琥珀色の戯言

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【読書感想】仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
いまや日本最大の成長産業とも言われる宅配ビジネス。その一方で、アマゾンをはじめとするネット通販の「即日宅配」まで可能にする宅配業界の現場は、いままでベールに包まれたままだった。そこで著者は、宅配ドライバーの助手に扮し、あるいは物流センターのバイトとして働くという「潜入労働ルポ」を敢行する。アマゾン、ユニクロの内幕を暴いた「最も企業に嫌われるジャーナリスト」が描く、衝撃のビジネスノンフィクション。文庫化にあたり、本書をきっかけに発覚したヤマト、佐川の残業代未払い問題について追及した「残業死闘篇」を新たに書き下ろし。


 そこに人がいて、手間がかかっているはずだから、「配送にかかるお金が無料」なわけがない。
 宅配業者の仕事のキツさも、いろんなところで採りあげられている。
 でも、自分が買う側になったら、やっぱり、「配送無料」に引きつけられてしまうんですよね。
 

 著者は、「宅配の現場」を知るために、ヤマト運輸や佐川急便のドライバーに一日密着して一緒に仕事をしたり、大きな物流センターで働いたりして、この本を書いているのです。

 宅急便に関わるトラックは主に二種類ある。各地で宅配便を届けるトラックを集配車と呼び、夜中に荷物の仕分け拠点である<ベース>の間を走る大型車を幹線輸送車と呼ぶ。
 基本的な事柄を押さえておくと、<宅急便>というのはヤマト運輸の宅配サービスに対する固有名詞であり、一般名詞は宅配便となる。
 このセンターは、ヤマト運輸の自社の集配車が四台あり、それに菊池(仮名)の軽トラ一台が稼働している。菊池と私がセンターに到着したとき、すでに四人のセールス・ドライバーは出勤しており、積み込まれた荷物を自分の運びやすいように荷台の上で調整していた。
 センター内の荷物を見渡した菊池は開口一番こう言った。
「今日は100個か、せいぜい110個どまりかな。このセンターは少ないからなぁ」
 1個当たり150円強で運ぶ菊池にとって、荷物が多いほど、その日の収入が多くなる。仮に100個運べば1万5000円強となり、200個なら3万円強となる。しかし、菊池が働く宅急便センターでは、一日100個前後しか軽トラに回ってこないのだ、という。

 午前8時過ぎに、約70個の荷物を軽トラに積み込んで出発した。
 荷物には、アマゾンや楽天ブックス、ゾゾタウン、ケンコーコムなどのネット通販のロゴの入った箱が目についた。ヤマト運輸にとって「最大手の荷主」となったアマゾンの荷物は全体の3~4割といったところか。
 菊池が真っ先に向かったのは、、センターの裏手にある七階建てのマンションだった。350戸を超える戸数があるにもかかわらず、宅配ボックスの数は約20個と少ない。ここで荷物を配り終えたのは8時半前後で、宅配ボックスには6個入れた。
「ここのボックスを佐川や日本郵便に先にとられると、再配達となり手間がかかりますからね」
 と、菊池はホッとした表情で語った。
 その菊池の言葉を追いかけるように、日本郵便の下請けの軽トラ到着し、その直後に佐川急便の自社の集配車がやってきた。それから午前中に配達する個数を配り終えたのは、11時半ごろ。しかし、正午から午後2時という時間指定の荷物が1個あったので、配達先のマンションの下で30分ほど時間を潰す。少しぐらいなら早く届けてもいいんじゃないかと、私は思ったが、菊池は「お客さんによってはクレームになるから」といって律儀に指定時間を守った。正午を過ぎたところで、五階にある女性宅へと届け終えて、午前中の仕事が終了となった。
 菊池の担当するエリアは約1キロ四方と狭い。ヤマト運輸の取扱荷物が多いため、ドライバー1人あたりの配送密度が濃くなっているからだ。


 1日に100個とか110個なんて、ものすごい数ではあるのですが、この仕事に慣れていて、1個あたりいくら、という条件で働いている人にとっては「少ない」のですね。そりゃ忙しいよなあ。
 おまけに、再配達になることもあれば、指定時間に合わせるための時間調整もある。
 「宅配ドライバーたちの仕事の過酷さ」は、よく言われることだけれど、この本では、その具体的な様子がきちんと描かれているのです。
 宅配ボックスは便利だけれど、数が限られているので、業者にとっては「取りあい」になってしまう。

 一日の走行距離は15キロにも満たない。しかし、拘束時間は14時間近くとなった。1万5000円が日当とすると、時給は1000円強となる。しかし、そこから車両代やガソリン代、車検代や保険代など必要経費を合計すると月7万円近くかかる。その分の経費を差し引いて計算し直すと、時給は800円台にまで下がり、首都圏のコンビニやファストフードの時給より安くなる。1日150個の荷物がコンスタントに運べるとようやく生活ができる水準なのだ、と菊池はいう。
 長時間で低賃金、肉体的にもきつい仕事である。その上、三か月で打ち切られるという不安定な契約ではとてもやっていられない内容だ。


