琥珀色の戯言

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【読書感想】Think CIVILITY(シンク シビリティ) 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である ☆☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
一流のエリートほど、なぜ、不機嫌にならないのか?ビジネスに効く!人間関係も良くなる!社内「処世術」の秘訣、礼節メールの極意、危険人物の見抜き方、怒りを鎮めるコツ―「職場の無礼さ」の研究、20年の集大成!全米で話題「礼節の科学」、日本初上陸!


 他人に対して親切に、礼儀正しくしたほうが、職場の雰囲気もよくなり、仕事もうまくいくようになる。
 なんとなくそんな気はするというか、そうであってほしいのだけれど、実際にはパワハラまがいの強制力を持った有能な人が実績をあげ、力を持っていることも多いし、みんなに親切にすればするほど、余計な仕事を押し付けられ、負担が増えていくのではないか……
 
 そんなことを考えながら、僕はこの本を読みはじめました。
 正直、ここに書かれていることが、日本でもあてはまるのか、グーグルとかフェイスブックのような「有能な人たちが集まった組織」じゃないと、礼節が効果をあげるのは難しいのではないか、という疑問は残るのです。
 それでも、25年くらい、いろんな職場(病院)で働いてきて感じるのは、少なくとも、時代は「パワハラで恐怖政治を敷く人」よりも、「周囲をうまくサポートして、気分良く仕事をさせてくれる人」を求めているのではないか、ということなんですよ。
 多くの企業の上層部や中間管理職が引きずっている、昔の「厳しく接して育てる」という感覚は、完全に時代遅れになっている。いや、もしかしたら、ずっと前からそんなの無意味、あるいは、スティーブ・ジョブズとかジェフ・ベゾスのような超天才にしかあてはまらないことなのに、「有能であれば、人格に問題があっても仕方がない」という思い込みだけが残されてきたのかもしれません。
 どんなに有能で実績を残している人でも、その「不機嫌」や「パワハラ」が周囲のパフォーマンスの低下をもたらすことを考えると、総合的には組織にとってマイナスになる場合がほとんどなのです。

 読んでいて、いままで自分が周りにぶつけてきた苛立ちや不機嫌な言動が恥ずかしくなってきたんですよ。
 吉本興業の上層部の人たちも、この本を読んでおけばよかったのに、と思わずにはいられませんでした。

 アメリカ心理学会(APA)の試算によれば、職場のストレスによってアメリカ経済にかかるコストは1年に5000億ドルにものぼるという。なんと仕事上のストレスが原因で毎年5500億円もの就業日が失われ、職場で発生する事故の60~80パーセントはストレスが原因で、アメリカ人の通院の約80パーセント以上がストレスに関係しているとも言われる。
 アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の報告によると、日々ストレスを感じながら仕事をしている労働者は、そうでない労働者に比べ、医療にかかるコストが46パーセント高いという。
 そしてストレスの大きな原因のひとつとなっているのが人間関係の問題である。ストレスの半分はこれが原因だ。
 無礼な人間が害になるのは、医療費が高くなり、病欠が増えるからだけではない。17の業界の800人の管理職、従業員を対象に、私が同僚のクリスティーン・ピアソンとともに実施した調査では、職場で誰かから無礼な態度を取られている人について次のようなことが言えるとわかった。


・48パーセントの人が、仕事にかける労力を意図的に減らしている。
・47パーセントの人が、仕事にかける時間を意図的に減らしている。
・38パーセントの人が、仕事の質を意図的に下げている。
・80パーセントの人が、無礼な態度を気に病んでしまい、そのせいで仕事に使うべき時間を奪われている。
・63パーセントの人が、無礼な態度を取る人を避けるために仕事に使うべき時間を奪われている。
・66パーセントの人が、自分の業績は低下していると答えている。
・78パーセントの人が、組織への忠誠心が低下したと答えている。
・12パーセントの人が、他人の無礼な態度が原因で転職をした経験があると答えている。
・25パーセントの人が、無礼な人にストレスを感じたせいで顧客への対応が悪くなることがあると答えている。


 無礼な人間のせいで企業が利益や社員を失ったとしても、その多くは目に見えず、誰にも気づかれない可能性がある。誰かのひどい態度のせいで仕事を辞める決心をした人の多くは、雇用主に本当の理由を言わない。離職者が多いと、それに伴うコストが跳ね上がることになる。特に辞めるのが能力の高い社員である場合には、その人の年収の4倍ものコストがかかる場合もある。
 無礼な態度の人が職場にいると、管理職の時間もそれによって奪われることになる。フォーチュン誌に掲載された人材派遣会社アカウンテンプスの調査結果によれば、フォーチュン1000企業の管理職、幹部は、社員間の人間関係の修復、あるいは無礼な人間による悪影響への対応のため、職場での時間の実に13パーセントを奪われているという。


