮らなくてもいいんですか?」
「荷車も素敵だけど、私はあなたに会いたかったの! あなた、砂漠から来たんでしょう?」
 ……なぜ知っているんだろう。不思議に思い尋ねると、女医は笑いながらこう言った。
「あら! あなた知らないのね! あなた今、この国ではかなりの有名人なのよ? あなたの情報や写真は、フェイスブックの友達の投稿やモロッコの旅行写真のコミュニティで何度も見たわ。ロバや動物たちと旅しようなんて素敵ね! 私たちに手伝えることがあれば何でも言ってね!
 ……そういえばアズロワを出てからフェズに着くまでの間に、全く知らない人が車から「GO!」とか、「モカ!」とか叫んでくることがあった。その時は聞き間違いだと思って無視していたが、あれは本当におれのことを知っている人が声をかけていたのかもしれない。アズロウで金を稼ぐために写真を撮られまくっていたせいだろうか。なんにせよ、獣医さんたちが協力的になってくれているようなのでありがたい。


 マスメディアが伝えたり、スポンサーがついていたりしなくても、SNSなどの「口コミ」を通じて、多くの人に知られる時代だということを、あらためて思い知らされます。モロッコの砂漠を旅していても、こんな感じなんだなあ。


 このモロッコの冒険の章、僕は著者がともに旅をしていた動物たちのことを書いたところばかり覚えているんですよ。
 世の中には、こんなに自分と一緒にいる動物たちを愛することができる人がいることに、正直驚きました。
 もちろん、ロバは荷車を引っ張ってくれるし、鶏は卵を産んでくれる、猫は孤独を癒してくれる、といった、それぞれの役割はあるのですが、こんなに「仲間」に優しい冒険家って、僕は他に知らないのです。
 冒険を成し遂げるために、ともに旅をしてきた動物たちに、冷酷な対応をしなければならない状況もあるし、それができるのも冒険家の資質だと思っていました。
 地形や天候の障壁ではなく、「一緒に旅をしている動物たちのコンディションに右往左往することばかりの冒険記」っていうのは、なんだかとても新鮮だったんですよ。
 なかなか「何も心配事がない状況」は訪れないけれど、それでも、なんとか応急処置をしつつ前に進んでゴールを目指すっていうのは、身につまされるものがあります。
 ああ、「普通の人生」もまた、「冒険」なんだな。


極夜行 (文春e-book)

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