琥珀色の戯言

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【読書感想】二軍監督奮闘記 ☆☆☆

二軍監督奮闘記 (ワニブックスPLUS新書)

二軍監督奮闘記 (ワニブックスPLUS新書)

内容紹介
ガッツがコーチとして北海道に帰ってきた!

本書は指導者としての出発点となった、中日ドラゴンズ二軍監督としての日々を
はじめて著者自ら綴ったものです。

プロ野球の二軍は期待のルーキー、一軍と二軍を行き来する選手、ケガからの復帰を目指すベテランなど、
状況が異なる選手たちを預かり、しっかり育てて一軍に送り出すことが使命。
一方、試合数は限られ、すべての選手に出場機会を平等に与えることはできない……。

こうした葛藤の中で、どのような思いで選手育成に取り組んでいたのか、
余すことなく語ります。
19年にブレイクした高橋周平や、ドラフト1位ルーキーの根尾昴など、
注目選手たちのエピソードも満載!

新天地での手腕発揮を予感させる、
すべてのプロ野球ファン必読の一冊です!


 この本のオビには「ガッツが北海道に帰ってきた!」と書かれているのですが、内容は、現役時代の振り返りと、引退後、中日ドラゴンズの二軍監督として、どのような仕事をしてきたか、なのです。
 書かれた(語られた)のは、2019年8月だそうなので、この時点では、小笠原さんは、2020年から日本ハムファイターズの一軍ヘッドコーチに就任するとは思っていなかったはず。
 そういえば、2018年に中日の森繫和監督が退任されたときも、小笠原さんは後任監督の有力候補として名前が挙がっていたんですよね。以前から、「中日が優勝を狙えるチームになったら、小笠原さんを監督に」というのが既定路線と言われていたのですが、人事というのはわからないものだよなあ。

 この本のなかで、小笠原さんは、中日の選手の名前を挙げ、エピソードなども紹介しながら、「二軍監督の仕事」について語っています。

 先にも述べましたが、二軍戦は勝負にこだわることを前提としつつ、選手の成長を優先するために、勝負度外視の戦術を選択することもあり得ます。
 また、チーム内のライバルとの競争についていえば、「いつでも平等な競争があるとは限らない」というのも二軍の真実です。
 ハッキリ言ってしまえば、結果が出ようが出まいが「強化指定選手」として、優先的に二軍戦に出場する選手がいます。
 その選手を育てることがチーム全体としての優先的なミッションなのです。それは厳密な意味でも「勝負」ではなく、「えこひいき」だと言えばそのとおりです。
 しかし、だからといって「負けていい」ということではないのです。成長を優先して、勝負は度外視といっても、本気で勝負しなければ、成長もありません。単に失敗を恐れることなく思い切って戦ってこいと言っているだけのことであり、実のところ「勝ってこい」と送り出しているのです。


 二軍は「勝つこと」よりも、「一軍が戦力を維持できるように適切な選手を供給すること」が目的なのです。
 ファンからすると「いくらドラフト1位だからといって、まだ実力不足のこの選手ばかり二軍のスタメンなのはどうなんだ」と思うことはあるのですが、実戦でしか学べないことは多いし、なんのかんの言っても、期待されている選手はチャンスも多くなるのが現実です。とはいえ、ドラフト下位からでも、名球会入りするような選手が少なからずいるんですよね。
 だから、誰にでもチャンスはある。ただし、「平等」ではない、ということなのでしょう。

 それはテーマパークや大博覧会を管理運営しているような感じでもあります。
 あるブースは「一軍準備選手」、いつでも一軍に上げられる「スペアの選手」たちの状態をキープします。人数制限の関係登録から外れている外国人選手もこちらに含まれます。
 別のブースでは、怪我をしてしまった選手たちのリハビリを実施し、二軍戦で実践感覚を取り戻す「立ち上げ」を行います。
 一方、育成ブースでは、中長期のスパンで若手に経験を積ませていきます。
 そして、育成段階を終わっているけれど「一軍準備選手」には入っていない、もっと戦力としての状態を上げていく必要のある「中間層のブース」がある、といったイメージです。
 今、どういう戦力があるのかと一軍から問われたときに、幅広いラインナップを揃えておくことが求められます。
 そう考えると、おのずと優先順位というものが存在することがわかるのではないでしょうか。なんといっても、目先のことが肝心なのです。
 一軍で不慮の怪我人が発生して、選手を補充しなければならないというのは、残念ながらよくあることです。
 そういうときに備えて、守備位置のみならず、打者としてのタイプ、守備走塁の上手さなどの特徴も含めて、さまざまな選手をいつでも一軍に送り込めるように準備しておかなくてはなりません。


