琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】インタビュー ☆☆☆☆

インタビュー

インタビュー

内容紹介
えんえんと、えんえんと、えんえんと、

訊(き)く。纏(まと)める。



下準備、節度などの基本から依頼の仕方、聞き方などの技術までを網羅。

その上で、「インタビューにはなにができるか」という可能性を探る。



インタビューとはなにか。

インタビューになにができるか。

インタビューをし続けていると、人は「誰」になるのか?



インタビューとはなにか。この問いを出発点に、著者は途方もない旅に出る。「道具」としての便利さ、使い方を懇切丁寧に伝えたあと、新たな問いを自らに課す。−−その道具を使い続けると、世界や社会がどのように見えてくるのか。「帰ってこられない」危険を感じつつ、「捏造や支配」が横行する現代において、インタビューだけが果たせる役割を見出していく。「植物的」とも言えるスタイルで綴られた異作ノンフィクション、ここに誕生。


 日本を代表するインタビュー職人である木村俊介さんが「インタビューについて」語ったこと。
 インタビュー前の心構えや、取材者としてのコンディショニングから、どのような姿勢で、何を質問していくのか、どのように文章にしていくのか。
 宣伝・広告との境界が曖昧になりがちな中で、どのようなスタンスで聞いているのか。

 
 僕は木村さんのインタビュー本、とくに市井の人々の生きざまに寄り添った『善き書店員』が好きなのですが、この本を読むのは、けっこう難儀でした。
 そんなに難しい言葉が使われているわけではないし、むしろ、丁寧に、丁寧に噛んで含めるように、木村さんは読者に「インタビューについて、自分が考えてきた要諦」を語ろうとしています。
 でも、読んでいると、なんだか同じところを、ぐるぐるぐるぐる回っているような気がして、けっこう眠くなったこともありました。
 うーん、これ、吉田豪さんが同じテーマの本を書いたら、十分の一のページで、この内容の要点をまとめてくれるのではなかろうか……
 しかしながら、そこで「思考のプロセスや堂々巡りみたいなものを、まとめないで、なるべくその流れに沿って記録している」ことこそ、木村さんの誠実さであり、ひとつの答えなのだとも思うのです。
 百田尚樹さんが、『愛国論』という本での田原総一朗さんとの対談のなかで、こんな話をされています。

百田尚樹評論家なんかはよく「この小説にはテーマがない」と、いったりします。たとえば「戦争は絶対にダメである」というテーマが重要だ、とかね。そんな意見を聞くと私は、だったら原稿用紙を500枚も600枚も埋めていく必要なんかない。「戦争はダメだ」と1行書けば済むじゃないか、思います。


田原総一朗うん、そりゃそうだ。


百田:小説が論文と違うのは、そこです。「戦争はダメだ」「愛が大切だ」「生きるとは、どれほどすばらしいか」なんて1行で書けば済むことを、なぜ500枚、600枚かけて書くのか。それは心に訴えるために書くんです。「戦争はダメ」なんて誰だってわかる。死者300万人と聞けばアタマでわかるし、悲惨な写真1枚見たってわかる。けれども、それはアタマや身体のほんとに深いところには入らない。そんな思いがあって、『永遠の0』という小説を書いたんです。


 ネットではよく、「3行でまとめて」なんて言われるのですが、同じテーマであっても、回りくどく説明したほうが、伝わりやすいものもあるのです。
 わかりやすい、というのは、どこかで大事な枝葉が切り取られていたり、理解したつもりになって、すぐに忘れたりしがちなんですよね。

 ノンフィクション作家や報道記者、それから研究者などによる取材にまつわる入門書は、これまでにも数多く刊行されてきた。しかし、なんというか、それぞれの人にとっての「取材について試行錯誤してきた何十年かの戸惑いや納得感までが、ほとんどまるごと詰めこまれている、取材の世界そのものを調べるテーマを調べるテーマとしたノンフィクション」みたいな読み味の報告は、あんまり見かけてこなかったように思う。
 本書が最終的に目指すのは、そんな手ざわりのある報告だ。一般的なセオリーや綺麗事では片づかない視点がおもしろい。また、そもそも、世の中にとてもたくさんいる人のそれぞれが、いくつか大事に抱えているであろう内面の世界がいつかは死によってかならずなくなっていくという不思議さがある。だからこそ、私は主観的なビジョンを訊いてまとめてきた。そんな取材者としては、私自身の主観による「取材の世界はこういうふうに見えているよ」という内面の世界を伝えることも、自然ななりゆきだろうと思っている。
 つまり、私は余技として、すでにわかりきっているこの世界の「常識」を簡略化してまとめる入門書を記すわけではない。
 インタビューにまつわる複雑な世界に入りこんで、少なめに見積もってもおそらく千人以上にはロングインタビューをさせてもらってきたこれまでの取材体験の全体を、ある種の「ひとつながりの潜入取材」のように捉えたうえで、これこそが自分が前からまとめたいと思っていたノンフィクションとして、本書を記していく。


