琥珀色の戯言

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【読書感想】フェイクニュース ☆☆☆☆

フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 (角川新書)

フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 (角川新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
「ねつ造された報道」などというイメージとは異なり、いまや戦争兵器としての役割をも担うフェイクニュース。国家が本気でその対策を取る時代になっているにもかかわらず、日本では報じられない、その真の姿を描く。


 「フェイクニュース」というと、「ニセの情報に踊らされないように、みんな、ネットリテラシーを磨きましょう!」みたいな話になりがちなのですが、この本を読んで、現代の情報戦争の一端を知ると、「もう、個人レベルでどうこうできるようなものじゃないな」と考えざるをえなくなるのです。

 フェイクニュースがここまで大げさな話になっていることには理由がある。ネット世論操作は近年各国が対応を進めているハイブリッド戦という新しい戦争のツールとして重要な役割を担っている。ハイブリッド戦とは兵器を用いた戦争ではなく、経済、文化、宗教、サイバー攻撃などあらゆる手段を駆使した、なんでもありの戦争を指す。この戦争に宣戦布告はなく、匿名性が高く、兵器を使った戦闘よりも重要度が高い。EUアメリカ、ロシア、中国はすでにハイブリッド戦の体制に移行している(あるいは、しつつある)。そのためフェイクニュースネット世論調査はハイブリッド戦という枠組みのなかで考える必要がある。単体でフェイクニュースのことを取り上げても有効な解決策は生まれない。
 別な角度から考えるとフェイクニュースネット世論操作は社会変化を反映しているとも言える。ネットの普及がもたらした社会変化のひとつであり、民主主義の終焉でもあり、低い文章読解力がもたらした弊害でもある。フェイクニュースというのは我々の社会が、現在直面している軍事、社会、そして民主主義の危機を象徴している。単純にファクトチェック組織を作るとか、事業者が管理を厳しくするとかで解決できる話ではない。


 いまや、「フェイクニュース」は、みている人を騙して喜ぶ、というような単純なものではなくて、国家や公的な組織が事実の一部を強調することによって世論をミスリードしたり、特定の国や組織に対し、好印象を持たせたり、悪印象を植えつけたりする「ハイブリッド戦」の一部になっているのです。
 ミサイルを撃ち込んだり、派兵したりするのはリスクもコストも高いので、相手国の世論を動かすような情報操作(印象操作)を行う「戦争」が、ネット上で現在も行われています。
 敵対する国を軍事力で抑えつけるよりも、ネットでその国の世論を自分の国寄りにするほうが、はるかに効率的ですよね。
 もちろん、さまざまな勢力がそれぞれの思惑で動いているし、世論というのも、そんなに簡単に操作されるわけではないのですが。


 この本のなかでは、ロシアの組織がアメリカ大統領選でフェイクニュースを流してアメリカの分断をすすめた例や、ヨーロッパ各国の政党にも影響を与えている例が紹介されています。

 また、ツイッターでのフェイクニュースの拡散による株価の操作の事例もあり、金融市場をターゲットとしたフェイクニュース企業もすでに存在しているそうです。

 もはや、フェイクニュースは、愉快犯がつくるものではなくて、ひとつの「産業」となっているのです。
 当事者にとっても、泥棒や強盗を自分の手でやるよりも、罪悪感はずっと少ないでしょうし。

