- 作者: 本間龍
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/07/07
- メディア: 新書
- この商品を含むブログを見る
Kindle版もあります。
- 作者: 本間龍
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2018/07/07
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
内容(「BOOK」データベースより)
スポンサー収入4000億円と推定されるスポーツ興業、東京オリンピック。この大イベントの運営を、組織委員会は11万人もの無償ボランティアでまかなおうとしている。応募にはさまざまな条件があり、10日以上できる人で、事前研修の参加も必須、宿泊費などの経費も自己負担だ。「一生に一度の舞台」など、美名のもとに隠された驚きの構造を明らかにする。
あと2年で、2020年の東京オリンピックが開催されます。
サッカーのワールドカップの盛り上がりをみていると、大きなスポーツイベントが自国で開催されるというのは、貴重な体験であり、良い思い出になるのかもしれないな、という気がするのです。
その一方で、さまざまな問題が噴出してきているのも事実なんですよね。
準備の遅れや膨れ上がる予算、そして、最近クローズアップされてきたのが、この「無償ボランティア問題」なのです。
どのようなイベントも、その現場を支えるスタッフがいなければ成り立たない。野球やサッカーの試合、大小様々なコンサートでは、入場整理や経路誘導、警備、物販、駐車場管理など、その仕事は多岐にわたる。それらの仕事に従事するスタッフは、すべて有給で雇用されている。利益創出を前提とする商業イベントが有給の雇用関係で成り立つことに、疑問を唱える人はいないだろう。
にもかかわらず、同じく巨大な商業イベントである東京五輪が、11万人以上と予想されるボランティアをすべて無償、つまりタダで「使う」ことを前提としているのはなぜなのか。本書はその理不尽を伝え、オリンピックという美名に隠され、搾取される人を1人でも減らしたいと願って記すものだ。
華やかに見える五輪の舞台裏は、膨大な数の無償ボランティアによって支えられている。しかし、そもそもボランティアとは「志願する・自主的な」という意味であり、そこに「無償」という意味はない。であるにもかかわらず、ほとんどの人々がボランティアイコール無償と思っているのは、ボランティアをタダで使いたい側の絶え間ない偽情報の刷り込みによるものだ。
今回の東京五輪では、50社のスポンサーから4000億円以上(非公表のため推定)の協賛金を集めていると考えられる。にもかかわらず、ボランティアをタダで使おうとしている。日給1万円を10日間、11万人に支給したとしても110億円にしかならない。いったいいくら浮かそうとしているのか。
私は広告代理店の博報堂で18年間、営業を担当していたため、広告業界の仕組み、お金の流れを理解しているつもりだ。その経験を活かし、これまで原発推進側とメディアの癒着関係や、最近では広告が政治に与える影響、特に電通の役割について調べ、発表してきた。本書あ、国ーメディアー電通という巨大なトライアングルが国民を謀(たばか)ろうとする企てを追及してみたい。
著者はオリンピックそのものを否定しているのではなく、オリンピックで私腹を肥やしている一部の人たちが、「ボランティア」という美しく聞こえる言葉を利用していることに疑念を呈しているのです。
そもそも、11万人というボランティアの人数はあまりにも多い。
オリンピックに関するボランティアといえば、各国の一流スポーツ選手と触れ合うような思い出に残る体験を想像する人もいそうですが、無償ボランティアの多くは、交通整理や外国からの観光客の案内などに割り当てられる可能性が高いのです。
東京オリンピックの期間は、7月24日の開会式(一部の競技は22日から始まります)から、8月9日まで。パラリンピックは8月25日から9月6日までが予定されています。
まさに、酷暑のなかでのオリンピックです。
1964年の東京オリンピックの開会式は10月10日、この日は1年でもっとも晴天になりやすく、気候的にもちょうどいい、ということで、開会日に選ばれました。
ちなみに、今回はなんでこんなスポーツ向きとは思えない日程になったかというと、放送権料をたくさん払ってくれる、アメリカの3大ネットワーク(ABC、CBS、NBC)への配慮からなのだそうです。ちょうど、アメリカでは大きなスポーツイベントがなく、注目され、視聴率が取りやすい時期だということで。
今年の夏、酷暑のなか過ごしていると、「本当にこんな時期に、東京でオリンピックをやるのか?」と不安になります。
そんなに身体を動かさない仕事をしていても、外に短時間いるだけで、ぐったりしてしまうのに。
選手にベストパフォーマンスを期待するのは無理でしょうし、観客やスタッフにも熱中症で倒れる人が続出することが予想されます。
オリンピックというより、我慢大会じゃないのかこれは。
著者は、ボランティアに積極的な高齢者も、この環境では「戦力」として期待しがたいので、運営側としては若者、とくに学生ボランティアを動員しようとしていることを指摘しています。
中には、ボランティアを行うことによって、単位がもらえるようになる(かもしれない)大学もあるのだとか。