 この本の場合、この「えんえんと書かれている」ということが、「インタビューというのは、いろんな要素があって、一言で語れるようなものじゃないし、インタビューの名手として知られている木村さんでさえ、まだこんなふうに、ぐるぐる回り続けているのだ」というのを如実に伝えているのです。
 まあでも、よっぽどインタビューというジャンルか木村俊介さんという人に興味を持っていないと、この本は「まだるっこしいな……」と思われるのではなかろうか。
 なんでも「簡単にまとめてしまう」傾向がある今の世の中では、すごく貴重な思索ではあるのですけど。

 多くのビジネス書などでは、「こうすればうまくいきましたよ」という、いわゆる「成功」と呼ばれるものを語る声があふれている。ただし、実は、少し前の「成功めいた話」ほど、すぐに経年による劣化を感じさせられやすいという反面で、「あまりうまくいかなかったよな、というもの」についての発言は、割と時間が経ったとしても「なるほど」と思えて考えさせられるものが多いように感じてきた。
 うまくはいかなかったことだとか、不満に思いながらの現実だとか、割りきれないことを扱うのが得意なのは、インタビューが「途上にいる人に対して、これまた途上にいる人としての取材者が話を聞くことによる、一回限りの感触」を価値として出しやすいからではないだろうか。そして、インタビューのまとめにおいては、ある程度まではエゴイズムやナルシシズムを相対化できるところもあると思われる。
 基本的にはあくまでも他人の言葉をまとめるものなのだ。だから、感情的ではあっても重要なひとことと、自慢や言い訳に留まるひとこととは区別したうえで、後者は選別しない、というような方針も実施していくことになる。つまり、話している本人以外の視点から抑制を利かせられて、感情をあつかってはいても、「ナルシスティックな垂れ流し」のようにはなりづらい客観性が担保されているところもある。


 この引用部だけ読んでいただいても、なかなか攻略しがいのありそうな本だな、ということが伝わるのではないでしょうか。
 個人的には、もうちょっとだけ、わかりやすく書いてくれても良いのでは……って思うところはあるんですけどね。


 第二章の「体験としてのインタビュー」では、インタビューを続けてきたことによる、木村さん自身の内面の変化について詳しく述べられています。

 取材者として多くの人の認識を聞いて調べるうちに、私の考えが変わったのは、この「同じ事実についての話」に対してのものだった。人は、ラップミュージックや漫才の一作品ずつを推敲して練りあげていくのとも似ているぐらいのプロセスで、同じような話を時には何度も続けて語るなかで視点や理解を磨いていくことが多いようだと気づいた。
 これについては、経営者、芸人、スポーツ選手など文章をまとめることを生業としていない発言者の声をまとめる経験のなかで強く実感するようになったところだ。それまでは、むしろ、同じ話と思えるものを聞くことにはオリジナリティがないから避けたい、いやだとさえ思っていたので、ずいぶん自分自身が変わった点でもある。
 かつては、できるだけその特定の取材対象者がこれまで話していない話題だけで取材をまとめたいと願っていた。けれども、そのうちに、ある程度は人前に出て話す人の言葉から既出の内容を完全に省くことは無理だというだけでなく、発言者の自然な心の動きにも沿っていないよなと捉えるようになったのだ。
 そもそも、経営者や芸人といった語ることが多い人たちは、同じ意味の話を繰り返し人前で声にして伝え続けるうちにコンセプトを練りあげていくことを仕事の中心にしているところさえある。彼らの場合には、会議で人と議論をしたり、人前でネタを話したりすることで、空中に発した言葉を「書き言葉」とはちがう次元である意味では推敲し続けるような生活を送っている。
 口に出して人の反応を見て、独創性がある、おもしろいと思えると実感したものを磨く。不要なところは省く。隙間にあたらしく考えを追加するなどアイデアの密度を高め、ビジネスのコンセプトやネタのストーリー性を鍛えあげてもいくわけである。
 だったら、同じ話に見えるものも練りあげるかたちでインタビューし直すうちに、同じ話題だって深められるのではないかと思うようになったのだ。


 これは、長年インタビューを続けてきたからこそ、達することができた境地ではないかと思うんですよ。
 インタビューする側としては「自分にしか聞けない話」を紹介したいし、手垢がついたような「定番エピソード」には、あまり食指が動かないのではないでしょうか。
 でも、その「定番」も、時間とともに熟成されてくるし、その変化こそが、その人がたどってきた道のりでもあるのです。
 

 むしろ、取材をやればやるほど時代にかかわらず、うそ、虚飾、暴力、にせもの、そして失敗こそが「ほんとうの世界」というものの内実で、誰からも文句をいわれないデータだけで現実を語ろうとすると、大半のものごとが省略されてしまうということだ。
 だからこそ、私は、それらについて、詳細な証拠を出せないまでも、「あくまでも一人称の主観ではこのように捉えてきた」などと口語体の肉声からにおわすことなどは、むしろ、インタビューの得意とするところだろうと思うようにもなってきた。


 木村さんがこれまでのインタビューで訊いてきた、印象に残る話もたくさん収録されており、インタビューの魅力と威力を思い知らされます。
 木村俊介というインタビュアーに興味がある人、あるいは、インタビューをする、される立場の人は、ちゃんと読んでおいて損はしない、そんな一冊です。


fujipon.hatenadiary.com

漫画編集者

漫画編集者

善き書店員

善き書店員

アクセスカウンター