 事実かどうか確認する「ファクトチェック」がネットには存在しているわけですが、それがうまく活かされていない、というのが現実なのです。

 MITメディアラボツイッター社の協力を得て、過去の全てのツイートを対象(アカウントが停止、削除されたツイート、削除されたツイートなどを含む全量)に調査した結果だ。『事実報道とフェイクニュースの拡散(The spread of true and false news online)』(2018年3月9日、Soroush Vosoughi, Deb Roy, Sinan Aral, Massachusetts Institute of Technology (MIT), the Media Lab)では、ウソと真実の情報の伝播速度や範囲などが比較研究されている。
 この研究では六つのファクトチェックサイトで真偽判定を受けた事実とウソの情報をピックアップし、それぞれがどのように拡散していったかを比較している。
 ウソは事実よりも速く広く拡散する、という結果は一部では衝撃的に受け止められた。これまで何度も「フェイクニュースに比べて、その検証記事は10分の1程度しか拡散されない」といった話は経験則として語られてきた。それがデータによって現実はさらにひどいことが拡散された。事実が伝播するのは1000人程度であるのに比べ、ウソは多い時は10万人まで拡散する。拡散力において100倍、拡散速度は20倍である。もっともよく取り上げられるテーマは政治でずば抜けて多く、その伝播速度も速い。
 拡散しやすいウソに対する感情は、「驚き」、「嫌悪」が多い。論文ではそれまで知らなかった新しいことについてのウソに反応しやすいとしている。しかし単純にブライトバートや日本のネット上でヘイトスピーチを繰り返す人々を見る限り、「それまで知らなかった新しいこと」よりは単純に既知の憎悪の対象に対する新しい嫌悪感をもよおすウソに反応しているように思える。このへんの解釈はバリエーションがありそうだ。
 この調査ではボットの与える影響については否定的で、インフルエンサーの影響も認められなかったとしている。ふつうの人が拡散していることになるが、トロールやサイボーグが使われている可能性は残る。サイボーグとはシステムの支援によって高速、効率的に人間が運用しているアカウントである。


 フェイクニュースがあっという間に広まっていくのに比べて、それがウソであることを指摘したものはなかなか拡散されないし、ウソだとわかったあとも、拡散した人々はほとんど謝罪することはないのです。
 「炎上」するような記事や発言についても、それに対する修正や謝罪はなかなか浸透しない。
 「人は見たいものを見る」ということが、MITの研究でも明らかにされているのです。


 フェイクニュースは、すでに世界中に広がっているのです。

 日本ではあまり紹介されることがないが、フェイクニュースネット世論調査はアジアにも広まっている。特に目立つのは、敵対う政党やメディアが発信する情報を「フェイクニュース」として批判し、処罰、追放することだ。2018年1月22日、ロイターは『東南アジアの指導者たちは「フェイクニュース」を口実にしてメディアを統制し、批判者を処罰する(’Fake news' crutch used by SE Asian leaders to control media, critics charge)』という記事でいくつかの例をあげて、東南アジアで行われている政府によるフェイクニュースを口実にした言論統制の実態を紹介している。
 インドやフィリピンではフェイクニュースを使いネット世論調査を行った政党が政権を取っているし、インドではフェイクニュースが原因の殺人事件が珍しくない。カンボジアやフィリピンでは政治家がネット世論操作戦略専門家を雇って世論調査を行うのが当たり前になっており、フィリピンの大統領は大々的な世論操作を行って。カンボジアでは対立する野党の党首をフェイクニュースで国家叛逆を企んだとして逮捕、投獄した。
 またアジアの特徴としてフェイクニュース産業とでも呼ぶべき業界ができあがっている事があげられる。発注者は主に政治家で、多数のトロールやボットを運用しているネット世論操作戦略専門家(PR戦略家と呼ばれているが、やっていることはSNSを通じた世論操作に他ならない)に選挙で有利になるようにネット世論操作を依頼する。


 敵対する勢力を明らかな証拠がなくても、「フェイクニュースを流した」として処罰する、ということも珍しい話ではないのです。 
 こうして、お互いに「あいつらはウソつきだ!」とやりあっていれば、よほど慎重にファクトチェックをする人でないかぎり、どちらが正しいかの判断はつけられなくなってしまいます。


 そして、こういう世の中の変化から、日本も無縁ではないのです。

 巻末には「参考文献リスト」があって、自分で調べてみたい人には、おおいに役立つはずです。ここまできちんとしている新書はそんなに多くはないんですよね。
 もはや、個人のリテラシーでは太刀打ちできなくなった、国家のハイブリッド戦の一部としてのフェイクニュースが膨大な資料やデータとともに論じられている、興味深い新書でした。
 

フェイクニュースの見分け方(新潮新書)

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