琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】生涯投資家vs生涯漫画家 世界で一番カンタンな投資とお金の話 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
村上世彰氏と西原理恵子氏といえば、ともに〝お金好き〟で知られています。
しかし実態は正反対。
村上ファンドをはじめ投資で財をなした村上氏に対し、西原氏は投資もバクチも麻雀も、実はこれまで負けっぱなしなのだそうです。
そこで本書の前半では、村上氏が西原氏に、「買っていい株とダメな株の見分け方」「損切りのタイミング」「ビットコインの将来性」などについて、懇切丁寧にアドバイスします。
そして後半は実践篇として、西原氏が1000万円を用意して、息子とともに日経225などの株に挑戦します。
それまでゲームばかりしていた息子がCNNを見るようになったとか。
さて、その結果はいかに?
誰でも投資の極意をつかめるサイバラのイラスト付き!


 金融庁の「老後30年間で生活費が約2000万円不足する」という報告書が話題になったこともあり、「資産運用」を考えている人が増えてきているようです。今の世の中、金利があまりにも安くて、銀行にお金を預けていてもほとんど利子がつかないような状況ですから、「なんとかして、少しでもお金を増やしたい」と思いますよねそれは。
 だからこそ、怪しげな「資産運用」が横行するリスクも高そうなので、用心したほうがよさそうです。

 この本、「村上ファンド」の村上世彰さんと、漫画家の西原理恵子さんによる「投資」についての対談と西原さんと息子さんによる資産運用の実践が収録されたものなのですが、読み終えての印象は、「本当に初心者向けだな……」でした。
 少しでも「資産運用」とか「投資」について学んだことがある人や実際にやったことがある(やっている)人には、「こんなことはさすがに知ってるよ」という話ばかりだと思います。
 あと、村上さんにも西原さんにも興味がない、あるいは嫌いという人は、あえてこの本で学ぶ利点はほとんどなさそうです。
 要するに、「投資や資産運用については、まっさらな初心者」で、村上さんと西原さんに興味がある人向け、なのです。

 でも、あの「2000万円」で危機感を抱き、これから資産運用をはじめてみよう、という人は、「高利回り」「元本保証」とかいう甘い言葉に乗せられる前に、せめてこれくらいのことは知っておいてほしい、という「最低限」の内容でもあるんですよね。
 避けるべき投資を避ける、というのは、ものすごく大事なことだから。

 こんなことを書いている僕自身も、最近になって少し株とか資産運用に興味を持ちはじめたばかりなのです。
 相手があの村上ファンドの人となると、これはもうスケールが違うのですが、村上さんは、「投資に回せる金額」について、こう仰っています。

村上世彰たとえば1億円持ってる人が100万円投資するのと、100万円持ってる人が1万円投資するのは、理屈としては一緒ですよね? その積み重ねで高い期待値のところに投資して、タネ銭を稼いでいくのが一番重要なんです。


西原理恵子全財産突っ込めってことじゃないんですね。


村上:もちろんそうです。自分の感覚としては、資産の2割は投資に回してもいいんじゃないかと思っています。


西原:資産というのは、どこからどこまでが入りますか?


村上:たとえば、5000万円の家を持っていて、ローンが4000万円あるとすると、差し引き1000万円ですよね。預貯金が1000万円あったら、1000万+1000万で2000万円。その2割、400万円ぐらいまでは、投資に回してもいいと思いますね。


西原:なるほど。それだったら最悪ゼロになっても、8割は残りますもんね。


村上:かく言う僕も、自分の資産の5倍ぐらい張ったことありますけどね。


 このくらいの資産を持っている人でも、投資に回してもいいお金は、2割くらいなんですね。「もしなくなってもすぐに生活に困ることはないくらいの金額で、投資はやるべき」なのです。しかし、あの「2000万円」で焦っている人の多くは、こんなに資産を持ってはいないはず。
 資金に余裕があれば、買った株が値上がりするのを待てるし、多少株価が下がっても、精神的な動揺も少ない。
 基本的に「もともと資金に余裕がある人のほうが有利」なのは間違いありません。

西原:やっぱり何でも向き不向きってあるじゃないですか。こういう人が投資に向いているっていうの、ありますか?


村上:数字に強い人。数字を覚えることができる人は向いています。


西原:新潮社の中瀬ゆかりさんが、すごく数字に弱いんですけど、私に向いている投資はありますか? というのを聞いてくれと。


村上:それはやっぱり基本的には向いてないですね。ただ、西原さんにもおすすめしたように、日経225のようなものを長期的に持っているのはアリじゃないかな。経営にもそういう部分があって、よく「私は数字に弱いけど千布はあるのよ」って言う経営者がいますけど、何のセンスなのかと。やっぱりバランスシートとかプロフィットロスとか、そういうのはわかっていないとうまくいかないと思います。


西原:自分ができないことを「気合いで」とか「俺流」「本気と書いてマブと読む」とか言って物事をぶっつぶす人間を、イヤというほど見てきました。


村上:そういう人は、向いてないと思います。


 数字や数学に強い人、自分の「期待」ではなくて、客観的な「期待値」をつねに意識して行動できる人が投資に向いているのです。
 西原さんの例は極端にも思われますが、この本は「投資の入門書」というよりは、「投資に向いていない人が諦めるため」に有用なのではないか、と僕は感じました。
 そもそも、「世界で一番カンタンな」とか言われて飛びつくような人は、向いていない(もちろん僕もです)。
 どうしてもやりたければ、日経225(東京証券取引所第一部に上場する株式銘柄から、日本経済新聞社が225銘柄をピックアップして平均株価を算出・公表したもの)にしておけ、日本の経済成長とともに、少しずつ上がっていく可能性が高いし、あれこれ考えて墓穴を掘らなくても済むから、というのは、最近何度も耳にしました。
 一攫千金を狙うとリスクも高く、ほとんどの人はうまくいかないのです。
 村上さんのような人と同じ土俵で戦って勝てるのか?と思うと、それはやっぱり厳しいよね。


 この本のもうひとつの読みどころは、村上さんや西原さんが口にする、お金についての濃厚なエピソードなんですよ。

 西原さんが、10年前に子どもの同級生の親に200万円貸したときの話とか、自己破産しても税金だけは払わなければならないこととか。
 「お金で人間関係が破綻する」というのは、お金を貸す側にとってもいえることなのです。

 あと、西原さんの息子さんが「株を買ってみよう」という企画で、スクウェア・エニックスの株を買ったのだけれど、下がりまくっている話や、株をきっかけに、CNNを見るようになって、国際情勢に興味を持つようになった、というのも紹介されています。
 投資をする、というのは、お金を稼ぐ、ということだけではなくて、自分がいる世界の動きについて、真剣に考えるきっかけにもなるのです。
 
 それにしても、株というのは、人々が経済について行動することとを予測するというのは、すごく難しい。
 スクウェア・エニックスの株はスマートフォンの『ドラクエウォーク』で上がると思いきや上がったのは一時期だけで今は低迷しているし、この本のなかで、試しに買ってみたけれど暴落しまくっている、と西原さんが嘆いているビットコインは、最近になってまた高騰してきているのですから。


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