琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

『琥珀色の戯言』 が選ぶ、「2019年に読んだ本ベスト10」


2019年も残り少なくなりました。
恒例の「今年、このブログで紹介した本のベスト10」です。
(今年は一冊例外あり)


いちおう「ベスト10」ということで順位はつけていますが、どれも「本当に多くの人に読んでみていただきたい本」です。


まず、10位から6位まで。


<第10位>ゲームの企画書(1) どんな子供でも遊べなければならない

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『電ファミニコゲーマー』で連載されている『ゲームの企画書』を書籍化したものです。
 この連載、40年近くテレビゲームで遊んできた僕にとっては、「こういうのが読みたかった!」という内容なんですよ。
 懐かしいゲームの「生き証人」たちが、リラックスできる仲間と対談形式でざっくばらんに語り合っている様子には、読んでいるだけで僕もニヤニヤしてしまいます。
 僕はずっとゲームで遊ぶ側だったのですが、ゲームを作る側からみた「このゲームのすごいところ」というのが、遊ぶ側の視点とはけっこう違う、というのも新鮮に感じました。
 もっと証言が集まり、後世に遺せるように、多くの人に読まれてほしい、と願っています。



<第9位>渦 妹背山婦女庭訓 魂結び

渦 妹背山婦女庭訓 魂結び (文春e-book)

渦 妹背山婦女庭訓 魂結び (文春e-book)

fujipon.hatenadiary.com


 第161回直木賞受賞作。
 本当に、いろんな人が、淡々と生きて、死んでいく。
 その一方で、作品が生まれる場面については、言葉に言葉を重ねていて、読んでいる僕も物語の渦の中に巻き込まれていくような印象を受けました。
 これはたぶん、「物語に奉仕することに無上の喜びを抱く人間たちの物語」なんですよね。
 そういう意味では、この作品が直木賞を受賞したのは、「映画界をネタにした映画がアカデミー作品賞を獲りやすい」みたいな面もあるのではないかと。
 伝統芸能とか小説とか研究とか、「長年にわたって多くの人がその流れをつくりあげてきた世界に少しでも関わり、自分も何かを生み出そうと苦しんだことがある人」にとっては、一緒に渦に巻き込まれていくこと間違いなし、です。



<第8位>独ソ戦 絶滅戦争の惨禍

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

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 戦争責任をヒトラーに集中させることで、戦後のドイツはなんとか平常心を保とうとした面はあるとしても、ドイツの国民がナチスの政策から受けていた恩恵についても、著者は言及しているのです。
 ドイツでは、占領地から収奪した物資を本国に移送することにより、敗色濃厚になるまで、戦時下でも人々は比較的豊かな生活をしていたのです。
 おそらく、「共犯者」なんて意識はなかったとは思いますが、この戦争に負けてしまえばいままで得てきたものが失われる、あるいは、奪ってきた相手から復讐される、という恐怖感はあったのではないでしょうか。
 この新書を読むと、独ソ戦のかなり初期の頃から、ドイツ軍は個々の戦闘には勝利しても損害が激しく、ソ連に短期間で勝つのは難しい、あるいは勝てない、と悟った軍人も少なからずいたようです。



<第7位>鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋

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 鴻上さんは、長年劇団を主宰しておられるので、「観客に訴えかけるためのセリフや動きの奥義」を身につけているはず。
 でも、読んでいて伝わってくるのは、「テクニック」よりも、「こうしてわざわざ相談を寄せてくれたあなたをラクにしてあげたい」という「善意」みたいなものなんですよ。
 
 鴻上さんは、ものすごい嘘つきなのではなかろうか。
 あるいは、ものすごくしたたかな交渉者なのかもしれない。



<第6位>ケーキの切れない非行少年たち

ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)

  • 作者:宮口幸治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/07/26
  • メディア: Kindle
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「丸いケーキを3等分できない中学生・高校生の非行少年」なんて、いくらなんでも……と思ったのですが、この本のなかには、彼らがそれを試みた図も収録されています。
 なぜこんなこともわからないのか……というのは「わかる側」の視点なのです。
 だから少年院に入れられるようなことをやってもいい、ってわけじゃないけれど、彼らが、そんな事件を起こす前に、「見る力」「聞く力」をの異常を感知することによって、できることがあるのではないか、というのが著者の考えなのです。
 これまで、少年院では、これまでの非行に対して、ひたすら「反省」を求めてきたけれど、彼らは「反省」ができる能力に欠けている。「なんで反省しないんだ!」と問いかけても、「反省って、どうやるの?」っていうのが彼らの現実なんですね。
 
 それでも、「だから無罪」とは思えないし、「やられた側は、やった側の事情は関係なく、致命的に傷つけられる」のですが。




続いて、1位〜5位です。


<第5位>「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ

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 任天堂Wiiの企画を担当していた著者による、「心を動かす体験のつくりかた(=体験デザイン)」。
 僕はもう40年近くテレビゲームをやってきているのですが、これまで「テレビゲームとは、こういうものだ」と意識せずに遊んできたことを思い知らされました。
 制作側にとっては、あるキャラクターが、そこにいることにも、主人公が使えるアイテムや武器にも、すべて「理由」があるのです。
 それらは自然にあるものではなくて、誰かがそこに配置しないと、存在しないものなのですから。



