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【読書感想】お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する ☆☆☆☆

お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する (PHP新書)

お金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する (PHP新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
ウォーレン・バフェットジョージ・ソロスと並び「世界3大投資家」と称される著者。彼はこれまで、その独自の投資眼からリーマンショック、トランプ当選、北朝鮮開国に至るまで、数多くの「予言」を的中させてきた。そんな伝説の投資家は、日本と東アジア経済の未来をどう見るのか。「5年後、アジアで1番幸せな国はどこか?」をテーマに、日中韓の将来を「お金の流れ」から鮮やかに読みとく。日本再興への道、朝鮮半島に訪れる刺激的で劇的な未来、中国のアキレス腱…「アジアの玄関口」シンガポールから世界を見つめる投資家の慧眼に映る、驚愕の未来予測。


 僕自身は「投資」というものに、ほとんど縁がなかったこともあり、ジム・ロジャーズさんのことは知りませんでした。「三大投資家」のあと二人、ウォーレン・バフェットジョージ・ソロス両氏は聞いたことがあったのですけど。ちなみに、ウォーレン・バフェットさんは、著書も読みました。


 著者は、まず最初に「歴史を学ぶこと」の重要性を語っています。

 重要なのは、「歴史は韻を踏む」ということである。これは作家マーク・トウェインの言葉だ。世界の出来事のほとんどは、以前にも起きている。まったく同じ出来事が起きるわけではないが、何かしら似た形の出来事が、何度も繰り返されている。戦争、基金、不況、外国人迫害、貿易戦争、移民問題……。これらの問題は、形を変えて何度も起きているのだ。
 現在と類似した問題が以前どのようにして起きたのかを理解すれば、現状がある程度把握できる。それがどのような結末になるかもわかる。よく「歴史は繰り返す」と言うが、まったく同じことを繰り返すのではない。韻を踏むように、少しずつ形を変えながら反復をし続けるのだ。


 『歴史と人生』という本のなかで、半藤一利さんのこんな言葉が紹介されています。
fujipon.hatenadiary.com
 

 昭和史というのは一言で言えば、正しい判断をすれば、こんなことにならなかったものを、間違った判断を重ねていった歴史であるんです。間違った判断をした揚げ句、国民をみんな不幸にして、国土を焼け野原にして、そしてたくさんの人を殺したという歴史だったんです。
 そこから学んで、しっかりと次の日本を作るための資料にするには、やはり歴史はきちんと学んだほうがいい、とはよく言われますが、では具体的に歴史の教訓とは何か。
 実は、「後(のち)の人が歴史からは何も学ばない」ということが歴史の最高の教訓なんです。 (『今、日本人に知ってもらいたいこと』(金子兜太氏との対談で)


 正直、いくら歴史を学んでも、国家とか民族が時代に押し流されていくのに個人で逆らうのは難しいとは思うのですが、投資に関しては、「歴史は韻を踏む」ことを知っておくと、かなり有利になりそうな気がします。
 ただ、仮想通貨が、中世オランダの「チューリップバブル」に似ていると指摘した人たちはたくさんいたけれど、「今回はこれまでとは違うのではないか」と考えてしまうのもまた人間なのです。


 著者は「日本びいき」として知られているそうですが、現在の日本については、少子高齢化、人口減少、移民を受け入れない姿勢などを「心から案じている」のです。

 1990年に記録した最悪の状態は脱したものの、日本の長期債務残高はここ10年弱で増加の一途を辿っている。この10年で近隣のアジア諸国がどれだけ力をつけたかを鑑みると、両者間の落差には目眩がするような思いだ。アジア全体は莫大な資産を持っているのに、いくつかのアジアの国、特に日本は莫大な借金を抱え込んでしまった。
 もし私が10歳の日本人だったとしたら、日本を離れて他国に移住することを考えるだろう。30年後、自分が40歳になった頃には、日本の借金はいま以上に膨れ上がって目も当てられない状況になっている。一体誰が返すのか――国民以外、尻拭いをする者はいない。


 ちなみに、次に「買い」の国については、こう仰っているのです。

 ここ50年の間、世界で最も刺激的な国は日本だった。ここ40年間はそれがシンガポールで、30年間は中国だった。そしてこれからの10~20年間は、北朝鮮・韓国の統一国家が世界で最も刺激的な国になるだろう。


 えっ、北朝鮮
 と読みながら驚いてしまったのですが、そういえば、佐藤優さんも、朝鮮半島が統一されれば、大きな人口を持つ大陸国家になる、と書いていたのを思い出しました。
 すでに経済的に発展してしまった国(たとえば日本)よりも、北朝鮮のほうが、まだ大きな「伸びしろ」がある、というのが、投資家の考え方なのです。