 当然のことながら、常に「一軍の都合が優先される」のです。いくら二軍で調子がよくて、ぜひこの選手を一軍で使ってもらいたい、と二軍の首脳陣が思っていても、同じタイプの選手が一軍にいて調子が良ければ、声がかからない、ということも少なくありません。ファンにとっても、「二軍の成績が悪い」と、もちろん気持ちよくはないけれど、まずは一軍が勝ってなんぼ、ですよね。

 どの時代でもそうなのかもしれませんが、高卒1年目、2年目の選手は、小笠原さんにとっては自分の子供くらいの年齢にあたるわけで、指導のしかたに戸惑うことも多いそうです。

 ちなみに私たちの時代はどうだったかというと、それはそれは大変でした。「振っとけ」、「走っとけ」の一言で終わりだったこともあります。
 いつまで振ってればいいのか、いつまで走ってればいいのかもわかりません。完全な一方通行で、コミュニケーションなどという概念がありませんでした。
 今では考えられないと思う一方で、昔はそれでもどうにかなったのだな、ひょっとしたら今は情報を与えすぎているのかもしれないな、とも思います。
 たとえば、速い球を投げようとすれば、昔なら「ボールの縫い目に指をかけて、下半身を使って投げなさい」と言われました。
 非常に情報量が少ないのですが、その分、まずは自分でやってみて、想像力を膨らませたり、自分で手順を考えたりして情報が足りない分を補いました。
 一方、今はもうスタート時点から情報が多い。画像、動画、成功した人の感想、失敗した人の感想、それをまとめた情報……あふれるほどの情報があるので、まず何が「正解」なのかを調べて、わからないことがないようにしてから、ようやく取り組み始めます。
 これは選手たちばかりを責めるわけにはいきません。世の中全体がそういう情報化社会なのですから、野球だけを切り離すことはできません。
 現実的に、この行動パターンで効率的にものごとが解決できることも数多くあります。ですから、スポーツだけ、野球だけ、そのパターンから除外するというのは難しいことです。
 指導する側も、早く成長させたいという気持ちがあり、たっぷり情報を提供し、効率重視の練習をさせることも多いのです。
 理想を言えば、それはそれで大事、自分で考えることも大事と、しっかり分けて伝えるべきなのでしょうが、限られた時間で、早く成長してくれるようにと、練習内容を詰め込んでいる現実もあります。

 こんなことがありました。ある選手にアドバイスをしたら、即座に「それってどうやればいいんですか」という質問が返ってきました。
 まるで1から10まで正解を教えてほしいと言わんばかりだったのです。
「そういうところだ!」と私は厳しい口調で言いました。
 まずはやってみて、自分なりに考えてみて、わかったこととわからないことを整理したあとであれば、同じ質問をするにしても、もう少し内容も、聞き方も変わってくるはずです。


 「効率」を重視する若い選手と、「試行錯誤することで、考える習慣を身につけさせたい」と考えている指導者。
 教えかた、というのは、本当に難しい。
 精神論や「自分でやってみろ」だけでは若い人たちはついてこないし、一から十まで教えてしまうと、今後、同じような壁
にぶつかった際も、人に頼ることしかできなくなってしまう。
 そもそも、バッティングやピッチングに、万人に、すべての時代に共通する「正解」など存在しないのです。
 その一方で、新人や若手に、自分で十分に試行錯誤できるほどの時間を与えられる世界ではない、というのもあるんですよね。

 二軍監督というのは、中間管理職みたいなもの、と小笠原さんは仰っています。
 ということは、二軍監督の仕事というのは、中間管理職にとって、参考になるところが多いのではないかと思います。
 小笠原さんを一軍監督にするつもりで、指導者の英才教育をしていたはずなのに、社内のパワーバランスの変化で辞めることになったというのも、中間管理職的ではありますね。中日にとっては、ちょっと勿体ない気もしますが。


二軍監督の仕事~育てるためなら負けてもいい~ (光文社新書)

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プロ野球 二軍監督--男たちの誇り

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魂のフルスイング

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