琥珀色の戯言

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【読書感想】政権奪取論 強い野党の作り方 ☆☆☆☆

政権奪取論 強い野党の作り方 (朝日新書)

政権奪取論 強い野党の作り方 (朝日新書)


Kindle版もあります。

政権奪取論 強い野党の作り方 (朝日新書)

政権奪取論 強い野党の作り方 (朝日新書)

内容(「BOOK」データベースより)
有権者の望みを「マーケティング」して政策を磨き、地方から「変えられる」実力を示して信頼を勝ち取り、意見は多様でも最後はきちんと「決める」強固な組織をつくる。そうしておかなければ、与党が何をしても「風」すら吹かない。強い野党をどうすれば作ることができるか―。8年間の生きた政治経験をフルにつぎ込んで語ろう。野党の弱さが今の政治の根本問題。日本を刷新するガチンコ戦略と戦術!


 僕は政治家としての橋下徹さんを支持していませんでした。
 あえて「敵」をつくって対立を煽るところや、効率化のためなら弱者切り捨てに容赦がなさそうなところなど、こういう人がトップになったら、格差がもっと拡大し、一度負けたら立ち直れないような社会になっていくのではないか、と思っていたのです。
 ただ、橋下さんと大阪維新の会が、地元では高い支持を集めていたのは事実ですし、それは今でも続いています。
 大阪の人たちは、あまり深く考えずに、有名人でものをはっきりと言うということだけで、橋下さんのことを支持しているのではないか、と思い込んでいたのですが、あらためて考えてみると、本当にそんな「人気取り」だけで、こんなに長く支持を集められるとは思えません。
 この本を読んでみると、橋下さんは、大阪という地域が長年抱えてきたさまざまな問題に、ようやく正面から向き合った政治家だった、ということも伝わってきます。


 「ポピュリズム」とは、本当に悪なのか?
 そんなことについても、考えさせられるのです。

 インテリ層たちは政党とは「政策だ」「理念だ」「思想だ」と言うけれども、そうではなくて、極論を言えば各メンバーの意見をまとめる力を持つ「器」でありさえすればよい。野党としては、政権与党に緊張をもたらすためのもう一つの「器」であることが大事なのであって、器の中身つまり政策・理念・思想などは、各政党が一生懸命、国民の多様なニーズをすくい上げて詰めていくものだと思う。つまり政党で死命を決するほど重要なのは組織だ。はじめから政策・理念などを完全に整理する必要はない。


 僕はずっと、政党というのは、同じ(あるいは共通する部分が多い)政策や理念を持った人たちが、それを実現するために集まってできた組織だと思っていました。
 しかしながら、橋下さんは、政治家としての実際の経験から、「まずは組織」だと仰っているのです。
 とりあえず、その組織の構成員たちが目的のために同じ方を向き、個人としての考えは違っても、組織で決まったことには従うのが大事なのだと。
 自分が実行したい政策があるからそれに合った組織をつくったり、党に参加したりするのではなく、まずは強い組織を作り上げないと、話ははじまらない。
 政策の内容は「自分がやりたいこと」ではなくて、有権者のニーズをマーケティングして、それに合わせて決めていく。
 そうなると、バラマキ政治みたいになるのではないか、と批判する人も多いけれど、日本人はそこまでバカじゃない。もし問題が生じれば、遠慮なく選挙でクビを切ればいい、とも仰っています。


 自分が世の中をこう変えたい、という思想があるから政治家になるわけじゃなくて、みんながやりたいことを代わりにやってあげるから、俺に権力を預けろ、ということなんですね。
 そこで、「本当にみんながやってほしいことだけをやってくれるのか?」「そもそも、ニーズというのは一人一人違って、相反することも多いのではないか」「それは結果的に、弱者や少数派を切り捨てることにつながるのでは」という疑問が生じてくるわけです。

 でも、多数派がそれを望むのであれば、それこそが民主主義ではないのか?
 さまざまな問題点があったとしても、補助金の廃止や公務員の給与見直しなどの政策によって、大阪の財政難が改善されたことは確かですし、多くの人が、その政策を支持しているのです。

 有権者は現状の社会にいろいろな不平不満を持っている。すべてに満足だなんていう人はいない。子育て、教育、医療、年金、介護、雇用――政治に変えて欲しいと願っていることは誰にもたくさんある。
 ところが、有権者のこの願いはかなえられない。国も地方も財政が厳しく、成熟した民主国家であるがゆえに、有権者が政治に望むものも多種多様だからだ。ある政策を打ち出せば、賛成する者、反対する者が必ず出てくる。一人の有権者を見ても、この政策には賛成だけれど、この政策には反対だということが必ず出てくる。
 だからこそ、今は政策のすべてに満足しているわけではないが、きっと自分にとって、地域にとって、国にとっていいことをやってくれるはずという期待感を持ってもらうことが重要。その期待感の根源は、党の意気込み、挑戦、実行力なのである。
 僕は大阪府知事になって、有権者700万人の要望に全部直ちに応えるのは無理だと認識していた。だから、政策の細かな話よりも、「僕には変える力がありますよ」「実行力はありますよ」ということを有権者に伝えることを重視した。地味で細かな改革実績を膨大に積み上げる。多くの人が、これはとてもじゃないけど変えられないよねと感じていることに果敢に挑戦する。今までの政治がやれなかったことに食らいつく。
 そうすると、有権者は、僕が今進めている政策には賛成ではなくても、「次は私のことについて、やってくれるんじゃないか」と期待してくれ、それが大阪維新の会に対する強い支持につながり、大阪で自民党と対峙できる政党になるまでに育った要因だと思う。
 逆に一番ダメなのは、意気込み、挑戦、実行力がないと思われること。これだともう何を言っても期待や支持は集まらない。今の野党はこの状態に陥っている。


