琥珀色の戯言

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【読書感想】博愛のすすめ ☆☆☆☆

博愛のすすめ

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Kindle版もあります。

博愛のすすめ

博愛のすすめ

内容紹介
憐憫の情か、それとも――、これは「愛」なのか!?
世のバカを憂うばかりでなく、
「愛」ある視線で見守る博愛主義かつ偏愛主義な
二人の対談集!

毒舌の果てに見た新境地。
このロクでもない世界で幸せに生きる知恵。
それが「博愛」――。

これからの社会を動かすキーワードは「愛」。
いつも「世界人類が平和になりますように」と祈っている博愛主義者・適菜収が、
同じく博愛主義である中川淳一郎と、
今こそ必要な「愛」について語りつくした!


 ネットニュース編集者の中川淳一郎さんと作家・哲学者の適菜収さんの対談本。テーマは「愛」! この二人の対談なので、もちろん、まっすぐな恋愛話とかにはならないんですけどね。
 

適菜収:愛がない場所で働いてはダメですね。


中川淳一郎オレは(二人が喋っている)ビヤホールのキリンシティではきちんと働ける気がするんです。この店はビール好きが来る店だから、美味しいビールを出そうと頑張ると思う。でも、チェーンの居酒屋では無理だと思います。美味しいビールを出そうとする気がなくて、客をさばくことしか考えていない。「二時間までです」とか「キャンセル料はきっちり二人分もらいます」とか言ってくる。大規模コンパをこなすのが目的なんですよ。


適菜:飲食店も愛で判断したほうがいい。


 「働く」ということに人が求めるものは、なかなか複雑だよなあ、と僕は思うのです。
 もちろん、食べていけないくらいの安い報酬では、生活が成り立たないし、一部の飲食業界でみられているようなブラック労働では身がもたないので論外です。
 でも、仕事の内容としては、キリンシティのほうが、チェーンの居酒屋よりビールを入れることに対して、高度の技術は求められるし、そのわりに、ものすごく給料が高い、というわけでもないはずです。
 それでも、ちょっとラクをして稼げるよりも、「好きな人に喜んでもらえる」「自分の仕事をきちんと評価してもらえる」環境のほうに魅力を感じる人は、少なくありません。
 お金は大事なんだけれど、多くの人は、お金だけでは、なかなか満足できない。
 まあ、「愛」って何なのか、というのは、ものすごく難しいんですけどね。
 この対談でも、さまざまな角度から「愛とは何か」について語られているのですが、そう簡単に結論が出るようなものじゃないのです。
 わかりやすくしてしまえば、「人に褒められたい」「モテたい」っていうのは、あるんでしょうけど。


 お二人は、政治について、こんな話をされています。

中川:郵政選挙のときも、小泉さんを邪魔する自民党守旧派はダメだという話でしょう。


適菜:そうです。郵政民営化に反対したまっとうな議員に「抵抗勢力」というレッテルを貼り、自民党から追い出したわけです。公認せずに、刺客を送ったり。めちゃくちゃですよ。衆院でギリギリ郵政法案は通って、参院で可決されたんです。そしたら、小泉は「民意を問う」と言って、衆院を解散した。


中川:あれはひどかった。


適菜:「国民の皆さんに判断を委ねたい」と。議会も参院の役割もわかっていないわけです。あれは議会主義の否定だし、手続きの否定です。自分に反対するやつは追放すると。あれで自民党は完全にダメになってしまった。小泉は「自民党をぶっ壊す」と言っていましたが、本当にぶっ壊してしまい、今もぶっ壊れたままです。


中川:そこが政権を握っていて、次も圧勝しそうなわけじゃないですか。


適菜:だから、どうにもならないんです。B層は「民主党に騙された」と言いますが、それなら自分が簡単に騙されるバカであることを自覚すべきなんですよ。「自分は判断能力が欠如しているがゆえに騙されたのだから、今信じているものにも騙される可能性がある」と考えるのが普通の人間です。でも今、安倍に騙されている情弱は、自分の判断が騙されているとはつゆほども思わない。それで、安倍政権の売国の実態に気づいたときには、「当時はそんなことを知る手段がなかった」「報道しなかったメディアが悪い」などと言い出すのでしょう。ワイドショーを見てボンヤリしているうちに、巨悪に加担してしまうのが今の時代です。