ただ、11万人となると、あまりにもありふれた体験で、就活でアピールできる、というものにはなりませんよね。
東京五輪の開催が決まったのは2013年9月。組織委は15年ごろからホームページ上にてボランティア募集計画の骨子を発表し、18年3月末に募集要項案を発表した。その内容は、組織委の負担でボランティア保険をかけるとした点を除けば、過去に発表した考え方をそのまま踏襲した内容となっている。主な内容としては、
・1日8時間、10日以上従事できる人(2018年6月11日に5日以上に変更)
・本場までに行われる研修に参加できる人
を参加条件とし、組織委から給付するのは制服と食事(1日1食との報道もある)のみで、
・会場までの交通費は自己負担
・遠方からの参加の場合の宿泊費は自己負担
としている。もちろん拘束時間に対する給与はなしだ。要は参加に際して発生する費用はすべて自己負担するということだ。これに関しては組織委内部においても、さすがに条件が酷すぎるのではという指摘もあったが、そのまま押し切る形で発表されたという。
組織委は、募集計画の記者発表の席でボランティアがなぜ無償なのかという質問に対し、過去の五輪でも無償であったからだと返答しているが、これは正しくない。前回の16年のリオ五輪では無償とともに有償ボランティアが存在していたし、18年2月の平昌五輪では宿泊費や交通費、食事(3食)が支給されていた。こうした事実をなぜスルーするのか。組織委の姿勢に不信感を持たざるをえない。
筆者は組織委等に対して2017年6月、ボランティア無償の理由を文書で質問している。それに対し、
・一生に一度の舞台を提供し、多くの人々と感動を分かち合えるから
・一丸となって五輪を成功させ、世界中の人々と触れ合える場だから
などと回答してきた。一生に一度の舞台を提供するからと言って、人件費は払わなくていいというのか。まったく意味不明の文章が書いてあった。
これ、ブラック企業として糾弾された居酒屋チェーンとかと同じような「やりがい搾取」だとしか思えないのですが……
オリンピックでボランティアをやらせてあげるんだから感謝しろよ、金なんて払わないのが当たり前だろ、感動第一! 百回泣けます!
著者は、災害ボランティアに対しては、もともと利益が出るようなものではなく、困っている人を無償で援助するのは尊い行為だと思う、と仰っています。
しかしながら、この五輪ボランティアに関しては、スポンサーから莫大な利益を得て、儲けている人たちが存在するにもかかわらず、「ボランティア」の名目で、過酷な条件で無償労働を求める悪行だと糾弾しているのです。
オリンピック開催に伴ってスポンサーから莫大なお金を得ているにもかかわらず、大勢の善意の人々を「タダ働き」させて、経費を削減してさらに儲けようというのが、現在の「五輪ボランティア」の実態なのです。
もちろん、お金が介在することによって、自らの「やりがい」が損なわれると感じる人もいるでしょうから、余裕や意欲がある人のための「無償ボランティア枠」をつくっても良いとは思いますが、基本的は有償、せめて、食事や宿泊費、交通費は支給されるのが当然だと思います。
ボランティア=無償、だというのは使おうとする側の「刷り込み」でしかなくて、有名どころでは、青年海外協力隊も、国境なき医師団も、ちゃんと給料は支払われています。もちろん、仕事に見合った高給、ではなさそうですが、十分現地で食べていけるくらいのお金は出ています。
短期間だし、いい思い出になるから、とはいうけれど、実際には、そんな「いい思い出になるような部署」に配属されるのは、ごく一握りのボランティアだけでしょう。
それでも、何十年か先には「2020年の東京オリンピックのとき、ボランティアとして活動した」という思い出話を懐かしそうにする人がたくさんいるのだろうな、という気もするんですけどね。
多くの人が、こういう「実態」を知っているのに、マスメディアは、取材しにくくなることを恐れて、あるいは、すでにスポンサーとして利益共同体になってしまっているため、オリンピックについてネガティブな情報を採りあげようとはしないのです。
現在のところ、ボランティアへの応募者は運営側の希望的観測よりもずっと少なく、今後、条件は少しずつマシになっていく可能性はあります。
国をあげての「やりがい搾取」に抗議するには、「こんなブラックボランティアには参加しない」というのが最良の方法だと僕も思うのです。
fujipon.hatenadiary.com
fujipon.hatenadiary.com
- 作者: 河田剛
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2018/04/12
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
- 作者: 小川勝
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2016/08/17
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (4件) を見る
- 作者: 週刊朝日編集部
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2013/10/16
- メディア: 大型本
- この商品を含むブログを見る