琥珀色の戯言

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【読書感想】総会屋とバブル ☆☆☆☆

総会屋とバブル (文春新書)

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総会屋とバブル (文春新書)

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内容紹介
かつて「総会屋」と呼ばれる男たちがいた――。

彼らは闇社会の住人でありながら、上場企業の株主総会に株主として出席し、経営陣を震え上がらせた。壇上の経営陣にイチャモンまがいの質問を突きつけて締め上げる「野党総会屋」がいれば、怒号のようなヤジをとばして彼らの質問を妨げる「与党総会屋」もいた。企業側が、彼らに利益供与をすることと引き換えに、株主総会の円滑な進行を望むことは自然な流れでもあった。

21世紀となった現在では信じられないが、名だたる超一流企業が株式市場のハイエナたちに喰い付かれていた。キリンビール伊勢丹イトーヨーカドー、味の素……。
「企業をまわって集金すれば、月に3000万円。最盛期は年収が3億円をゆうに超えていた」と、日本最大の総会屋「論談同友会」の元幹部は言う。

バブル経済に踊っていた金融業界にいたっては、総会屋に喰らい尽くされていたと言ってよい。ガリバーの野村證券は総会屋を優遇し、損失補填を行っていた。第一勧業銀行は歴代トップが大物総会屋との関係を続け、違法に融資された額は300億円にものぼるという常軌を逸した沙汰だった。

なぜ一流企業の経営陣は、闇社会の“呪縛”に絡み取られてしまったのか? 論談同友会の元幹部らの証言をもとにバブルの裏面史を描き出す。


 「総会屋」を知っていますか?
 と言っても、僕自身、「総会屋」という言葉は知っていても、「株主総会に少ない株を持って参加し、大騒ぎして荒らす人たち」というくらいの認識しかなかったのです。
 正直、疑問でもあったんですよ。
 なんで、大企業が、そんな人たちの好き勝手にさせているのだろう?って。
 警察に介入してもらって、取り締まればいいのに。

 かつて「総会屋」と呼ばれる男たちがいた。今で言うところの反社会的勢力である。
 昭和から平成にかけて、裏社会の住人たちが日本を代表する上場企業の株主総会を舞台に、狼藉の限りを尽くしていたのだ。
 総会屋は上場企業の株を購入して(彼らはそれを「株付けする」と言う)株主総会に乗り込み、長時間にわたり質問を繰り返しては議事進行を妨害し、経営陣に揺さぶりをかけた。質問の内容は重箱の隅を突くような些細なものから、業績や経営方針について鋭く切り込むものまで玉石混交、千差万別だ。
 時には何百項目、何十枚にもぶ膨大な質問状を総務部に送りつけて、「総会で質問するから回答を準備しておけ」と事前通告してくる者もいた。ところが、総会の直前になると質問状を突如取り下げることもあった。その見返りは当然、カネだった。彼らは手練手管の限りを尽くして企業を揺さぶり、裏側でカネを要求していたのである。
 かつて株主総会は、どこの企業でも大過なく30分程度で終了するのがお決まりで、いわゆる「シャンシャン総会」が当たり前と言われていた。総会会場のひな壇中央に座る議長役の社長が、総会屋たちの質問攻勢に見舞われ、答えに窮してうろたえることを何より嫌っていたからだ。総会が紛糾して長引けば、トラブルを多く抱える「問題企業」というイメージで世間から見られかねない。
 企業とすれば、総会が円滑に進んで平穏無事に終わるのであれば、総会屋たちにカネをバラ撒くことも、必要不可欠な経営コストと考えていたのだ。
 とはいえ、企業側も総会屋を名乗ればどんな相手にも無条件でカネを差し出していたわけではない。総会屋と言っても、小遣い銭をせびるタカリのような輩から、社内人事宇あ経営方針などに介入するほど絶大な影響力を持つ超大物までいた。企業側も総会屋の格やキャリアによって渡す金額に差をつけていた。


 彼らは巧みに大企業の内側に入り込み、ときには内部事情を握って、企業からカネを取り続けたのです。
 バブル経済で「金が潤沢にあった」こともあり、企業側も、「面倒ごとを避けるために」彼らにさまざまな形で資金を供与していました。
 大企業や証券会社がそんな勢力にお金をばらまいていた、ということで、市場の信頼性を大きく損なう結果になったのです。


 僕は1970年代はじめの生まれなので、大学時代にバブルが崩壊しています。
 あのバブル崩壊を目の当たりにして、「株とか投資は怖い」「バブル時代の日本経済は調子に乗りすぎていた」と思うようになり、株や投資のような危ないことはしない、と決意したのです。
 今になって考えてみると、若い頃から、しっかり経済の仕組みを学んでおけばよかったのですが。

 株主総会が30分程度で大過なく終わったほうがいい、総会が長引くと企業イメージが悪くなる、というような考え方は、今、こうして思い返してみると、明らかにおかしいのです。
 むしろ、問題点はちゃんと明らかにして、説明責任を果たす企業のほうが、誠実で信頼できるはずなんですよ。
 にもかかわらず、「シャンシャン総会」のほうが良い、議論になることを嫌う、という世の中の感覚が、総会屋を生み出してきた、とも言えそうです。
 この本を読んでいると、企業の上層部が、自らのプライドや面倒ごとを避けるために、総務部などの「総会屋担当者」に汚れ仕事を押しつけてきたこともわかります。

