琥珀色の戯言

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【読書感想】物を売るバカ2 感情を揺さぶる7つの売り方 ☆☆☆

物を売るバカ2 感情を揺さぶる7つの売り方 (角川新書)

物を売るバカ2 感情を揺さぶる7つの売り方 (角川新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
競合とさほど変わらない物やサービスであっても、売り方次第で一気に人気を博すものになる。今の時代に求められる「感情」に訴える売り方「エモ売り7」を、成功している70以上の実例を紹介しながら伝授する。


 今の世の中って、売る商品も、その売り方にも本当にいろんな選択肢がありますよね。
 この本を読みながら、「自分は、何を基準に買うものや店を決めているのだろう」と考えてしまいました。


 著者は、4年前の2014年に『物を売るバカ』という新書を出しておられます。

 そもそも『物を売るバカ』というタイトルは、決して「ものを売る人」をバカにしたものではありません。「頑張って商品やサービスを売ろうとすればするほど売れなくなってしまうもったいない状態」のことを言いあらわしたものです。
『物を売るバカ』では、「販売」「営業」「マーケティング」などのジャンルにおいて、「物を売らずに物語で売る」ための法則や事例を数多く集めて紹介しました。特に会社・店・商品・人を輝かせるために提唱している「ストーリープランディング」については詳しく語りました。
 おかげさまで多くの人に読んでいただきました。
「いかに自分たちが『物を売るバカ状態』になっていたかがよくわかりました」
「物ではなくストーリーで訴えると急に商品が輝き売れ始めました」
 などうれしい意見を数多くいただきました。


fujipon.hatenadiary.com


 この「2」は、前作とは違う理論を述べたものではなくて、前作をベースに、最新の「感情を揺さぶる売り方」の事例を集めたものだそうです。
 
 これを読んでいて感じるのは「物語で売る」とは言っても、実際は「どんな物語か」というのが重要だし、やりすぎるとあざとくなるだけ、ということなんですよ。
 一昔前は「大学の生協で誤って大量発注した商品が、SNSで拡散されて売り切れてしまった」というようなエピソードがあったのですが、そういうのは一度しか使えないし、今、同じようなことを他の店がやっても「二番煎じ」だとみなされるだけでしょう。
 あまりにも狙いすぎた「物語売り」は、もうすでに飽きられ始めているのではないか、という気がしています。
 この本で紹介されている成功事例の陰には、同じように狙ってはみたものの、消費者のストライクゾーンに入らなかった失敗例が死屍累々のはずです。


 これだけ「物」が溢れていて、十分な品質のものがかなり安い価格で買える時代というのは、恵まれているんですよね。
 その一方で、物だけで自分の個性をアピールするのは、難しくなってもいるのです。SNSとかを眺めていても、「自分にとってのちょっと珍しい食事や旅行先」なんて、発信している人全体からすれば、「ありふれた出来事」でしかありません。
 だからこそ、目に見える物や経験に、プラスαが求められるのです。


 著者は、こんな事例を紹介しています。

 RIZAPグループ代表取締役社長である瀬戸健さんは、いろいろなインタビューで、「RIZAPが提供しているものは『トレーニング』や『ダイエット』ではなく『自己実現の場』である」と語っています。
 瀬戸さんは、2003年に豆乳クッキーの通信販売で起業し、ダイエットブームにのって、2006年には札幌証券取引所アンビシャスに上場を果たします。しかし、類似商品が数多く出回るようになり、売上が急降下する中で経営危機を迎え、新しい事業を模索していました。
 当時、たばこをやめた後で急激に太ってしまった瀬戸さんは、社員に10キロやせると宣言し、個人で専属トレーナーの指導を受け、ダイエットに励みました。
 その時、思い出したのが、瀬戸さんが高校時代につきあっていた彼女のダイエットをサポートした経験でした。
 彼女は身長152センチで体重は70キロ近くあり、ぽっちゃり体型で何をするにも自信が持てない状況でした。そんな彼女に、瀬戸さんは自分がサポートするからダイエットをしようと提案します。「この服絶対着ようよ」「この水着が着られるようになったら海行こう」と目標を設定しつつ、日々電話等で励まし褒めてサポートしたことで、彼女は20キロのダイエットに成功したのです。
 その結果、彼女は外見がやせてキレイになっただけでなく、立ち振るまい、話し方、話す内容まで大きく変わりました(その結果、彼女は大学生とつきあうようになり瀬戸さんはフラれてしまったそうですが。
 瀬戸さんにとって「人は変われる、変わることで輝ける」と実感した瞬間でした。
 一方で伴走し励ましサポートしてくれる人がいないと、人はなかなかやり遂げることができないのも事実です。
 多くの人がダイエットに成功しないのは、伴走し励ましてくれる人がいないことに原因がある。ダイエットという「自己実現」をサポートしていく事業を立ち上げれば、人はその対価を惜しまないのではないか。
 そう考えた瀬戸さんは、自らのダイエットも成功した経験をヒントに、科学的根拠に基づいたトレーニング法や日常生活のアドバイスにより「2ヵ月で成果を出す個別指導型トレーニング」というビジネスモデルを始めることを決意します。
 ただし、トレーニングジムはあくまで手段であり、事業のコンセプトは、「理想のカラダを手に入れ自信を取り戻すという自己実現の場」を提供することでした。
 その後のRIZAPの急成長はご存じの通り。
 RIZAPグループの理念は”「人は変われる。」を証明する”です。


