- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2018/12/14
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- 作者: 米澤穂信
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内容(「BOOK」データベースより)
堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが…。図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。
ベタベタはしないけれど、なんとなく馬が合う、高校二年の図書委員の男子二人、堀川次郎と松倉詩門。
なぜか、この二人が一緒にいると、さまざまな謎が持ち込まれてくるのです。
人が殺された、とかいうような大きな事件ではないけれど、いろんなタイミングが重なって失われてしまったものたち。
読みはじめたときは、「米澤さん、また同じような作品を書くのなら、『古典部シリーズ』の続きを書いてくれればいいのに……と思ったんですよね。
小鳩君と小佐内さんの「小市民シリーズ」の冬は、いったいいつになったらやってくるんだ、とか。
もしかしたら、米澤さんは、物語のクライマックスに入ってくると書けなくなる「田中芳樹症候群」に罹患しているのではなかろうか、などと、不躾なことを考えてみたりもするのです。
あるいは、「男女の友情」いや、「人と人の友情」は書けるのだけれど、それが「愛情」の領域に踏み込もうとすると、なんだか書けなくなってしまう、とか。
読む側としても、なんらかの結論を知りたい一方で、恋愛ものになってしまうと、それはそれで興醒めだな、という気もするんですよ。
古典部シリーズも、なんだかんだいって「高嶺の花」だから、せつなく感じてしまうのかもしれません。
まあでも、このままだと本当に「未完のシリーズ」ばかりが残されることになるのではなかろうか。
わたし、気になります。
そんな戯言はさておき、この『本と鍵の季節』は、素直じゃない信頼関係に結ばれた高校生男子同士の友情と腹の探り合いを描いたミステリなのです。
その日、図書当番は僕と松倉詩門の二人組で、図書室にほかの生徒の姿はなかった。利用者皆無なのに二人も詰めるのは無駄だろうけれど、松倉が相手なら時間はつぶせる。静まりかえっている図書室を貸出カウンターの内側から眺めながら、僕は言った。
「図書委員会が好き放題したから誰も来なくなったのか、誰も来ないから図書委員会が好き放題したのか。どっちだと思う」
松倉はあくびをしていた。遠慮のない大あくびを途中で止めようともせず、最後まで遂げてから涙の浮かんだ目を僕に向ける。
「どっちでもいい。俺たちは別に、利用者数に責任を負ってない」
それもそうだと思ったので、僕はなにも言わなかった。
謎解き、といっても、あんまりさわやかなものではなくて、その謎が生まれた背景には、人間の欲望とか、打算、追い詰められてどうしようもなくなった足掻きなどがあって、これを本当に解決してよかったのかどうか?と、読者の側が勝手に思い悩むようなエピソードが多いのです。
ああ、まさに米澤穂信作品のビターテイスト系の王道だよなあ。
どんなに仲が良い人でも、踏み込んではいけない領域、みたいなものもある。
その境界線を悟れるのが大人、ではあるのだけれど、では、大人であるというのは、そんなに素晴らしいことなのか?
そもそも、踏み込まないのは、自分が相手を傷つけたり、相手に傷つけられたりするのが、怖いだけではないのか?
とか、なんだか切羽詰まったことを書いてしまいましたが、読んでいる途中は、けっこう標準的なビターテイスト青春ミステリです。
図書館の本に対する知識や思い入れがない人にとっては、ちょっととっつきにくいところもありそうです。
「古典部シリーズ」や「小市民シリーズ」が好きな人にとっては、「これこれ」って感じなのかもしれないけれど、そういう人たちにとっては、マンネリ感もあるんじゃないかな。
僕も正直、良くも悪くも、安心して読める作品だな、と思いながら読みました。
若さとか親しさの残酷さ、っていうのを書きたくても、古典部シリーズでそれを突き詰めるのは、ファンの気持ちを考えると難しいだろうしなあ。
個人的には、この作品は、続きはないほうが良いのではないか、と思います。
面白くないから、というわけではなくて、この終わり以上の「読者へのバトンの渡し方」はないと思うので。
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