琥珀色の戯言

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【読書感想】「コト消費」の嘘 ☆☆☆

「コト消費」の嘘 (角川新書)

「コト消費」の嘘 (角川新書)


Kindle版もあります。

「コト消費」の嘘 (角川新書)

「コト消費」の嘘 (角川新書)

内容紹介
「モノ」より「コト」ってホント?


連日メディアをにぎわす「コト消費」という言葉。
だが言葉に踊らされて「コト」だけを売り、売上に結びついていない事例も少なくない。
また「コト=体験」といった表層的な理解で語られることも多い。
「コト」と「モノ」をきちんと結びつけ、「買いたい!」「また来たい!」と思わせる売り方を、
多数の実例から紹介する。


 僕自身が直接「モノを売る」仕事をしていないからなのかもしれませんが、何を言いたいのか、伝わりづらい本のような気がしました。
 個々の事例に関しては面白い話がたくさんあるのですけど。
 著者は広告代理店勤務から独立し、「物語で売る」というのをテーマに何冊も本を上梓されています。

 当たり前ですが、「体験型コト消費」を狙うことが悪いと言っているのではありません。世の中の消費シフトが「モノ」から「コト」へ移っているのは間違いありません。
 特に旅行会社・鉄道・ホテル旅館・アミューズメント施設などの観光産業にとっては、「体験型コト消費」に焦点を合わせるのは、当然といえば当然でしょう。
 観光産業にとっては「交通機関に載ってもらう」「宿に泊まってもらう」「施設を利用してもらう」ことがメインの商品だからです。
 つまり「コト消費≒モノ消費」と言えます。
 それはライブなどのイベントでも同じです。
 もちろん、それに加えて「お土産」「グッズ」などが売れればそれに越したことはないですが、まずはメインの商品が売れなければ話になりません。
 しかし、観光以外の産業が「体験型コト消費」を狙っても、なかなかうまくいかないのが実情です。それだけでは商品としては成立していないからです。体験というコトがメイン商品(モノ)につながらないケースが多いのが実情です。
 よく見かけるのは、商店街や自治体がイベントやお祭りなどを実施して、その時は商品が売れても、リピートにはつながらないというケース(もっと悪いのは、人は来たけど当日もモノは売れなかったというケース)でっす。
 ひょっとしたらこの本を読んでくれているあなたも、それに近い経験をしたことがあるのではないでしょうか?
 新しい大型商業施設が取り入れようとした様々なタイプの「コト消費」もまさにこのパターンのように思うのです。


 著者は、最近オープン、あるいはリニューアルした各地の大型商業施設を巡ってレポートをされています。
 なるほどなあ、と思うところもあるのですが、正直、「いかにしてモノを売るか」を生業にしている方だけに、買う側である僕としては、「ここまで、なんでもかんでも『お客さんに売りつける気満々』であること」が伝わってしまうと、かえって客側としては引いてしまうんですよね。
 そもそも「欲しい商品を買う」だけであれば、ネット通販を利用したほうが、安いことも多いのだから。
 個人的には、「まずはお客さんを楽しませる、気持ちよく過ごしてもらう」ことを、もっと重視したほうが良いと思うのだけど。
 あまりにも「モノを買わせる」ことが目的であることが透けてみえるような「仕掛け」や「物語」に、もう、買う側は引っかからない。
 逆に、「これだけ楽しませてもらったんだから、何か買ってあげようかな」って、客側が自発的に買い物をするような場所が、求められているのではなかろうか。
 ネットで、「仕入れすぎてしまったプリンを生協の担当者が買ってほしいと懇願したところ、完売してしまった」なんていうエピソードを見るたびに、みんなけっこう優しいし、ちょっとした付加価値みたいなものを日常に求めているんだな、と感じます。
 でも、「わざとプリンをたくさん仕入れて、誤発注のふりをして売りさばこう」としたら、どんなにうまくやろうとしても、売れないかバレると思うんですよ。
 そのくらいの処世術を、みんな身につけてきているのではなかろうか。


