琥珀色の戯言

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【読書感想】マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? ☆☆☆☆

内容(「BOOK」データベースより)
マンガアプリは「コミックス売上至上主義」を終わらせる―その過程と根拠を、著書『ウェブ小説の衝撃』でウェブ小説発のヒットコンテンツとビジネスモデルをいち早く洞察した著者が、解き明かします。マンガは「原作」としてあらゆるメディアで重宝される「原資」的存在でもあり、したがってマンガ産業の行く末は、マンガ界、出版界に留まらず、日本のコンテンツ産業全域の未来に関わる重大な問題です。マンガ界に進行中のビジネスモデルの変化は、マンガビジネスの勝者を変えます。変革の渦中にあるマンガビジネスの見取り図を提示し、本質的な変化は何か、この波のなかで何が鍵を握るのかを、関係者への綿密な取材と詳細なデータをもとに「熱く」「冷静に」論じます。


 そうか、もう、紙のマンガ雑誌は「死んだ」という前提で話が進んでいくのか……
 著者はこの本の冒頭で、2017年の雑誌とコミックス(単行本)を合わせた2017年のコミック市場規模が4330億円(紙2583億円、電子1747億円)であることを紹介しています(出版科学研究所調べ)。

 いま、日本のマンガビジネスは大転換の渦中にある。
 マンガは、月刊マンガ雑誌で稼いでいた時代(1950年代前半)、貸本マンガが台頭した時代(50年代後半)、貸本出身の多様な才能が花開き、大人も読める青年誌や文学的な少女マンガなどが台頭した60〜70年代、コラム文化・雑誌文化の一翼をも担い、トレンディドラマの原作も多数供給した80〜90年代を経て、1995年に売上のピークを迎え(マンガ雑誌+コミックスで5864億円)、以降は右肩下がりの時代が長く続いた。
 とくに厳しくなったのは、雑誌の売上である。最盛期1995年には3357億円だったが、2017年には953億円(電子雑誌36億円含む)にまで落ち込んだ。
 雑誌は毎号千万単位の赤字を出すが、雑誌に連載された作品のコミックスの売上で回収する。90年代以降のマンガは、そのビジネスモデルでやってきた。
 AppleiPadが発売された2010年には「電子書籍元年」と言われたものの、2010年代半ばになるまでは「電子書籍は儲からない」「マンガをウェブに載せるなんて……」「マンガアプリ? マネタイズは大丈夫か」「紙と食い合わないのか」といった意見があった。しかし、いまやそんな次元の議論は終わっている。
 2017年にはコミックスの電子版売上は1711億円となり、紙のコミックスの売上1666億円を上回った。


 著者は、単に「コミックスの電子版が紙の売上を上回った」だけではなく、これまでのマンガのビジネスモデルに大きな変化がみられていると述べています。
 ずっと「大手出版社の部数が多い人気漫画雑誌の連載作品のコミックスが、売上の上位を占める」ことが多かったのですが、pixiv発の『ヲタクに恋は難しい』(一迅社)が550万部を売り上げたように、「LINEアプリ」や「pixivコミック」のような非版元系マンガアプリの躍進がみられているのです。
 その一方で、紙のマンガ雑誌は廃刊が相次いでいます。
 もともと赤字で、コミックスのプロモーション効果も薄れてしまったとなれば、それでも、紙のマンガ雑誌が必要なのかどうか?
 『週刊少年ジャンプ』や『コロコロコミック』がいきなり廃刊されることはないとしても、多くの雑誌は、厳しい状況に置かれていて、今後もあまり上がり目はないように思われます。
 すでに、「紙のマンガ雑誌後」の覇権争いがはじまっていること、そして、そのなかで、どのような媒体が次の覇権を狙っているのかを著者はこの本のなかで紹介しているのです。
 