 これだけ、人手が足りない、と言われている運送業界にもかかわらず、その労働条件は、けっして恵まれたものではないのです。
 Amazonは圧倒的に大きな荷主なのだけれど、ほとんど利益が出ないような条件での取引を求めてきます。
 そのため、佐川急便は、取り扱い荷物数が減ることを覚悟して、Amazonの荷物の取り扱いから撤退する、という決断をしました。

 ネットでは、多くの人が、宅配業者の苦境に同情し、「配送料無料なんておかしい」「再配達しなくていいように、なるべく予定時間に家にいるようにしよう」と呼び掛けていますが、意識が高い人が運送料を負担し、宅配便が来るまで家でじっと待っていて、事情を知らない人は業者にクレームをつけまくる、というのでは、あまり問題の解決にはならない気がします。
 なんのかんの言っても、わざわざお金も手間もかかるほうを選ぶ顧客は少ないのです。

 発端は、国土交通省が2008年に出した報告書。2015年にはトラックドライバーが14万人強不足する、という予測を立てた。理由は、他業種と比べ給与水準が低く、しかも長時間労働であることに尽きる。
 同省が、2013年に発表した資料によると、全産業平均の月収が31万円台であるのに対して、トラック事業の平均月収は29万円台で、月2万円の開きがある。年収では416万円で50万円以上の開きとなる。労働時間に関しては、全産業平均の年間実労時間が1700時間台であるのに対して、トラック事業は2200時間台、その差は500時間近くとなる。
 労働時間は長く、賃金は安い。つまり、割の悪い仕事だというので、若い世代はドライバーという職業を敬遠し、ドライバーの平均年齢は徐々に上がっていく、という悪循環に陥っている。日本の年齢別の労働人口では、29歳以下が18%を占めるのに、大型トラックのドライバーでは、わずか3%台にとどまる。いかに若年層に避けられているのかが如実に現れている数字だ。


 そんなに人が足りなくて、ニーズが高いのであれば、もっと条件を良くして、人を集めればいいのに、とも思うのですが、自動運転車やドローンによる宅配など、テクノロジーによって「人が要らない配送」にシフトしていく可能性があるので、どんどん人を増やすのもためらわれるのです。
 大手の荷主が、極限まで運賃を下げようとし、顧客も「安い(あるいは無料の)配送料が当たり前」という感覚になってしまっているため、結局は「現場のひとりひとりの頑張り」に頼っている、というのが現状です。
 しかし、どんどん荷物が増え続けるなかで、それもどこまで耐えきれるものなのか……
 もしかしたら、オンラインでの映像やゲームの配信、Kindleの普及などで、人が運ばなくてはならない荷物は減っていくのかもしれませんが、食べ物や生活用品といった、「値段のわりにかさばるもの」の割合が増えていけば、あまりラクにはならないと思われます。
 むしろ、さらに割に合わなくなっていくのではなかろうか。


 この本のなかで、著者は、ヤマト運輸と佐川急便の歴史を概説し、その収益構造の違いから、「なぜ、佐川急便はAmazonの荷物から撤退することができたのか?」を説明しています。
 同じ宅配便の会社でも、実際は、扱う荷物の種類で、かなり「棲み分け」がされていた業界だったのです。

 ドライバー歴が20年近くとなる井原(仮名)は、宅配業務を最も難しくしているのが再配達と時間指定サービスだ、とした上でこう話す。
「時間指定がなければ、時計の針なら、12時からはじめて、1時、2時、3時というように最短のルートを組むことができます。でも、時間指定があるために、時計の針の12時からはじめて、次は6時の場所、その次は9時の場所に配達してから、3時の場所に配達しているのが現状です。そのため、配達の動線はどうしても長くなるんです。
 さらにネット通販などで受け取る顧客自身が配達時間を自分で選びながらも、実際に行ってみると不在だ、ということが毎日、相当数に上るという。これを解決するには、追加料金を徴収すればいい、と提案する。
「もし自分で指定した時間に受け取れないのなら100円をお客さんからいただくという発想があってもいいんじゃないでしょうか。当社には、<飛脚ジャストタイム便>という厳格な時間指定の商品があって、通常の2倍以上の料金をもらっています。そのサービスを使う人が不在ということはまずありません。どうしても必要としているお客さんがお金を払って使うサービスなんです。でも、現在のように、時間指定が無料のままならば、セールス・ドライバーはお客さんとの約束である時間指定を守るために四苦八苦しながら、一方のお客さんは自分で指定した時間に不在であってもペナルティーがないわけです。これでは対等な約束とはなりません」
 至極もっともな話である。


 もっともな話である一方で、追加料金を徴収される可能性がある会社と無い会社が同じ料金ならば、僕は徴収されない会社を選ぶだろうな、とも思うのです。
 

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