琥珀色の戯言

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【読書感想】なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
◆アマゾン分析の第一人者と、トレンド研究の第一人者が、マーケティングの秘策を徹底解説! ◆「いまさら聞けない」基礎的手法から有望な日本企業の戦略、最新情報や技術まで、この一冊にギュッと凝縮 ◆企業の商品・サービス開発やマーケテイング業務はもちろん、毎日の生活や就活、転職にも役立つ! ◆4Pと4C、サブスクリプション、プライシング、イノベーションキャズム、カスタマーエクスペリエンスなど多数のキーワードを網羅 ◆本書に登場する日本企業は、なぜマーケティングでアマゾンに対抗することができるのか?


内容(「BOOK」データベースより)
マーケティングって楽しい!日本企業の最新戦略に学ぶ、「マーケティング」の入門書。「進化するアマゾン」も徹底分析!


 僕は「女は……、男は……」というタイトルの本をみかけると、「それって、本当に性別による差なの?」と考えてしまうのですが、この新書は「性差」を検証するのが主ではなくて、「ある商品、あるいはサービスが、なぜ支持されているのか」そして、「これから、どんなサービスが主流になっていくのか」について書かれているものなのです。
 「マーケティング」という言葉はかなり一般的なものになっているのですが、実際にどんなことをやっているのかについては「アンケートとかとっているやつだよね、めんどくさいよねえ、あれ……」というくらいのイメージの人も少なくないはず。
 そういう「マーケティング初心者」にとっては、いま、注目されている企業やそのサービスを例にあげて語られているので、読みやすく、わかりやすい内容になっていると思います。

 僕は今までヤフオクもメルカリも利用したことがなく、どちらも似たようなオークションサイトだと思っていました。
 不要になった品物を少額でもお金に換えることができたり、趣味のために買ったものを価値がわかる人にそれなりの値段で売れるという魅力はあるものの、知らない人とやりとりしたり、発送の手間やクレームのリスクを考えると、僕には敷居が高かったのです。


 著者のひとりの牛窪恵さんは、ヤフオクとメルカリの「違い」について、こう述べています。

 今回の取材でも、メルカリとヤフオクを次のように評する女性が目立ちました。
ヤフオクは、(競争する)相手との駆け引きがイヤ。終了時間までシーンとしている(動きがない)クセして、ギリギリになって値上げして、相手を蹴落とそうといった攻防が続く。人間のズルい一面を見ちゃうので、人間不信になりそう」(20代女性)
 一方、「ヤフオクは戦場、メルカリは癒しスポット」だと言い切るのは、30代のD子さん。
「メルカリは、夜お風呂やベッドの上でなんとなく覗きに行って、出品者さんとやり取りして、ポチッと『購入(のボタン)を押せた瞬間、ほっと癒される。でもヤフオクは、いつも終了時間直前にアプリを開いて、誰か自分より高値をつけていないかと冷や冷やしなきゃいけない。戦場の見張り役の兵士みたいで、落ち着かないんです」
 先のC男さんの声とは、だいぶ違いますよね。一般に、ヤフオクは「出品時のルールや手数料の概念が、メルカリより複雑」とも言われますが、C男さんいわく「慣れちゃえばラク。それよりメルカリみたいに、売り手とあれこれやり取りするほうが手間ですよ」とのこと。
 たしかにヤフオクの場合、基本的に価格競争に勝つことさえできれば、欲しい商品を入手できます。メルカリのように、購入前から「着丈はどのぐらいですか?」など売り手に質問したり、「もう少し安くなりませんか?」と価格交渉する手間は、あまり発生しません。
 他方、私も含め、対話好きな女性にとっては、C男さんが「面倒」だとする売り手と買い手のコミュニケーションこそが、メルカリの「醍醐味や楽しさ」であることも多いもの。


 正直、僕はこういう「売り手と買い手とのやり取り」は「めんどくさい」としか思えないんですよね。牛丼屋だって、食券制のほうが良いくらいなので。
 でも、人によっては、「こういうやりとりこそがあるから、メルカリは楽しい」わけです。 
 ヤフオクの時間ギリギリのところで競り落とすスリルも、好きな人にとっては魅力的なのでしょう。

