- 作者: 池井戸潤
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- 作者: 池井戸潤
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- 作者: 池井戸潤
- 出版社/メーカー: 講談社
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内容(「BOOK」データベースより)
走行中のトレーラーから外れたタイヤは凶器と化し、通りがかりの母子を襲った。タイヤが飛んだ原因は「整備不良」なのか、それとも…。自動車会社、銀行、警察、記者、被害者の家族ら、事故に関わった人たちの思惑と苦悩。「容疑者」と目された運送会社の社長が、家族・仲間とともに事故の真相に迫る。圧倒的感動を呼ぶエンターテインメント巨編!
堺雅人さんの「倍返しだ!」でお馴染みの半沢直樹シリーズや杏さん主演でドラマ化されている『花咲舞が黙ってない』、『下町ロケット』に『ルーズベルト・ゲーム』と、今をときめくヒットメーカー、池井戸潤さんの出世作とも言うべき作品です。
この作品、2006年下半期には直木賞候補にもなっています。
作品の評価は高かったものの、扱っている題材が微妙(というか、三菱自動車のリコール隠し事件をモチーフにした、と言われています)なので、受賞できなかった、という話が、当時はまことしやかに語られていました。
ノンフィクションではないのですが、旧財閥系企業の社員たちの腐れエリートっぷりが描かれているんですよね。正直、ここまでひどいの?とも思うのですが、実際に接している人たちはどう感じたのだろうか。
この小説、原稿用紙で1200枚をこえる、かなりの長編で、僕も今回が初読なんですよ。面白そうだな、と思いつつも、単行本はその分厚さになんとなく敬遠してしまっていたのです。
今回、映画化を期に、ようやく読了しました。
ちなみに、この本の文庫版は、講談社文庫で上巻・下巻に分冊されたものと、実業之日本社から一冊にまとめられたもの(かなり分厚い)が出ています。
書店には講談社文庫版が目立つように並べられていて、映画化をきっかけに分冊して一儲け、ってことなのかな、と思ったのですが、実際は単行本のあと、講談社文庫で分冊されたものが先に出ていて、しばらく後に実業之日本社から一冊に収めた文庫版が出た、という流れなんですね。
書店で講談社文庫版が目立つのは、出版社の力の差、ということなのかもしれません。
僕は実業之日本社版を読んだのですが、800ページをこえる、かなり分厚い文庫です(ただし、講談社版を2冊買うよりは割安)。
読み終えて思ったのは、「このボリュームの話を、2時間で映画にできるのか?」ということでした。近日中に、映画も観に行くつもりです。
ちなみに、『空飛ぶタイヤ』は、2009年にWOWOWで連続ドラマ化されていて、かなり好評だったそう。そして、意外なことに、池井戸潤さんの小説の映画化は、この『空飛ぶタイヤ』がはじめてということです。
前置きがえらく長くなってしまいましたが、この『空飛ぶタイヤ』、けっこう分厚いので、読み切れるかな、と心配になったのですが、読み始めてみると、すっかりのめりこんでしまいました。
主人公の運送会社の社長・赤松徳郎は、自社のトラックがタイヤ脱落事故を起こし、死傷者を出してしまったという連絡を受けます。
赤松社長が原因の調査を依頼したホープ自動車は、そのトラックをつくっている自動車メーカーでもあり、事故の原因は整備不良と認定するのです。
ところが、実際の整備の状況を確認すると、本当に整備不良だったのか疑問が生じてきます。そこで、独自に調査をしたいので、問題の部品を返却してほしい、と赤松はホープ自動車に申し出るのですが……
本当に「他人事じゃない話」なんですよこれ。
読者は、このタイヤ脱落事故の犠牲者になるかもしれないし、こういう事故を起こしてしまうかもしれない。「あなたの会社の整備不良が原因だ」と言われて、黙って受け入れざるをえない中小企業の経営者になるかもしれないし、所属する会社や組織を守るための隠蔽工作を指示したりされたりする立場になるかもしれない。
そこで、自分は本当に「正しい行動」をとれるかどうか?と自問自答せずにはいられないのです。
正しさを徹底的に追究するには時間もお金もかかる。
でも、それが本当に「自分が求めている正解と同じもの」なのかはわからない。
そこにたどり着くまでに、すべてを失ってしまうよりは、理不尽でも処分を受け入れて、状況を建て直したほうが良いのではないか?
痴漢冤罪の被害者になった場合とかでも、こういうことはありえますよね。
組織の側にいた場合には、自分たちにとっての不都合や上司からのプレッシャーを撥ね除けてまで、「事実」を認めることができるかどうか。
僕はこの小説のすごさって、登場人物が、必ずしもみんな「いい人」じゃない、ということだと思うのです。というか、「いい人が、いいことをする」とは限らない、というのをキチンと描いていて、それが、「シンプルな勧善懲悪もの」というだけではない魅力につながっています。
ホープ自動車の沢田という男は、主要登場人物のひとつなのですが、徹頭徹尾イヤなやつなんですよ、気持ちはちょっとわかるけど。
この人物が、物語のなかで、大きな力を発揮するのです。
「正義は勝つ!」というよりは、世の中というのは、いろんな人の思惑が錯綜していて、正義が勝つには、運とか巡り合わせが必要なんですよね。
それも、かなりの幸運が。
そして、周囲の人々が、いかに「先入観」に駆られてしまうかも描かれています。
大きな会社はちゃんとしていて、中小企業はいいかげんだ、と考えがちだけれど、本当にそうなのか?
企業にとっての利益を追い求めるあまり、ユーザー不在になっていることがわからないのか?
この作品が素晴らしいのは、どちらかが致命的なミスをして、とか、偶然誰がとんでもない失敗をして、というわけではなく、ミスを隠すほうも暴くほうも、最善手を打ち合っているところなんですよ。
だからこそ、緊迫感があるし、その鉄壁のディフェンスが崩れたときのカタルシスもすごい。正直、ちょっと都合が良すぎるかな、と思う流れもあるのはありますが、それでも、企業小説、サスペンスとしては出色の小説だと思います。
ただ、やっぱり、長いといえば、長い。
本当に、これ、どうやって2時間の映画にしたのだろう……まあ、トルストイの小説だって2時間の映画にできなくはないのだから、無理ではないとしても。
- 作者: 池井戸潤
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