 韓国は、日本と同じように出生率の低下がひどく、深刻な問題を抱えている。男性が多すぎ、女性が不足している。しかし朝鮮半島統一により、その問題は軽減される。北朝鮮には若者、特に若い女性がたくさんいる。彼らは子どもを産むことを躊躇しない。日本や韓国では出産・育児に対する意識が変わり、それが少子化の一因になっているが、北朝鮮では昔とさほど変わっていない。劇的に解決されるとまではいかないまでも、統一により、韓国の少子化問題が軽減されるのは間違いないだろう。少なくとも日本や台湾、シンガポールなどの、同じように少子化問題に直面している近隣諸国よりはかなり改善される。


 こういうのって、女性を「産む機械」と考えるような発想ではありますが、もし韓国と北朝鮮が統一されれば、お互いにメリットが大きいのは事実でしょう。ドイツのように、最初は大きな混乱が見られる可能性が高いとしても、うまくお互いの不足しているところを補うことができる存在でもあるのです。
 ただ、この本を読んでいると、多くの投資家はすでに北朝鮮に注目していて、その市場がオープンするのを順番待ちしているような状態なんですね。
 これだけ情報が氾濫する時代になると、他者を出し抜いで大儲けするのは、難しくなってもいるのです。


 この本を読むと、「投資家の思考法」の一端を知ることができます。

 危機が起きた時は、投資のために機敏に行動する時である。災害の様子を見たり報道で知ったりすると、ほとんどの人は「ひどい」「恐ろしい」と感じて、そこで思考を止めてしまう。ビジネスの機会があるというところにまで考えが至らないのだ。
 災害の渦中にある人たちは、誰かに助けに来てほしいと思っている。誰かに来て投資をしてほしいと思っているのだ。だから被災者にも投資家にとっても、お互いのメリットになるのである。
 たとえば、私がいま注目しているのは、ベネズエラジンバブエだ。南米ベネズエラは2018年8月に28年ぶりの大規模な地震を経験した。ジンバブエでは38年間続いたムガベ大統領の独裁政治が崩壊し、ムナンガグワ新大統領が誕生した。しかし、新しい指導者は前よりもっとひどいかもしれないという声もある。反ムナンガグワのデモも起きている。国が混乱期にある中で、いい投資の機会になるかもしれない。少なくとも変化はあるだろう。投資家はこのように考えるのだ。


 この定義でいくと、災害や混乱を「チャンス」だと考えるのが、投資家なのかもしれません。正直、あまり良い感じはしないのですが、相手もお金が必要だし、興味を持ってもらいたい、という状態なのも事実なんですよね。
 東日本大震災の際に「(その地域の生産物を)買って応援」「(その地域に)旅して応援」というメッセージが拡散されましたが、それも、ひとつの「投資」ではあるわけですし。
 

 熟知している分野がない場合、投資はしない方がいい。銀行に金を入れておいて、自分が十分な知識を持つ分野が出てくるまで待つのが賢明だ。ひどいインフレが起きると痛みを被るが、それでも利息がつくものにお金を入れた方が、下手に投資して大損するよりよほどましというものだ。
 実は「待てる」ことも、投資家に必要な資質の一つである。投資家に必要なのは、ほとんどの場合「何もしない」ことなのだ。いままで何度もそうやって多くの人にアドバイスをしてきた。
 ある場所に商機が見えたら、それは正しい判断である。あとは買うだけだ。でも逆に言えば、確実に商機が見出せるまでは、何もしてはいけない。たいていの人は、常に動き回っていなければいけないと思い込んでいる。常に株価を気にして、何か行動を起こさなくてはいけないと忙しくしている。でも、それは間違いだ。


 待つこと、待てることが大事なのだ、というのは、知っておくべきことでしょう。
 その一方で、著者は、「商機」と確信したら、思い切って勝負することもすすめています。
 動いていないと不安だから、だらだらと取引をしてしまう、というのは、いちばんダメなやり方なのです。


 ジム・ロジャーズさんの言葉がすべて正しいということはないはずです。
 誰かの未来予想がずっと的中しつづけることはない、というのも「歴史を学ぶことによって得られる知見」のひとつですから。
 これを読んで、あわてて北朝鮮やロシアに注目しても、もう手遅れではなかろうか。
 それでも、「投資家というのは、こういう考え方をする人たちなのか」というのがわかる、興味深い本ではあると思います。


資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

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マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する (NHK出版新書)

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