琥珀色の戯言

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【読書感想】ニッポン47都道府県正直観光案内 ☆☆☆

ニッポン47都道府県正直観光案内

ニッポン47都道府県正直観光案内

内容紹介
本気でいいと思ったスポットを厳選!スペクタクル富山県大分県は大魔境、茨城県が日本一?愛知県の可能性は無限大、一番ダサい東京都。※すべて個人の感想です。

思う存分旅行がしたい!と言ってサラリーマンをやめた著者が、行きも行ったり日本全国47都道府県のおすすめ観光スポットを正直に紹介。こんなところがあったのか?!と地元の人も驚く、すごいスポット満載。読んで楽しい、行って楽しい2倍3倍楽しめるガイドエッセイの誕生。


 エッセイストであり旅行作家でもある宮田珠己さんによる「日本の47都道府県の観光案内」。
 以前、益田ミリさんが、47都道府県すべてに行ってみる、というエッセイを出しておられましたが、同じようなコンセプトでも旅する人の趣味嗜好によって、こんなに違うものになるのだな、と思いながら読みました。


fujipon.hatenadiary.com


 宮田さんは、グルメとかショッピングに関してはスルーして、とにかく、見る価値があるもの、体験してみて面白かったもの、を中心に紹介しています。

 やはり一般人には見た目が大事。一見してわかるすごさで驚かせてほしいものです。
 言うまでもないことですが、すごいと言っても、必ずしもでっかいものや派手なものばかりがすごいわけではありません。細かかったり素朴なもの、地味なもののなかにも、すごいものはある。B級スポットや路地裏にも、武家屋敷やタワーのなかにも探せばすごいものは当然あると思います。奇妙なお墓、すごいダムなら私も見たい。つまり専門的知識がなくてもマニアの目で見なくても、誰が見ても来てよかったと思える、手ごたえの感じられる場所を観光したいということです。

 というわけで己の観光客魂に従い、妥協なき観光案内を書いてみることにしました。想定している読者は、その県に行くのは最初で最後かもしれない人です。一度しかない機会をみすみすつまらない観光地で過ごしてしまわないために、参考にしてもらえればと思います。

 最初にスタンスをはっきりさせておきます。


・マニアでなくても、専門知識がなくても楽しめる観光スポットのなかから、正直にいいと思う場所だけを厳選し、都道府県別に紹介する。

・グルメや、おみやげ、店、宿などの情報は枝葉だから扱わない。ただしものすごいものに出会った場合に限りとりあげることにする。

・めんどくさいのでアクセス情報、入場料、休館日などは扱わない。行きたい場所があれば各自調べるように。


 いろんな意味で、思い切ったというか、割り切った観光地紹介エッセイではあるのです。
 このインターネット時代に、入場料とか休館日などを掲載するのは、たしかにあまり意味はないかもしれません。そういう情報って、すぐに古くなってしまいがちですし、今は、どこかに旅行するというときに、とりあえず行き先を検索する人が多いでしょうから。

 ただし、読み進めていくと、宮田さんは基本的にアウトドア系で、海やシュノーケリングが大好きで、水族館についての著書もあるのです。
 そして、サブカルっぽいB級スポットに味わいを感じやすいようです。
 趣味が合う人にとっては、「こういうのが欲しかった!」というものである可能性がある一方で、「自分には役に立たないなあ」と感じる人も少なからずいそうではあるんですよね。
 それに、観光ガイドに載っていないような珍しい場所が満載、というわけでもないですし。
 ただ、ベタな観光地だからといって全否定するわけでもなく、マイナーなスポットだからと過剰に持ち上げるわけでもない、宮田さんの「正直」が詰まっているのは間違いありません。


 各都道府県についての、宮田さんなりの「観光地としての地理的な適性」みたいなものが、けっこう熱く語られているのも面白いところです。
 自分が住んでいる県が、他人からはどんなふうに見えているのか、というのは、けっこう気になりますよね。
 褒められてもけなされても生活に変化があるわけではないし、褒められても「そんなたいしたものじゃないよ」と思うのだけれど、けなされるとなぜか腹立たしいのだよなあ。

