琥珀色の戯言

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【読書感想】スイーツ放浪記 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
大の甘党である著者が、日本の甘味文化に思いを馳せながら、全国津々浦々のスイーツを食べ歩く!定番洋菓子店、老舗甘味処はもちろん、気軽に入れる街の喫茶店、ファミレス、さらにはファストフードまで。お土産に買いたいスイーツも盛りだくさん。食べ歩くことで見えてくる「甘味」のルーツも必読!著者のスイーツへの愛が溢れ出て、不思議とこちらまでシアワセな気持ちで満たされる一冊。甘党さん必見、全国86店舗掲載&カラー写真多数の「おいしい」ガイドエッセイ。


 この本の著者、今柊二さんの食べ物エッセイって、なんだか、つい手に取ってしまう魅力があるんですよね、僕にとっては。
 そんなに珍しい店が出てくるわけでもなく、出てくる食べ物についての描写もけっこうあっさりとしているし、写真もそんなに綺麗でもない。ただ、それはそれで、「親しみやすさ」みたいなものがあるのです。
 この本は、「スイーツ」を題材にしているのですが、女性向け雑誌のスイーツ特集を隅々までチェックするような人にとっては、「今さらこんな店を紹介されても……」という感じなのかもしれません。
 僕にとっては、「中年男性が『甘いもの』を外で食べるということの敷居の高さ」と著者の「食べたい」という気持ちとの葛藤が描かれている、というのも「わかるなあ」と感じるところなんですよ。
 世の中には、そんなの気にしすぎだろ!と言う人が多いとは思うのですが……
 僕の場合、「子どもたちの希望」という名目で、スイーツ系の店に入って、自分の分も注文し、作戦勝ちだな、と思っていたら、頼んだものをほとんど子どもたちに食べられてしまう、という失敗を繰り返しているのです。
 でも、甘いものを美味しそうに食べている子どもたちというのは、見ているだけで幸せになるので、それはそれで良いか、と。


 この本の冒頭で、日本におけるスイーツの歴史が解説されているのですが、それを読みながら、そういえば、僕が子どもだった1970年代後半くらいは、「生クリームのケーキ」って、けっこう御馳走だったよなあ、と思い出していたのです。当時はコンビニもなくて、デパートで、バタークリームの「100円ショートケーキ」を買ってもらって、喜んで食べていたものです。


 あの時代と比べると、いまの「コンビニスイーツ」の充実っぷりは本当にすごい。
 それでも、「子どもの頃(あるいは学生時代に)食べた甘いもの」というのは、なんだか強烈に記憶に残っているんですよね。

 高校時代、昼ご飯はとても重要な問題であった。弁当をつくってもらうか、お金をもらって購入するかの選択肢があった。高校生はマンガ買ったり、レコード買ったり(当時CDはまだ高価だったし、そもそも再生機を持っていなかった)、下校時に友達と喫茶店に行ったりと、何かとお金が要る。ゆえに、その資金をつくるために昼ご飯代をもらい、なるべく安く済ませて残りを小遣いとしたのだ。そうなると高校の食堂で食べるか、または購買でパンを買うか。パンはだいたい2~3個買うが、そのなかにべらぼうにおいしいパンがあった。それがメランジェである。
 ソフトフランスパンで、中に生クリームが入っていた。1980年代前半の地方都市では生クリームはとても珍しかったので、はじめて食べたときはたまらなかったね。


 今の感覚でいえば、「スイーツ」という横文字で語られるような食べ物ではないのかもしれませんが、こういう「学生時代の思い出」って、美化してしまうものではあります。
 これを読んでいて、僕は、メロンパンに切れ目が入っていて、生クリームが入っていた『サンライズ』というパンを思い出しました。
 いまも僕が住んでいる地域では見かけるパンなのですが、中学生時代に食べたときには、「たまらなかった」のだよなあ。


 いま、有名店で食べる「スイーツ」は、けっこう価が張りますよ。ケーキを眺めつつ、この金額なら、『やよい軒』で生姜焼き定食が食べられるな……とか、つい考えてしまいます。
 この本には、基本的に、世田谷の有閑マダムが集うような高級スイーツ店は出てこないんですけどね。


 この本のなかでは、こんな「歴史的な」お菓子も紹介されています。

 昔からその存在は知っていた。京都に、日本最古のお菓子を復元したものがあるという。それは京都の亀屋清永が製造・販売しているのだそうだ。この亀屋清永自体も1617(元和3)年の創業。本書を執筆する上で絶対必要だと思ったので、上洛したらぜひ購入したかった。
 幸い、JR京都駅の伊勢丹で販売していることがわかったので、新幹線に乗る前に購入することにした。食品売場で探したが、なんだか「亀屋」とついている店が多い。ある「亀屋」で開いたら、「違う亀屋ですよ~」と店の前まで連れて行ってくれた。親切だなあ。おお、ここだ亀屋清永。確かに清浄歓喜団はあった! ……しかし、小さいな。「え?これですか?」と、私と同様に他のお客さんも言っている。「思ったより小さいものですね」とそのお客さんと笑いながら話しつつ、「でも買いましょう」と二人で買う。箱入りで550円(税別)。買えてよかった。これは東京に戻って食べることにしよう。
 ちなみに、同店のHPによると、この清浄歓喜団は奈良時代に伝わった唐菓子の一種「団喜」(略して「お団」とも呼ばれる)。「清め」の意味を持つ7種類のお香を練り込んだ「こしあん」を、米粉と小麦粉でつくった生地で金袋型に包み、八葉の蓮華を表す八つの結びで閉じて上質な胡麻油で揚げてある。


(中略)


 ……帰宅後、いよいよ食べる。大変立派な箱を開け、さらにビニールをとって皿の上に置き写真を撮る。なんだか宇宙人のような形態だよね(笑)。割って皮の部分から食べる。油菓子のようにカリカリしているが、香味が口の中で漂う。下の丸い部分を割ると、「あん」が出てきた。ここはやわらなく、さらに香味が強い。うーむ、当時は甘いものといえば果物が中心だったことを考えると、これはものすごい衝撃だったろうなと想像する。


 写真をみると、宇宙人というか、土器みたいに僕には見えました。
 僕も一度は食べてみたい、かもしれない(でも、一度で良いかも)。


 都心在住の甘いもの好きの中年男性には、ガイドブックとしても役立つと思います。
 そして、「最近流行りのスイーツ」を追いかけている人には、かえって新鮮なラインナップの可能性もありそうです。
 こういう「定番すぎる店」「身近すぎる店」って、案外、盲点になりやすいものではありますし。


丼大好き (竹書房文庫)

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ニッポン定食散歩 (竹書房文庫)

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