<第4位>ドライブイン探訪

ドライブイン探訪

ドライブイン探訪

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 淡々と、「自分の仕事」をやり続けて生きてきた人にスポットライトが当たることは珍しいし、その言葉が記録されることもほとんどありません。
 「普通の人の、普通の人生」は、みんなが「ありふれたもの」だと思っているうちに、いつのまにか歴史から失われていくのです。
 この本には、そんな「太平洋戦争後の高度成長期の日本を生きてきた、普通の人々」の肉声が詰まっています。



<第3位>Think CIVILITY(シンク シビリティ) 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である

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 正直、ここに書かれていることが、日本でもあてはまるのか、グーグルとかフェイスブックのような「有能な人たちが集まった組織」じゃないと、礼節が効果をあげるのは難しいのではないか、という疑問は残るのです。
 それでも、25年くらい、いろんな職場(病院)で働いてきて感じるのは、少なくとも、時代は「パワハラで恐怖政治を敷く人」よりも、「周囲をうまくサポートして、気分良く仕事をさせてくれる人」を求めているのではないか、ということなんですよ。
 多くの企業の上層部や中間管理職が引きずっている、昔の「厳しく接して育てる」という感覚は、完全に時代遅れになっている。いや、もしかしたら、ずっと前からそんなの無意味、あるいは、スティーブ・ジョブズとかジェフ・ベゾスのような超天才にしかあてはまらないことなのに、「有能であれば、人格に問題があっても仕方がない」という思い込みだけが残されてきたのかもしれません。
 どんなに有能で実績を残している人でも、その「不機嫌」や「パワハラ」が周囲のパフォーマンスの低下をもたらすことを考えると、総合的には組織にとってマイナスになる場合がほとんどなのです。



<第2位>岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。

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任天堂宮本茂さんが、岩田さんについて語っておられる章の一部です。

岩田さんがいなくなって、会社はきちんと回ってますよ。
いろんなことをことばにしたり、仕組みとして残していってくれたおかげで、若い人たちが生き生きとやってます。
困ったのは、ぼくが週末に思いついたしょうもないことを、月曜日に聞いてくれる人がいなくなったことですね。


「岩田さんがいなくなっても、会社はきちんと回っている」
宮本さんのこの言葉こそ、岩田聡というリーダーの生きざまを象徴したものだし、宮本さんからの最高の賛辞だと僕は感じました。



<第1位>FACTFULNESS(ファクトフルネス)

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 多くの「リベラル」な人たち、あるいは「先進国の良心的な人々」は、世界の現状や行き先に不安をかかえているのです。
 それに対して、著者は、さまざまなデータを駆使して、彼らの不安が杞憂であることを証明しようとしています。

 あなたは、次のような先入観を持っていないだろうか。
「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう」
 少なくとも西洋諸国においてはそれがメディアでよく聞く話だし、人々に染みついた考え方なのではないか。わたしはこれを「ドラマチックすぎる世界の見方」と呼んでいる。精神衛生上よくないし、そもそも正しくない。
 実際、世界の大部分の人は中間所得層に属している。わたしたちがイメージする「中流層」とは違うかもしれないが、極度の貧困状態とはかけ離れている。女の子も学校に行くし、子供はワクチンを接種するし、女性ひとりあたりの子供の数は2人だ。休みには海外へ行く。もちろん難民としてではなく、観光客として。
 時を重ねるごとに少しずつ、世界は良くなっている。何もかもが毎年改善するわけではないし、課題は山積みだ。だが、人類が大いなる進歩を遂げたのは間違いない。これが、「事実に基づく世界の見方」だ。

「人々は確実に豊かになり、世界は安全になってきている。もちろん、まだ完璧とは言えないけれど」
 これが、世界の現実なのです。 
 さまざまなトラブルや戦争、不幸な事故などはあるけれど、全体としては、世界を良くしようとする努力は、それなりに報われているのです。
 にもかかわらず、現実よりもずっと、「世界には、もっと不幸な人たちがいるのだから」と思い込まれがちなんですね。



というわけで、『琥珀色の戯言』の2019年の本のベスト10でした。


昨年のランキングはこちら。
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 2019年は、世界の揺り戻し、というか、これまで正しいと思ってきた「リベラリズム」が、「過剰に危機感を煽ったり、主張している人たちの自己アピールのために使われたりしているのではないか」と感じることが多かったのです。
 1位の『FACTFULNESS』は、読みやすい本ですし、「世界」について思い込みで語る前に、事実を知っておく、というのは、とても大切なことだと思います。
 2位の『岩田さん』は、ずっと岩田さんのファンだった僕にとって、ずっと手元に置いておきたい本になりました。

 今年の後半から、「ブログ働き方改革」として、日曜日の更新をやめることにしたのです(気づいた人はほとんどいないかもしれませんが……)。最近、1年間毎日更新はきつくなってきたので、更新頻度を少し減らして、もう少しインプットもアウトプットも丁寧にやっていこうと思っています。


 それでは皆様、よいお年を!


リベラリズムの終わり その限界と未来 (幻冬舎新書)

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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

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