 銀座ロフトの「コトモノ指数」の評価のなかに、こんな話が出てきます。

 TEAM LOFTなどの「ヒト」を前面に出すという施策は素晴らしい取り組みです。
 私が訪れた日は6階「ネクストクリエイション・トラベル・モバイルツール」にて、「仕事なんて持って旅にでよう」と題する特設売り場が設けられていました。ノマドスタイルという新しい働き方で有名になった執筆家の安藤美冬さんが、旅先で愛用しているアイテムやお薦めのトラベルグッズなどをリコメンドエッセイにして紹介するという売り場です。
 このように「ヒト」にスポットを当てた施策をどれだけ「モノ」につなげて、ワクワクするような空間にできるかが、この店が多くの人の支持を得られるかどうかの課題になってくるでしょう。


 僕は長年地方都市住まいなので、東京ではどうなのかわからないのですが、「安藤美冬さんお薦め」って、そんなに希求力があるのでしょうか?
 正直、ノマドワークっていう、「働き方アピール」だけで、実際は何をやっているのかわからないまま、消えていってしまった人、というのが僕のイメージなんですよ。
 その安藤さんの「リコメンドエッセイ」なんて、「とにかく売る気だけは満々」な仕掛けだとしか思えません。
 これで「ワクワク」できる人って、そんなにたくさんいるのかな……


 店員と客との距離感、についての話など、興味深いところもけっこうありました。

 たしかに、商品を見ているだけなのに、店員が寄ってきて「商品の解説をし始める」「商品をオススメされる」のはイヤだと感じる人が多いでしょう。また営業マンに一対一で売り込まれるのが好きだという話も聞きません。
 しかし、自分が安全地帯にいて、無理やり買わされる危険性がない場合は、商品説明を聞きたい人が実は多いのではないか、ということです。
 この「お客さんが安全地帯にいる」というのは重要なポイントです。
 これを「安全地帯にいるお客さんはもっと商品説明を聞きたがっている仮説」と呼ぶことにします。
 もちろん、この仮説には大前提があって「説明をするに値するクオリティを持った商品」であることが必須です。
 この仮説を裏付けるものに、テレビショッピングがあります。
 一般的にテレビショッピングでは、詳しく何度も商品説明が繰り返されます。
 自分に関心がある商品であれば、その説明を聞いているのは決して苦痛ではなく、聞いているうちに徐々に欲しい気持ちが高まる場合も多いです。
 店頭でもしかり、東急ハンズなどでは、商品をしっかり説明する実演販売士も驚異的にモノを売ります。
 このようなケースでは、商品説明自体が「コト」になっていて、それが直接「モノ」につながっているのです。


 この「自分が安全地帯にいることができれば、商品説明を聞くこともやぶさかではない、というか、聞いてみたいことも少なくない」というのはわかります。
 そう考えると、ロボット販売員が近い将来、どんどん増えていくかもしれませんね。


 あと、台湾にある「宮原眼科」というお店、僕はこの本ではじめて知ったのですが、行ってみたいと思いました。

 台湾の中央部、台北、高雄に継ぐ第3の都市・台中にその「眼科」はあります。
 地元民はもちろん、国内外の多くの観光客が、世界一美しいと言われているその眼科を訪れます。建物の中はいつも混み合っていますし、外には長い行列ができています。
 その名前は「宮原眼科」。
 と言っても、病院ではありません。
 地元の菓子メーカーで、パイナップルケーキが有名な「日出集団(DAWNCAKE)」によって、2012年に創られた巨大スイーツショップなのです。


 なぜ「眼科」なのかというと、もともと眼科の病院だった建物を活かしてつくられているからなのだそうです。
 「世界一美しい『眼科』」なんて言われたら、行ってみたくなりますよね。日本ではなく、台湾にあるというのも気になります。


 個人的には、実店舗や対面での「モノ消費」は、今後も上向きにはなりづらいと思っているのですが、「それでも、モノを売らなければならない人々」にとっては、参考になるところも多いはずです。


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