 東京の人間はよく埼玉県をダサイタマと言ってバカにします。有力観光地に恵まれないのも原因のひとつかもしれません。しかしそのような蔑みは、埼玉県からすれば理不尽な話です。というのも、ダサいのは実は埼玉県のせいではないからです。その証拠に、埼玉だけでなく、お隣の群馬、栃木、さらに茨城まで周辺すべての県が、しばしばダサい認定されている。千葉だってそうです。これは奇妙なことではないでしょうか。これほど多くの県が十把ひとからげにバカにされれている地域は、全国を見回しても関東以外にありません。東京があまりにかっこいいためにその落差がそのように感じられるのでしょうか。一見正しそうな仮説ですが、違います。
 実は、元凶は関東平野なのです。
 関東平野全部がダサい。これは東京とて例外ではありません。本当は東京もダサいのです。その件についてはいずれ東京都の項で触れますが、とにかく埼玉県だけをいじめるのは間違っています。
 ではなぜ関東平野はダサいのか。答えは簡単。
 山がないから。これに尽きます。山、ないったらない。東京を出て京浜東北線宇都宮線で北を目指すとき、車窓に広がる茫漠とした風景の絶望感といったらありません。
 ずっと関東平野に住んでいる人間は気づきもしませんが、他地域から来た人間はみな、間近に山の見えない空虚さ味気なさに気づいています。山がなければ風景は変化に富みません。峡谷も生まれなければ、滝もできない。できるのは湿地か沼がせいぜいです。
 んんん、せめて湿原があれば……。
 これが関東平野のダサさの正体です。
 当然そんな地形的バラエティのないところが観光地として自然に発達するはずがありません。そうなると、見どころは人の手で造るしかない。したがって関東平野の観光地は人工物ばかりです。その意味で関東平野は、最初から大きなビハインドを背負っていると言っていいでしょう。


 これは埼玉県の項の一部なのですが(ちなみに、埼玉県は全部が平地じゃない、と宮田さんは仰っています)、人が住みやすい、そのおかげで日本の中心となり、人口密集地帯となった関東平野は、起伏に乏しく、地形的なバラエティに乏しい、とも言えるのですね。
 僕は大自然の観光よりも、人工物への興味のほうが強いのですが、見てわかりやすい、とか、死ぬ前に一度は見ておきたい、というのは、自然がつくりだした光景のほうが多いような気がします。『モナリザ』とか『最後の晩餐』のような絵画やピラミッド、サグラダ・ファミリアのような建造物も「見ておきたいグループ」に入るとしても。

 筥崎宮太宰府天満宮でも見物したら、天神でウインドウショッピングし、夜は中州の屋台で博多ラーメン。福岡県に観光に行ったことのある人は、まあだいたいそんな感じで過ごしたのではないでしょうか。
 昨今は少し西のほうへ足をのばして、新しいお店が増えた糸島あたりを徘徊するのも流行っていると聞きます。現地の友人に、白糸の滝の流しそうめんに連れて行かれたりするのも、すっかり福岡観光の定番になりました。
 ですが、それで福岡県を満喫した気になっていいのでしょうか。
 え、何? 福岡ドーム? 大濠公園? キャナルシティ? 海の中道マリンワールドにも行った?
 そうですか。でも、それが福岡観光なのでしょうか。それで真に福岡を観光したと言えるでしょうか。ここで私が言いたいのは、それ全部博多周辺だろ、ということなのです。
 そう。福岡県の問題はこの点にあります。
 いや、少し詳しい人であれば、博多以外に北九州の門司港を訪れたことがあるかもしれません。門司港周辺にはちょっとした見どころが集中しています。
 山口県の下関へ歩いて渡れる海底トンネルや、レトロな街並み、鉄道記念館もあったでしょうか。さらに和布刈公園のほうに回り込みますと、日本最大ではないかと思われるタコのすべり台があって、知る人ぞ知る名所となっています。
 ですが、福岡県で知っているのも、ここまでです。夜空の星でいうなら、一等星の博多、二等星の門司港があり、博多の隣に連星の太宰府が光っているのが見えますが、あとは真っ暗。肉眼では何も見えません。
 え、福岡県ってそれ以外何かあるの?


 もうほんと、仰る通り、なんですよね。
 九州を代表する都市、アジアへの玄関口、と博多は持て囃されているけれど、福岡県は、博多だけじゃない、はずなのに。
 宮田さんは、このあと、「それ以外の福岡県の見どころ」を紹介してくれているのですが、むしろ、この「福岡県全体についての印象を書いた部分」のほうが、僕にとっては印象的でした。


 あと、大阪府の項で、千里山万博公園内にある国立民族学博物館を強く推しておられたのも、僕としては嬉しかったのです。太陽の塔を観に行ったついでになんとなく入ってみて、あまりの展示物の多さと独特の雰囲気に圧倒されたので。


 春休みにどこかへ行きたいけれど、近場に日帰りで、どこか面白いところはないか、という方は、この本をめくってみると、行き先が見つかるかもしれませんよ。


無脊椎水族館

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わたしの旅に何をする。

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