Kindle版もあります。
内容紹介
三冠獲得!
「このミステリーがすごい!」2020年版国内篇 第一位
「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキング 第一位
「2019年ベストブック」(Apple Books)2019ベストミステリー推理作家として難事件を解決してきた香月史郎【こうげつしろう】は、心に傷を負った女性、城塚翡翠【じょうづかひすい】と出逢う。彼女は霊媒であり、死者の言葉を伝えることができる。しかし、そこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かわなくてはならない。一方、巷では姿なき連続殺人鬼が人々を脅かしていた。一切の証拠を残さない殺人鬼を追い詰めることができるとすれば、それは翡翠の力のみ。だが、殺人鬼の魔手は密かに彼女へと迫っていた――。
この本のオビには、「このミス」と「本格ミステリ・ベスト10」の「第1位」の文字が躍っていました。
表紙には、緑の瞳の女性が描かれていて、ライトノベルっぽい。
とりあえず、『このミス』1位の作品は読んでみることに決めているのです。
こういうランキングを鵜呑みにするわけではないけれど、新しい作家や日頃読まない作風を手に取るには良い機会なので。
正直なところ、この『medium』に関しては、可憐で浮世離れした霊媒の若い女性と、ワトソン役のミステリ作家のやりとりを読んだ時点で、「なんか微妙というか、これって、『キャラ萌え』狙いのあざといミステリじゃない? 謎解きも文章を読んだだけではまわりくどくてわかりにくいし……」と、かなり微妙な印象だったんですよ。
そもそも「霊媒」+「死者の記憶が見える」って、これ、『逆転裁判6』だろ……これが1位か、『このミス』も最近は、ミステリらしいミステリが少なくなって選ぶの大変なんだろうな、一昨年は『屍人荘の殺人』みたいな「飛び道具」が1位になったくらいだし……
いやまあ、これはこれで、僕も「萌え要素」というか、ラブコメ的な展開も嫌いじゃないんですけどね、何とか堂古書店とか、喫茶店なんちゃらランとか、いっぱいあるんだけどさ。そういえば、あの手の「職業系ラノベ風ミステリ」って、『このミス』ではほとんど採りあげられていませんよね。「あれはミステリじゃない」という解釈なのか、レーベルとか、ハードカバーかどうかで判断されているのか。
しかし、米澤穂信さんの一連の作品は、ラノベっぽいやつでもランクインしているわけで、よくわからない。
……というような、いかにも脱線、という内容を書き連ねてきたのは、この『medium』という作品は、読む人には、なるべく予備知識無しで読んでもらいたいから、なのです。
映画とかミステリとかで、「最後のどんでん返しは予測不能」とか、「ラスト1行で、世界が変わる!」なんていう宣伝文句はありがちなのですが、困ったことに「どんでん返しがありますよ」という宣伝そのものが読む側にとっては、重大なネタバレになってしまっているのです。
「まだこのまま終わるわけじゃないんだな」という心の準備をしていて、その「意外な展開」にたどり着くのと、まっさらな状態で、直撃を受けるのとでは、やっぱり、インパクトは全然違いますよね。
とはいえ、「予想外の展開」をアピールする宣伝のしかたのほうが、「売れる」のも間違いないのでしょう。
正直、途中までは「これが1位?まあ、2位も横山秀夫さんの作品としては微妙な『ノースライト』だからな……それにしても、ベタなキャラ設定にややこしくてまわりくどいトリック、うーむ……などと思いながら読んでいたのです。
この本を読む人にお願いしたいのは、この、いかにも「キャラ萌え」を狙ったような城塚翡翠【じょうづかひすい】にうんざりしても、なんとか最後まで読み通してほしい、ということなのです。
そうすれば、なぜ、この作品が「1位」なのかわかると思うから(絶対的な1位かどうかはさておき、少なくともミステリランキングの上位には値すると思います)。
「なんでこんなベタなキャラ萌えミステリが高評価なんだ?」
そう思った時点で、われわれはもう、最初のトラップに引っかかっているのです。
先入観おそるべし。
こちら側が「こんなのたくさん読んできたんだよ、もう飽き飽きだ」と「わかった」つもりになることも、たぶん、計算されているのです。
人は「わかった」「見切った」つもりになっているときに、隙をつくってしまう。
なんだかもう、作品の外側をぐるぐる回っているだけ、みたいな感想ではありますが、僕は寝転がって「ふーん」って読んでいたのが、最終章では、いつのまにか、机の前に座り、身を乗り出していました。
個人的には、この作品は「凄いし、面白いとは思うけれど、好きではない」のです。なんのかんの言って、僕も「心地よい結末」を好むのだよなあ。
たぶん、そういう人こそ、この『medium』の格好のターゲットなのでしょうね。