 そして、紙からスマートフォンへ、という主戦場の変化は、マンガの表現方法にも影響を与えているのです。

 2010年代後半の出版界ではコミックスの紙と電子の売上比率は、ジャンルによるが、3:7から5:5くらいになっている。今後も紙がなくなることはないだろうが、電子の比率が減ることも考えにくい。つまり今日では「電子書籍にしたときに見やすい(読みやすい)」マンガであることがきわめて重要になっている。大判の紙の雑誌ではなく、小さなスマホの画面で読まれることに最初から最適化されたマンガを描くには、どう考えても、紙の雑誌よりもマンガアプリを初出にするほうが適している。たとえば、小学館の「マンガワン」で1000万ダウンロードを記念して手塚治虫作品が配信されたことがある(2017年4月)。手塚作品はボーンデジタルの「マンガワン」人気作品と比べると、コマの割り方が細かく、フキダシに表示される文字も小さい。端的に言って、スマホでは読みづらい。手塚作品も大判の漫画雑誌で読まれることを想定して描かれたものだからだ。試食してイマイチだと思った食品、おいしそうに見えない食品を買う人間はいない。たとえ試食コーナーの雑誌や単行本に最適化された作品が、画面の小さいスマホタブレット上で戦った場合、スマホに最適化された作品に見劣りすることは避けがたい。


 読まれるデバイスの変化によって、「伝わりやすい描き方」も変わってきます。
 そして、「スマホでの読みやすさを意識したマンガ」が強くなっているのです。
 
 これまでは「コミックスの売上」がマンガの評価の指標だったのですが、マンガでアクセスを集めて広告で収益をあげる、というビジネスモデルも出てきていて、「その作品のコミックスを勝ったり、課金してまで読んではくれないけれど、無料であれば多くの人を集められる」という作品も生き残れるようになるのではないか、ということです。


 マンガアプリも、さまざまな規制や思惑で、まだまだ、ユーザーにとって使いやすいとは言い難いところもあるんですよね。

 ユーザーが本当に望むシェア機能とは、どんなものだろうか?
 多くのユーザーが本当にやりたいのは、Twitterでよく見る「特定のページやコマを抜き出した上で、自分の発言を一言載せる」というアレのはずだ(もっと言えば、コラが作れれば最高だ)。言うまでもなく著作権法で認められた「引用」の範疇を超えて無断でページやコマを抜粋するのも、勝手にセリフを改変するのも著作権侵害だ。だが、アレができるような機能をオフィシャルで用意してくれたらよい。「アプリのDLページに飛ばされる」「1話目に飛ばされる」「当該話数の最初に飛ばされる」よりも、その場でユーザーが見せたいページやコマをシェアでき、ついでに貼られたURLをクリックすると該当ページに飛べるという仕様にしてくれたほうが、はるかに拡散効果は高い。シェアされてきた元ネタが気になって、読んでみようかなという気にもなる。
 けれどもアレをやらせてくれるマンガアプリはほとんどない。特定の話数をシェアしても、その話数で一番バズりそうなコマではなく、大半の場合、作品のトップページの画像が表示されるだけだ。
 ページ指定でシェアができ、SNS上でそのページの画像が見開きで表示され、シェアされた側はクリックするとそのページに飛べるということをきちんとやってくれるのは、ほとんど「マンガ図書館Z」のブラウザ版だけである(アプリ版では不可能)。


 著者は、ユーザーが本当に望むシェア機能について、このように述べています。
 マンガアプリの側としては、商品を勝手に利用されたくないし、より売上につながるようにしたい、という意図があるのだとしても、あまりにも商売っ気が表に出てしまうと、ユーザーの拡散しようという気持ちは薄れてしまいがちです。
 実際、インパクトがあるコマがそのままSNSで使えたほうが、興味を持つ人も多いのではなかろうか。
 権利関係やネタバレになってしまう重要なコマを公開されたくないなど、難しいところはあるのでしょうけど。
 
 作品そのものが読みやすいビューワーを持っているだけではなくて、読者どうしのコミュニケーションを促進したり、SNSで拡散されやすくしたり、というような機能が、これからは大事になってくるのでしょう。

 もう、紙対電子書籍の時代は終わり、紙の雑誌の部数競争ではなく、マンガアプリ同士のシェア争いが、マンガの「主戦場」になっているということが、わかりやすく書かれている新書です。


ヲタクに恋は難しい: 1 (comic POOL)

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