 
 著者が取材した、建設業関係の上場企業の元総務担当者は、こんな話をしています。

株主総会で社長は議長として、全てをうまく取りまとめる役割を担う。その舞台で、総会屋たちから質問攻撃で突き上げられたり、つるし上げられたり、立ち往生させられるような醜態をさらすのが耐えられないのだろう。
 どこの会社でも同じだろうが、社長は社内ではトップとして君臨しており、社外での付き合いでも大企業の代表者として振る舞い、そのように扱われているもの。だから株主総会で無様な姿をさらすことが耐え難いし、怖いのだろう。
 だから、結局は『総務部、何とかしろ!』ということになる。もちろん、総会屋にカネを払ってでも何とかしろ、という直接的な指示は出さない。ただし、総会屋にバラ撒くカネは裏の予算で計上してあるのだから、それは暗黙の了解だ。こちらもうまく総会を乗り切りたいところだが、『30分でも長い。15分だ』と無理な要求を社長が言ってきたこともあった。警察が絶縁を強く呼びかけても総会屋が生き残れたのは、社長たちのつまらないプライドがあったからだよ」
 元担当者は、そう吐き捨てた。
 ところが、”事なかれ主義”を指弾された当の経営者たちは記者会見で、「会社ぐるみ」「組織ぐるみ」を否定し、逮捕された総務担当者たちの「独断による犯罪」だったと強調し続けた。高島屋では、「(逮捕された)個人の話として認識している。組織ぐるみという表現は違う」と否定。松坂屋でも、「個人の犯行。会社ぐるみと取られるのは、あってはならない」と押し切った。イトーヨーカ堂に至っては、記者たちの質問にまともに答えず、一方的に会見を打ち切って退席する始末だった。


 「組織や、組織のトップを守るために、汚れ仕事をやっていた人間たちを容赦なく切り捨てる」という体質は、いまも変わっていないように思われます。

 企業の総会屋担当者や経営陣が、命を狙われることもあったのです。
 1993年8月に阪和銀行の副頭取が射殺され、1994年2月には富士写真フィルム(現・富士フィルム)の専務が、刃物で刺されて死亡しています。1994年9月には、住友銀行名古屋支店長が自宅マンションの通路で頭を拳銃で撃たれて亡くなりました。
 
 大企業の責任ある立場ともなれば、ある程度、恨まれるリスク、みたいなものも背負ってしまうのは致し方ないところ、ではあるのでしょう。
 しかしながら、こんな事件が続いていれば、自分や家族の命を危険にさらしてでも、反社会的勢力との関係を断つ、というのは、怖いですよね。
 大企業の幹部全員がボディガードに警護されるのは難しいでしょうし、家族が狙われるかもしれない。
 カネで解決できるのであれば、そうしてしまおう、という気持ちになるのも理解はできるのです。
 なんのかんの言っても、暴力による脅しには、効果があることを認めざるをえません。

 余談にはなるが、多くの企業が長年にわたり総会屋との絶縁を図れなかった中で、総会屋の要求を頑強に拒み続けてきた企業があったことを紹介したい。
 かつての大物総会屋は、ある大手食品会社について、「この会社だけは、全く通用しなかった」と述懐する。この会社は商品名が社名となっており、大人から子供まで誰もが知る有名企業であり、現在は大手資本の傘下に入っている。
 株主総会に向けて、この企業に質問状を出すと、総務担当者が大挙して元総会屋の事務所に押しかけてくるのだという。
「このご質問に対してご回答します」
「この件についても、全てお答えします」
 分厚い資料をキッチリ揃えて、時間をいとわず説明を続けるのだ。質問状以外の件について尋ねても、総務担当者たちは手を尽くして回答を続けた。
 この企業の対応について、元総会屋は「経営トップと総務担当者が一体となって、総会屋からの要求には屈しないという方針を貫いて対応していたのだろう。トップが後ろ盾としてバックアップしていたからこそ、総務担当者たちは総会屋相手でも強気で押してこられたのではないか」と分析する。
 総会屋の活動が旺盛だったころ、多くの企業の総務担当者たちが、社長から「株主総会は早く終わらせろ」と無理難題を押し付けられていたが、この大手食品会社は全く違う態勢で対応していたのだ。
 総会屋としても、総務担当者たちに資金提供の話を持ちかける余地など全くなかった。株主総会に出席することさえ、ままならなかったという。質問が尽きて総会を欠席すると言うまでご説明攻勢が終わらなかったからだ。


 結局のところ、プライドや手間にこだわらず、「正攻法で、誠実に対応する」というのが、いちばん良い方法だった、ということなのでしょう。
 みんなが「とりあえず自分に火の粉が降りかかってこなければいいや」と考えてしまう、その気持ちはわかるのだけれど、それが「総会屋的なもの」を生み出す土壌になっているのです。


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