 この瀬戸社長と昔の彼女の話を読んで、映画『プリティ・ウーマン』みたいだなあ、と思ったんですよね。
 彼女が自信をつけたのは瀬戸社長のおかげのはずなのだけれど、自信がついてみると、「糟糠の彼氏」では物足りなくなってしまった。
 ああ、こういう話って、よくあるよな、って。
 そこでタダではフラれなかったのが、瀬戸社長のすごいところではあります。

 僕も健康のためにダイエットしなきゃな、でも、RIZAPって、こんなにお金がかかるのか……とため息をついたことがあるのですが、逆に言えば、そのくらいのお金をかけても良い、というくらいのやる気がある人だからこそ成功しやすい、という面はありそうです。これだけお金を払ったのだから、やらなくては、というプレッシャーもあるでしょうし。
 RIZAPは「健康のためのダイエット」というよりは、「自分に自信をつけるためのダイエット」であり、「痩せる」ことが究極の目的ではない、ということなのです。
 あらためて考えてみれば、大人の日常なんて、何かをやって、目に見える成果がすぐに出たり、誰かに「がんばりましたね」と褒められる、なんてことはほとんどないわけですし。
(こういうのは、ペーパーテストで階級が上がる新興宗教などにもいえることなのですが)


 安さやスペックで勝負しても、キリがない時代になってきているのは間違いありません。
 それでも、贔屓の野球チームのグッズであれば、「そのチームのロゴや選手名が描かれている」だけで、多くの人が、通常の何倍ものお金を出して、Tシャツやタオルを買うんですよね。
 もう、物で差別化する時代ではない、と、さっき書いたけれど、RIZAPのようにお金がかかる「自己実現」を買うことができなければ、少しお金を出して何かを応援することで退屈な日常を変えようとしている人も大勢いるのです。


 今の世の中では、いろんなきっかけで、ブレイクする可能性はあるのです。

 群馬県前橋市に「るなぱあく」という遊園地があります。
 前橋市中央児童遊園として1954年に開園し、2004年に市民の公募で「前橋るなぱあく」という愛称がつけられました。前橋市出身の詩人・萩原朔太郎の「遊園地にて」という詩の中で、遊園地に”るなぱあく”というルビがふられていることが由来だといいます。
 入園料は無料で、利用料は「大きいのりもの」が50円、「小さいのりもの」は10円という安さです。
「大きいのりもの」は、ミニヘリコプター、メリーゴーランド、くるくるサーキット、豆汽車など8種類(全部乗っても400円!)。一番の目玉が「もくば館」です。開園当初からある国内最古級の電動木馬(5基)で、60年以上にわたり500万人以上の子供たちを楽しませてきたことで国の有形文化財にも登録されました。
 この昭和レトロな遊園地が、数年前から人気を集めていて、2016年には過去最高の約146万人の入場者数を記録しました。
 遊具が新しくなったわけではありません。
「日本一懐かしい遊園地」というコンセプトをSNSで発信し続けたことが、入場者が増えた大きな要因です。
 得にアイコンになったのは、さきほど取り上げた「もくば館」。
 その懐かしさがフォトジェニックだということで、多くの親子が訪れるようになりました。そしてまた自分たちのSNSに子供が木馬に乗っている写真をアップするという好循環が生まれたのです。


 「インスタ映え」を重視する人が増えたことにより、いままでよく続いてきたなあ、というレトロなものが、見直されることもあるのです。
 流行なんていうのは、結局のところ、人が予測できるものではないのかもしれない、と僕は思うんですよね。

 「物を売る」立場の人は、こういう成功例から学べることが多いのではないかと思います。
 でも、同じことをやってもうまくいくとは限らないのが、難しいところなのだよなあ。


「コト消費」の嘘 (角川新書)

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すごい売り方

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