琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【映画感想】来る ☆☆☆☆

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あらすじ
幸せな新婚生活を送る田原秀樹(妻夫木聡)は、勤務先に自分を訪ねて来客があったと聞かされる。取り次いだ後輩によると「チサさんの件で」と話していたというが、それはこれから生まれてくる娘の名前で、自分と妻の香奈(黒木華)しか知らないはずだった。そして訪問者と応対した後輩が亡くなってしまう。2年後、秀樹の周囲でミステリアスな出来事が起こり始め......。


kuru-movie.jp


 2018年、映画館での33作目。
 平日の朝の回で、観客は僕も含めて2人でした。
 
 原作小説は未読ということもあり、予告編をみた時点で、「何なんだこれは?」と思っていたのだけれど、観終えてもやっぱり、「何なんだこれは!」としか言いようがない映画だったんですよね。
 そして、あの中島哲也監督の新作にもかかわらず、そんなに話題になっていない理由もわかったような気がします。
 「面白くない」んですよこれ。いやほんと、この映画を「他人事」として観ることができる大人がいるのだろうか。
 とくに前半の、妻夫木聡さんが演じていた田原秀樹の「(偽)イクメンブロガー」っぷりには、観ているほうが恥ずかしくなるのと同時に、こうしてネットであれこれ発信している人間のひとりである僕としては「発信している自分と実際の自分のギャップを見透かされている」ようで、観るのがイヤになってきました。
 SNS社会って、みんながそれぞれ「盛って(美化して)いる」ところはありますよね、多少は。逆に、本当にありのままの自分を発信していたら、いろんなことがギスギスしてしまう。
 個人的には、田原さんのイクメンブログは、『はてなブログ』だったら、厳しいブックマークコメントにさらされて、大炎上していたような気もします。というか、今は、きれいごとばかりのブログっって、あんまり読まれない時代ではあるんですけど。

 それにしても、冒頭の田舎の田原家の実家の宴会や披露宴の風景など、「めんどくさくて不快な人間関係」を、ここまで長々と徹底的に描いてみせるという中島哲也監督は、よほどの露悪主義者なのか、「理想の家庭の嘘」を皆様に告発したいのか。
 正直、ここまでやられると、「うへえ」って感じで、この映画を誰に薦めたら良いのか、わからなくなります。


 ホラー映画には「怖いけど、観終えてスッキリ」みたいなタイプのものもありますよね。
 でも、この映画の場合、上映終了後に映画館を出て、ふと思うのです。
「ああ、また『怖い』現実世界に戻ってきてしまったな」って。
 人が、いちばん怖いんだよね、いつの時代も、どこの世界でも。


 個人的には、小松菜奈さんの登場シーンがいちばんインパクトがありました。そんなに露出がすごいわけではないのに。中島哲也監督は、こういう「シーン」がうまいよなあ。


 その一方で、この『来る』に関しては、端的に言うと「支離滅裂」としか言いようがないところが目立つのも事実なのです。
 思わせぶりな秀樹の幼少時の回想シーンの意味とか、結局、何が「来た」のかがよくわからなくて、『シン・ゴジラ』のような、大仰な除霊の舞台を整えたわりには、実際の闘いは、きわめて狭い範囲で行われていることなど、「ズレているのか、ズラしているのか、判断しかねる」作品になっています。こちらが「中島哲也作品」ということで、勝手にあれこれ忖度しているだけで、実際は「広げた大風呂敷の畳み方がわからないままタイムリミットが来て、強引にまとめて公開してしまった映画」なのか。
 これを「破綻している残念な作品」と評価するか、「予測不可能なエンターテインメント」と受け入れるかで、この映画への評価は分かれると思うのですが、僕はけっこう好きでした。いや、ものすごく不快で、「なんでここまで、世の中のそれなりの時間を生きてきた人間(=大人)が全方位的にうんざりするような映画をつくって、それを全国公開してしまうんだ中島哲也!」とも言いたいのだけれども。
 逆に言えば、子どもだけが、この映画を真っ向から否定できる存在であり、だからこそ、大人にとって子どもは残酷な生き物なのだ、とも言える。

 妻夫木聡さんと黒木華さんの「怪演」もあって、気分は悪いけれど画面に引きつけられる映画ではありました。
 だって、黒木さん、ねえ……
 
 この支離滅裂さには、映画ファンには怒られるかもしれないけれど、松本人志監督の『大日本人』を思い出したんですよね。
 単なる思いつきなのか、そこに深い意味があるのか、「信者」が深読みしているだけなのか。
 あまり意味のないシーンを大がかりに撮影しているからすごい!って、誉め言葉になるのか。

 どこへ行こうとしているんだ、中島哲也。この『来る』にけっこうなお金がかけられて、大規模に全国公開されてしまうのは、すごいことだとは思うけれど、こういう「行き場のないリアルな不快感と不安感」を映画に求めている人が、そんなにいるのだろうか。

 
 家族や夫婦、恋人同士での鑑賞には向かない映画です。
 これをみて、ふたりで「くっだらねえこれ!」って笑い合えるようなら、健全なんだろうけどねえ。


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