 無礼な、あるいは横暴な人間の存在は、組織全体にここまで大きな影響を与えるのです。
 さらに、無礼さは伝染していきます。
 他者から無礼な態度をとられた人は、他の人に対して無礼な態度を取りやすくなる、というデータも紹介されています。
 人は、自分が大事にされていないと、他人を大事にするのが難しくなるのです。

 著者が実施したアンケートでは、回答者の40パーセント近くが、仕事の場で部下に優しく接したら、それにつけ込まれるのではないか、と恐れており、半数近くが、自分を誇示するのが言うことを聞かせる最良の方法だと考えていたそうです。
 しかしながら、そのような態度は、「現代の管理職やリーダーではマイナスに働く」「マキャベリの主張は現代には当てはまらない」のです。

 コストコの創業者、ジェームズ・シネガルは、ここで言う礼節あるリーダーの好例だろう。シネガルは、小売企業にとって顧客と従業員は株主よりも重要だと考えた。彼は自らこまめに店舗に足を運び、そこで働く人たちに挨拶をした。自分が感謝していることを従業員に伝えるためだ。
 また、会社としても、従業員を尊重し、その努力に報いる姿勢を見せた。コストコ従業員の給料は平均1時間あたり20.89ドルで、これはウォルマートに比べて65パーセント高い。ウォルマートは、コストコの最大のライバル、サムズ・クラブの親会社でもある。
 コストコの従業員への大きな投資――パートタイマーへの医療給付などを含む――は、長期的には報われたとも言える。シネガルはこう言っている。「12万人の忠実な大使がいるようなものだ。彼らは外部の人に絶えずコストコがいかに良い会社かを話してくれる。それで他社よりもはるかに優位に立てる」
 コストコの従業員ひとりあたりの売上げは、サムズ・クラブの2倍近くになっている。また、従業員の定着率が高く、長く勤める人が多いのもコストコの特徴だ。コストコに1年以上勤務した従業員の離職率は、業界の基準に照らすと非常に低い。離職率が低いことは1年あたり数億ドルのコスト削減につながっている。
 また、コストコは従業員による窃盗も際立って少ない。2003年から2013年の間に、コストコの株価は200パーセントを超える上昇を見せたが、一方のウォルマートの株価の上昇は50パーセント程度にとどまっている。
 このように従業員に対し敬意と思いやりを示す経営方針が、ビジネスに良い効果をもたらすことはコストコの例でもよくわかる。


 この本では、「無礼な人」のデメリットを紹介するだけではなく、無礼な上司への対応のしかたや、日常やメールを送信する際の気配りのしかた、なるべく不機嫌にならないための生活上の注意点などもかなり細かく書かれています。
 著者は、「礼儀正しさ」というのは先天的なものではなく、意識づけやトレーニングによって身につけるものだと考えているのです。
 そして、「常にまわりに当たり散らし、有能ではあるけれどパワハラ体質だったり、嫌味ばかりで周りに悪影響と与えたり、といった人びとも、それを自覚し、周囲から協力してもらうことによって、変わることができると述べているのです。
 無礼な人、不機嫌な人は「こういう人なんだな」とみんな諦めてしまいがちなのだけれど、ほとんどの人は、ちゃんと手順を踏めば(そして、本人が真剣に変わろうとすれば)数カ月で劇的な変化がみられるそうです。

 大概の人は、怖れられ、敬遠されるよりも、親しみをもたれ、敬愛されるほうが居心地が良いし、仕事のモチベーションも高まるのです。

 著者は、「採用する際の、無礼な人の見分け方」について、こんなエピソードを紹介しています。

 礼節に関する話をする時の志望者の表情や仕草はどうだろうか。しかめ面をしていないだろうか。落ち着きがなくなったりはしていないか。あなたの会社の価値観に合う人だと感じられるだろうか。
 その人が会社の価値観に合わないのだとしたら、そのことはできるだけ早くわかった方が良い。志望者が面接に訪れた際には、面接官以外の社員と接触する機会もあるだろう。その時の態度も注視すべきだ。
 たとえば、駐車場の案内係に対して、志望者はどういう態度だったか。受付係や、アシスタントに対してはどうか。腰が低く、優しかったか、それとも横柄で見下したような態度だったか。
 私は多数の企業の人事担当者から話を聞いたが、彼らによると、就職志望者についての最も有用な情報は、空港に車で出迎えに行った社員や、入り口で出迎えた受付係などから得られるという。


 こういうことは、採用する側だけではなく、採用される側も、知っておいて損はないと思います。
 吉本興業の上層部の、「若手や不祥事で苦境にある芸人たちを恫喝する社長」の話が出ていましたが、その人の本質というのは、自分より立場の弱い人に対してあらわれやすいのです。
 
 「いい人」が損をする時代は、たぶん、もう終わったのです。
 「いい人」であることが生存戦略として有効になった時代を、われわれは生きている。


fujipon.hatenadiary.com

礼節と誠実は最強のリーダーシップです。

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