 この対談は、2017年10月22日の衆議院選挙の前に行われたもので、小池百合子都知事が「希望の党」をつくり、そこに民進党が合流する、ということは、お二人は(もちろん僕も)予想していなかったと思います。
 正直、僕自身、選挙のたびに、「自民党をぶっ壊す!」の小泉さんに乗っかったり、「政権交代」の掛け声と「自民党の権力者たちの没落」に快哉を叫んだり、民主党の惨敗に「そりゃそうだろ」と毒づいたりしてきた、「情弱」なわけです。
 小泉さんの改革やアベノミクスについては、効果があった人や業界があったのは事実だとは思うのですが、日本全体でいえば、格差がさらに広がる要因になりました。
 今回(2017年10月)の選挙で、小池さんの希望の党が最初の盛り上がりからどんどん失速していったのをみると、みんな少しずつは学んでいるのではないか、「新しいこと」や「リセット!」なんて叫んでいるだけの以前と同じ人たちに、乗せられなくなってきているのではないか、とも感じるのですけど。
 ただ、今回躍進した立憲民主党も、枝野さんというトップはさておき、その他は「民進党左派のいつもの人たち」なわけで、一過性の「ブーム」とか「判官びいき」である可能性が高いのではないか、と僕は危惧しているのです。
 いやもう、さすがに「自分は判断能力が欠如しているがゆえに騙されたのだから、今信じているものにも騙される可能性がある」と思っているのだけれど、「騙されていないと自信を持てる選択肢」が存在しないのだよなあ。いったい、どうすれば良いのだろうか。

中川:「なんか好きだ」とか「なんか嫌いだ」という感覚は言語化できない。でも、自分にはしっくりくる。


適菜:「なんか違う」とか。


中川:女の人に「私のどこが好きなの?」と聞かれて、Dカップだからいいと言ったら、信用されないと思うんですよ。


適菜:言葉で説明しようとするのが、若者の陥りやすい罠です。


中川:正解は、「なんか好きなんだよ」です。すべての問いに対して答えを求めるのが今の世の中です。政治もそうです。オレはもっと人間世界は曖昧でいいと思う。


適菜:私が「政治家は顔で選べ」と言うと、「美男美女がいいのか」「お前の顔はどうなんだ」といった反発があります。そうではなくて、理想なんて誰でも語れるんです。でも、その理想を語るときの口調、立ち振る舞いに「なんか」が出るということです。「なんかこの人好きだな」「なんか信頼できるな」と。公約だのマニフェストだのアジェンダだの維新八策だのほとんど嘘とデタラメですよね。それに愚民は騙される。でもまっとうに生きている人間は、安倍晋三菅直人橋下徹の顔、語り口調、立ち居振る舞いを見ているわけです。「なんか信用できない」と、その政治家が国会で質問している姿だったり、選挙カーに乗って手を振っている姿でもいい。それを見なければいけないということです。


中川:そうなると自分の感覚をどう磨くかということですね。


適菜:新渡戸稲造が、どうやって人を見抜くかという話をしています。礼服を着て、きちんとしているときよりも、浴衣を着て散歩しているようなときのほうが、人間が表れると。人間の性格を見るには、その人間がなにも考えていないとき、物を食っているとき、咳払いをしているときに表れると。だから、箸をきちんと持つことができない政治家は危ない。


 なるほどなあ、と。
 言葉にできるような「理由」よりも、「なんか好き」のほうが説得力があるというのは、僕にもわかるような気がします。
 その「自分の感覚」がアテにならない、というのが僕にとっての最大の課題ではあるのですが……


 「博愛」についてのこの話に、僕はけっこう感心したんですよね。

中川:前に2ちゃんねるの書き込みで面白いのがあって将棋の羽生善治の話です。羽生のライバルである渡辺明という棋士を支持している人たちがいるんだけど、両派は仲が悪い。ただ、地球が宇宙人に攻められ、宇宙人に地球を支配させるかどうかの勝負を将棋でやることになったとしたら、渡辺支持者も、やはり羽生を出すしかないだろうと。それでみんな納得したんです。そこで博愛が生まれたんですよ。


 ああ、僕は長年のアンチ巨人だけれど、野球の日本代表チームをつくるとしたら、やっぱり菅野は欠かせない、と思うものなあ……
 もしかしたら、「博愛」というのは、何か巨大な外敵が存在するときの「内輪」にしか生まれないのかもしれませんね。でも、それは「博愛」なのか……?


fujipon.hatenadiary.com
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日本をダメにしたB層の研究 (講談社+α文庫)

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