琥珀色の戯言

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【映画感想】プーと大人になった僕 ☆☆☆☆

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あらすじ
成長してロンドンで多忙な生活を送るクリストファー・ロビン(ユアン・マクレガー)は、妻子と故郷で過ごすはずだった週末まで仕事でつぶれてしまう。そんなとき、少年時代の親友プーが彼の前に現れ、一緒に森の仲間たちを捜してほしいとロビンに頼む。思い出の“100エーカーの森”を訪ねたロビンは、プーやティガーらとの再会を喜ぶ。


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2018年、映画館での29作目。
平日の夜の回で、観客は10人くらいでした。


正直、そんなに期待していなかったんですよ。
予告編とかネットの反応とかをみても、あんまり心惹かれるところもなくて。

「主人公が過労死しそうな社畜」設定で、妻に「こんな生活が続いたら、あなたはおかしくなってしまう!」と言われた直後に時計が差していたのが21時過ぎ、とかいうのを見ると、むしろ「苦笑」というか、「そんなの社畜としては甘い!」と、ついつい、自分の社畜自慢をしてしまいたくなります。

そのどこでもドア、どこに続いているんだよ、とか、それって「人口ボーナス」ってやつだよね、今の少子高齢化の時代には、あてはまらないよなあ、とか。


僕は『くまのプーさん』には、ほとんど思い入れもなくて、東京ディズニーランドに「プーさんのハニーハント」ができてすぐに3時間も並んで乗ってけっこうきつかったなあ、という記憶があるくらいです。
黄色い熊で、ハチミツが好きなこと、男の子の友達がクリストファー・ロビンというくらいは知ってるけど……という感じ。


この映画を観る前には、『ドラえもん』をよく知らない人が『STAND BY ME ドラえもん』を観るようなものではないか、と逡巡したんですよね。
こういう「昔の作品のキャラクターと大人になった登場人物の再会もの」って、制作側からすれば、「子どもの頃のピュアな心に戻ることの大切さ」を訴えやすいのかもしれませんが、観る側からすれば、「子どもの頃の良い思い出の『続編』をつくって商売するのはやめてくれ……」って言いたくなるところもあるのです。
東京ラブストーリー』の続編とか、「発表されれば読んでしまうのだけれど、そこは、個々の読者の想像に任せておいてほしかった……」って今でも思いますし。


fujipon.hatenablog.com

ドラえもんは、子どもの頃の友達なんだ」(映画『STAND BY ME ドラえもん』での、大人になったのび太のセリフ)

そりゃそうなのかもしれないけどさ、ドラえもん好きの大人としては、わざわざそんなセリフを大人になったのび太に言わせるなよ、僕にとっては、今でもドラえもんは「心の友」なんだよ!って不快になったのです。


と、観る前には不安と不満だらけだったのですが、観てみるとけっこう面白かったし、涙腺も洗浄されました。
内容は、僕が予想していた「ピュアなプーさんに主人公の心が癒される感動もの」とは、ちょっと違った感じで、押し付けがましさもあまりなかったんですよね。
この映画の場合は、僕の「プーさんへの思い入れの少なさ」が、かえって、観やすさにつながったような気もします。
最近のディズニーは、そういう観客の心との距離のとりかたが、ものすごくうまいんですよね、。ほら、これで感動するだろ?というのが透けて、こちらが引いてしまう映画は少ないのです。

あのぬいぐるみがしゃべる!動く!というだけで、けっこうワクワクしてしまいますし、ユアン・マクレガーさんは、ああいう場面を一人芝居状態で撮影していたのだなあ、と思うと、微笑ましく感じられるのです。
この声優さん、堺雅人さんに声もしゃべりかたもよく似ているなあ、と思ったら、堺雅人さんが演じていたのですね。この役柄には堺さんの声が合っていたのではなかろうか。


プーさんと仲間たちは、「ヤブヘビ」とでも言うべき働きしかしていないはずなのに、なぜか放っておけないというか、その場にいるだけで、なんとかなってしまう存在なんですよね。
ほんと、プーさんのひとつひとつの行動は、「お願いだから、なんにもしないでくれ……」と僕がクリストファー・ロビンだったら言いたくなるのだけれど、もしかしたら、僕らのほうが、余計なことをして、かえって自分を生きづらくしているだけにも思えてくるのです。
もちろん、「世の中そんなに甘くない」ことはみんな知っているのだけれど、大人の心の中にだって、「100エーカーの森」があっても良いのでしょう。
「大人になる」ことは、「余裕や寛容さを失うこと」ではないはずなのに、なんでこんなに、イライラせずにはいられないのか。そういうのが「大人」なんだと思い込んでしまっているのか。


大人になっても、ドラえもんは友達だし、100エーカーの森は、行こうと思えば、今度の日曜日にでも行ける。
現実が人を救うことを拒絶するのなら、フィクションが人を救っても良いじゃないか。


「こんなの子供騙しだろ」と思う人にこそ、観てほしい。
これぞまさに、上質の「大人騙し」だから。


fujipon.hatenadiary.com

クマのプーさん (岩波少年文庫 (008))

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