 この本を読んでいると、橋下さんは、いまの政治や有権者のことを徹底的に研究しているのか、あるいは、とてつもなく「空気を読む」のが上手い人なのではないか、と思わずにはいられないのです。


 今はもう、「政策」の時代ではなくなってしまった。
 既成の勢力に「挑戦している」とか、「実行力がある」という姿勢やイメージで、有権者は動くのです。
 たとえ、その「挑戦」や「実行」が、自分に関係なかったり、ときには不利益になるものであっても、「この人は、この実行力で、次は自分にとって良いことをやってくれるのではないか」という、あまり根拠のない期待をしてしまう。
 その人が「実行」するのは、ずっと、自分にとっては不利なことばかりだったり、弱者を切り捨てるような政策であったとしても。

 実際は、「実行力がある」のがメリットになるのは「良いことをやろうとしている場合」だけなんですよね。
 「悪い方向に変えるのならば、変えないほうがずっと良いこと」は世の中にたくさんあるのです。
 それでも、多くの人は、閉塞感を抱えていて、「〇〇をぶっ壊せ!」みたいな、わかりやすくて爽快なキャッチフレーズに期待をせずにはいられない。


 橋下さんは、本当に「有権者の心理がわかっている」人だと思います。
 もし、橋下さんに、もう少し忍耐力があれば、大阪都構想を実現することもできたのではなかろうか。あるいは、日本の首相になれたかもしれません。
 個人的には、橋下さんが有能なのはわかるけれど、トップとして戴くにはリスクが高い人だなあ、と思うのですが。

 
 いまは政治の世界から距離を置いていることもあって、この本には、橋下さんの政治手法や知事・市長時代の裏話なども、けっこうくだけた調子で書かれているんですよね。

 この8年間、様々な政治家を観てきたが、僕と人間関係力のある政治家には決定的な違いがある。僕は完全なビジネス目的か、自分が楽しくなければ誰かと飲みにも食べにも遊びにも行かない。しかし人間関係力のある政治家は、とにかく人と接触する。楽しいか楽しくないかは関係ないそうだ。
 僕がこの話をしたら、人間関係力のある政治家の多くは「我々は人に会ってとにかく話をするのがビジネスだ」と言われた。僕のビジネス目的の飲食は、その飲食がどのようにビジネスにつながるかがはっきりと見えるものだが、しかし政治家のそれは、その飲食がどのようなことにつながるのかはっきりしなくても、人と接触すること自体がビジネスであり、人間関係力を身に付けていくという感覚なのだろう。
 2010年に大阪維新の会を立ち上げた直後、メンバー30人くらいで、鶏鍋を食べに行ったことがある。食事が始まって15分もしたら、僕は鍋を一人でつついていた。鍋のテーブルの松井さん(松井一郎・現大阪府知事)のところには、人の輪が二重にも三重にもなっていた。
 僕はゴルフもしないし、カラオケもしない。弁護士業の関係者やごく少数の友人たちと飲食するくらいだ。
 ある日、松井さんが「代表は何が趣味なん?」と僕に聞いてきた。僕は「大型バイクに乗って走ることくらいですかね」と答えた。すると、松井さんは現職の大阪府知事なのに、教習所に通って大型バイクの免許を取ってきた。そしてこう言った。
「ツーリングに行こう」
 人間関係力の一例である。
 ただ、僕は僕なりに、役割があったと思う。
 大阪維新の会が進む方向性をしっかりと示して、維新のメンバーの道しるべとなる。そして有権者から支持を得られるようなメッセージをしっかりと発して、選挙で勝つ。僕と松井さんの役割分担だ。


 橋下さんにとっても、政治家は「天職」ではなかったのかなあ、なんて、これを読んで感じたんですよね。
 本当に居心地がよかったら、そう簡単には辞めないだろうし。
 政治の世界って、表に見えるところと、その裏側には、けっこうギャップがあって、松井さんみたいな人じゃないと、生き残っていくのは難しいのかもしれません。
 しかしこの松井さんのエピソード、すごいけど、ちょっと怖いよなあ。そこまでやるのか、って。


橋下徹の問題解決の授業―大炎上知事編

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ルポ 橋下徹 (朝日新書)

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