 今回、メルカリの取締役社長兼COO・小泉文明さんにも、直接お話を伺うことができました。「我々のマーケットプレイスのキーワードは、『”捨てる”をなくす』です」と小泉社長。すなわち出品者本人にとっては、今はさほど価値がない。でもそれまえでに育んできた何らかの愛着や「ただ捨ててしまうのは惜しい」といった思い入れがある。だからこそ、「もしこれをフリマアプリに出品したら、誰かが価値を感じて買ってくれるかもしれない」と、ドキドキワクワク、胸躍らせながら出品するのでしょう。
 ただ、この部分だけなら、ヤフオクや他のフリマアプリも同じかもしれません。
 ところが小泉社長は、別のことを口にしました。それが「メルカリの楽しさの半分は、誰かに認めてほしい、あるいは認めてくれるといった『承認欲求』にあるのではないか」との視点。先のどんぐりのケースや、「ベビーカーが必要とされて嬉しかった」と話していたB子さんの事例も、まさにそうですよね。メルカリのサービス立ち上げ当初から事業に関わった小泉社長も、「当時ヤフオクとの差別化は、当然意識した」とも言います。
 実際にメルカリユーザーに聞いた「メルカリを使う理由ランキング」(2018年)を見ても、1位こそ「賢くお小遣い稼ぎができる」(34.2%)ですが、僅差の2位(33.2%)は「捨てようと思っていたものが売れて得した気分になる」、そして5位が「あらゆるモノに価値がつく」(22.0%)。その根底には、「こんなモノが売れるんだ!」といった驚き、あるいは自身の承認欲求が満たされたことへの満足感が見え隠れしていますよね。
 まずこの点が、他のフリマアプリとの大きな違いだと感じる方も多いようです。今回の取材でも、「メルカリは、少しデザインが古くなった服や靴も『レトロで可愛い!』と褒めてくれるユーザーさんが多くて嬉しい」(30代女性)など、やはり承認欲求が満たされた喜びを口にする女性が、複数見受けられました。
 また小泉社長いわく、最近はいわゆる「終活(人生の終わりに向けた活動)」の一環として、メルカリを利用する、シニア層も増えているそうです。長年、趣味で集めてきた切手を「価値がわかるコレクターに引き継いでほしい」と出品するシニア男性もいる、とのこと。

 
 メルカリは、商品のやりとりを通じて、自分が買ったものやセンスを褒めてもらえたり、「自分にとっては大事なもの」の価値がわかる人と繋がれたりする場所でもあるのです。
 いろんな煩わしい手続きを簡略化して、不要なものを売ることができるのがメリットだと思っていたけれど、そこに、人々はさまざまな付加価値を見いだすようになってきています。
 自分の住所や本名を教えずに品物のやりとりをするシステムが開発される一方で、商品のやりとり+αを求める人もいる。
 便利なだけでは、差別化できない時代なのです。

 この新書では、この「メルカリとヤフオク」のエピソードのように、利用者に時間をかけてインタビューした「生の声」を紹介している部分と、それを専門家が分析し、理論家したものが交互に出てくるのです。
 だから、「ある人の主観だけが大声で語られている」わけではないし、「専門用語が延々と並んでいて、読んでいて眠くなる」こともない。
 400ページ近くある、新書としてはかなり厚い本なのですが、あまり長さを感じずに読み進められます。


 著者のひとりの田中道昭さんは、シアトルで無人コンビニ「アマゾン・ゴー」を訪れています。

 1号店で私が目にしたものは、驚くべき光景でした。通り沿いから店内を覗くと、右側にはガラス張りのオープンキッチンが、そこでは何人ものスタッフがサラダやサンドイッチを作っているのが見えます。清潔感を象徴するかのような白いユニフォームの上から、アマゾン・ゴーのロゴが入った緑色のエプロンを身につけ、手際よく作業を進めていくスタッフたち。
 アマゾン・ゴーといえば「無人レジコンビニ」が代名詞だったはずです。入店後に自動ゲートにスマホをかざし、あとは商品を手にしてそのまま出ていくだけ。それを実現させている最先端テクノロジーは、店内の至るところにあるセンサーやカメラの数から推測することができます。店頭には「ジャストウォークアウトショッピング(ただ歩いて立ち去るだけで買い物ができる)」というコンセプトが掲げられていました。
 しかし私は、アマゾン・ゴーの真価は「無人」とは別のところにあるのではないかと分析したのです。


(中略)


 一点めは、「超有人店舗」だったということです。「無人レジコンビニ」というキーワードばかりが注目されがちなアマゾン・ゴーですが、実際には、多くのスタッフがオープンキッチンで働いていました。むしろ「ここで売っているサンドイッチは我々人間が作っている」と、有人店舗であることをあえて見せ、誇示しているかのようでした。ガラス張りの明るいオープンキッチンでの調理は、食材がフレッシュであること、調理に手間暇をかけていることを顧客に訴求する効果が確実にあります。


 せっかく「無人コンビニ」をつくったのに、わざわざ「オープンキッチンにして、人が働いていることをアピールする」というのは、なんだか矛盾しているのではないか、と僕は思うのです。
 しかしながら、顔がみえる人がつくっていると、なんだか安心できる、美味しそうに感じる、というのも事実なんですよね。
 今の技術であれば、機械のほうが、美味しくて衛生的な商品つくれるのではないか、と頭では考えていても。

 マーケティングの最大の難しさは、相手が「理屈」だけでは動いてくれない「人間」である、ということなのでしょう。


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