- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 青春出版社
- 発売日: 2019/02/02
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Kindle版もあります。
- 作者: 佐藤優
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内容紹介
読書は人生においてどのような役割を果たすのか。本を血肉にするにはどのような読み方をすればいいのか。なぜ読書は人生を豊かにしてくれるのか――。
作家、元外交官、教育者、神学者などさまざまな面をもつ著者がはじめて明かす、「読書の哲学」。
世の中には、さまざまな「読書法」「読書術」の本があるのですが、たくさんの本を読んで、それを吸収し、実際に自分の作品としてアウトプットしているという点では、佐藤優さん以上の説得力を持っている人はほとんどいないと思います。
僕は「本を読むことのすばらしさ」を語っている人の多くに対して、「とはいえ、どんなにたくさん本を読んでも、こんな人にしかなれないのか……」と感じてしまうので……
しかし、これを読んでいると、僕に真似できるようなものではないな、と痛感せざるをえないのも事実なのです。
それでも、「真似できるかもしれないけれど、役に立たない読書術」よりは、「真似するのは無理だろうけれど、質的にも量的も、ここまでやれば、そりゃモノになるだろうなと納得せざるをえない読書術」に触れることができるというのは、良いことだと思うんですよ。
意外だったのは、外交官だった佐藤さんは、もともと作家になる気はなかった、ということでした。
鈴木宗男事件で逮捕され、512日間、東京拘置所に勾留された際に、外務省に属したままできるアルバイトが執筆による副収入だけだったため(公務員の兼業禁止規定にもとづく)、作家としてお金を稼ぐしかなかった、とのことでした。
立場上、自分の身に起こっていることの「説明責任」を果たすという意味もあったそうです。
もし、あの事件がなければ、佐藤さんが作家として世に出ることはなかったのかもしれない、と思うと、世の中、何が人生を変えるかわからない、と思うのです。
そして、この本を読んでいると、佐藤さんのような「市井の賢者」は、他にもたくさんいるのだけれど、みんな、その知を自分の中に抱えたまま生を終えていっているのではないか、とも感じます。
「表現すること」に対して、佐藤さんは、こんな話をされています。
表現するというのは対象化することです。対象化するとは、物事対して一定の距離を置いて客観視することと同じです。書きたいことがないとか、何をどう書けばいいかわからないという人は、この対象化ができていないことが多いです。
表現したいこと、表現しうることは誰しももっているはず。たとえば将来どんなキャリアを築いていこうとか、結婚はどうするかとか、独身なら老後や倒れたときにどうするか……。生きていくうえでの問題や葛藤、悩みは誰しもあるでしょう。
それを書き出して考察するだけで、自然に文章、表現になっていくのです。たとえば介護が必要な親がいるとして、年間いくらかかるか計算してみる。約5年で500万円以上の金額がかかるとすると、何をどうしなければならないかが見えてきます。そこで政治の問題に関心が向いて、そのことを調べていくと書くネタになるし、自分の今後の行動や活動の方向性も明確になっていく。なかには政治的な運動を積極的に行おうという人が出てくるかもしれません。
物事を対象化することで思考が展開していく。それが意見や意志、行動にまでつながっていき、そこから書きたいこと、書くべきことが生まれていく。その連鎖(=スパイラル)なのです。
文章教室や文章技法に関する本はたくさんありますが、表現したいこと、表現するべきことをどうつくりあげていくか? この根本的な議論がほとんどされていません。ポイントは対象化であり、言葉によって思考から意志、行動、表現へとつながる連鎖をつくることだと私は考えます。
ブログで「書くことがない、思いつかない」という人にとっても、すごく参考になる話ではないでしょうか。
いま、自分の身におきている身近な問題を「対象化」することができれば、それは立派な「ネタ」になるのです。
佐藤さんがこれだけ多くの本を上梓しつづけていられるのは、アイデアを出す技術を持っているから、なんですね。
この本では、作家、外交官、人間、教育者、教養人、キリスト教者、という「なりたいもの」に応じた具体的な読書の方法も、かなり丁寧に説明されているのです。実際にこの通りにやるのは難しいとは思うのですが、少なくとも、なんらかのヒントにはなるはず。
世の中の「読書術」は、「本をたくさん読むために読む」という他人に自慢するためにしか役立たないものが目立つのですが、佐藤さんは、外交官として相手の国を知るために本を読む、あるいは、キリスト教者、神学者としての研究目的、興味から本を読まずにはいられなかった、という人なので、かなり実践的な内容になっています。
高校教科書が有用なのは、歴史や地理、政治経済などの分野でも同様です。教科書や参考書を読むことで、その基本を効率的に身につけることができます。
私が推奨するのは文英堂のシグマベストシリーズ。特に『理解しやすい政治・経済』は、現代政治・経済の基礎知識を身につけるのに非常に優れたテキストです。教科書だと詳しい解説が足りないこともありますが、学習参考書は詳しく解説されていて非常に参考になります。
たとえば、「民族」の定義はアカデミズムでも諸説分かれていて複雑ですが、『理解しやすい政治・経済』では、「民族の定義は多義的である」としたうえで、「(1)伝統的な生活様式という文化(言語、宗教、歴史、伝統などを含む)の共有に基づいて他の民族と区別されるし、(2)それに『われわれは何人である』という主観的な『われわれ意識』が加わる、という特徴がある。したがって、民族形成は長期にわたる過程を経ているし、今後も変動する流動性をもつとされる」(同書304ページ)というように、見事にさまざまな見解を折衷した定義をしています。
教科書や学習参考書をカバンに入れておき、行き帰りの通勤時間や就寝前の1時間を読書にあてる。それだけで起訴教養が驚くほど身につきます。
ちなみに私は日本とロシア、イギリスの教科書を比較したことがあります。各国の教科書を比較研究することはインテリジェンスの基本なのです。
たとえば仕事でアラブ諸国に出張が決まり、イスラム事情に関する知識を身につける必要があるとしましょう。過去の私の経験からして、基礎的な情報を得るのにかける時間は30時間くらいがちょうどいいはずです。
出張まで2週間あれば1日2時間、14日で28時間の時間がとれます。その時間を書籍による勉強にあてるのです。私だったら、まず複数の基本書をそろえます。とはいえ、どの本が基本書なのかがわからないという人も多いでしょう。その場合、学者や専門家の意見を開くのは少し危険です。というのも、彼らは自分の学説などにこだわり、狭い領域での偏った本を紹介する可能性があるからです。
私がおすすめするのは大型書店で書店員に尋ねることです。この人たちは幅広い分野の本についての俯瞰した知識をもっています。東京なら丸善本店、八重洲ブックセンター、ジュンク堂や三省堂といった大型書店です。その専門書コーナーで、書店員に知りたい分野の基本書はどんなものがあるかを聞くのです。
彼らの知識はときに大学教授さえ凌駕する場合があります。そして学者のように一つの説に固執しないのでバランスよくいろんな説や領域の本を紹介してくれる。また売れ筋や、その時代のはやりの論説なども知っています。
「権威」ではなくて、「市井の賢人たちの知識や知恵」を重んじる、というのは、業界事情みたいなものに詳しいからこその姿勢だと思います。
地方在住者には使えないのが難点ではありますが。
ひとりの読書人が、何を読み、何を考え、どう生きてきたのか、ということが誠実に語られていて、圧倒されてしまいました。
そう簡単に真似できるようなものではないとは思いますが、「学問に王道なし」という言葉をかみしめずにはいられなくなるのです。
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