琥珀色の戯言

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【読書感想】マグロの最高峰 ☆☆☆☆

マグロの最高峰 (NHK出版新書)

マグロの最高峰 (NHK出版新書)

  • 作者:中原 一歩
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2019/12/10
  • メディア: 単行本


Kindle版もあります。

マグロの最高峰 (NHK出版新書)

マグロの最高峰 (NHK出版新書)

内容紹介
旨さの秘密、全部教えます。
漁師から仲買人、鮨職人まで、すべてに密着取材して明らかにした「究極の味」

命を懸けた釣り、ミシュラン3つ星の鮨ネタ、初競りの「3億円」──。マグロをめぐるイメージは、この魚が持つ「人生を変えるほどの旨さ」によって生まれる。豊洲市場で1日に並ぶ200本のうち2、3本という“マグロの中のマグロ”とはどんな魚なのか? どんな季節の、どこで獲れた魚の、どの部位が「最高の味」なのか? 漁・卸・鮨の各局面に誰よりも通じた作家による、究極の入門書!

第一章 なぜ「大間の一本釣り」は旨いのか
第二章 誰が値段を決めているのか
第三章 いかにしてマグロは高級魚となったか
第四章 どこで“最高峰”を食べられるのか
特別付録 マグロと言えばこの十店


 僕もマグロは大好きで、お正月の「マグロ特番」も毎年見ているのです。船酔いがひどいので、マグロ漁師にはなれそうもありませんが、釣れれば100万円、釣れなければゼロ、という世界は、仕事そのものがギャンブル、という感じですよね。本人たちは、「ドラマチックでカッコいい」なんて言ってはいられないのでしょうけど。

寿司屋でもマグロは大好きなのですが、ほとんどは回転寿司で、スシローの300円の大トロでさえ、ちょっと高いかな……と手に取るのに躊躇してしまいます。
それなりに高級な寿司屋にも入ったことはあるのですが、著者が述べているような「人生観を変えてしまう、本当に旨いマグロ」には、今のところ出会ったことがありません。

 本書は、国内最高峰のマグロがどのように誕生するかについて、産地から市場、そして鮨屋のカウンターを経て私たちの胃袋に収まるまで──つまり川上から川下までを追いかけた一冊だ。また、いま出版するのは、そんな国内最高峰のマグロが絶滅の危機に瀕しているからでもある。マグロの価値と実態をなんとか読者に伝えたいというのも、本書を執筆しようと思った動機の一つである。
 そして最初に断っておきたいことがある。本書で登場する「マグロ」とは、とくに説明がない限り「本マグロ(クロマグロ)」を指すということだ。国内で流通するマグロには、ミナミマグロ(インドマグロ)やメバチマグロキハダマグロなどがある。これらももちろん旨いが、”マグロの最高峰”を追いかけることを大前提とするので、やはり本マグロをめぐる冒険が本書のテーマになる。


 そもそも、「本マグロ」を、今まで何度食べたことがあるだろうか、と僕は思ったのです。
 この本は「マグロ全般」ではなくて、「最高峰のマグロ」にこだわって書かれているのです。

 あと、寿司となると、どうしても気になる「お金」の話にも、けっこう詳しく触れられています。

 「本マグロ」一貫の値段について。

 200キロの魚をキロ単価1万円で購入した場合を想定して計算してみよう。まず、一匹のマグロの三割は売り物にならない粗(頭、中骨、皮)が占める。つまり、200キロのマグロの場合、使えるのは正味140キロという計算になる。
 鮨一貫に使うマグロはおよそ20グラム(実際はこれより少ないが計算しやすいようにした)。すると次のような計算式が成り立つ。

 140キロ(売り物になる部位)÷20グラム(鮨一貫)=7000貫

 そのうち、トロが2割、赤身が8割を占める。つまり、トロが1400貫、赤身が5600貫になるので、仮に赤身だけでマグロの原価である200万円を稼ぐとすると200万÷5600で一貫357円。トロだけで稼ぐなら一貫1429円となる。さらに、儲けを考えたらどうなるだろう。仮に200万円で仕入れて倍の400万円で売るとしよう。その場合、赤身で一貫740円。トロで一貫2857円でなければならない。
 けれども、これはキロ単価が「1万円」の場合であり、これが仮に「2万円」になると、一貫あたりの値段も当然倍になる。赤身は一貫1429円、トロは一貫5714円。しかし客にこの値段を強いるのは、名店でも難しい。つまり、マグロで大儲けするのは限りなく難しいことなのだ。
 結論として私は、客単価1万5000円以上の鮨屋の場合、赤身は1貫500円、中トロは1000円から1500円、大トロは2000円から2500円というのが、「一貫の値段」の相場ではないかと考えている。


 回らない寿司屋のトロは高い、というイメージがあるのですが、寿司を代表するネタでもあり、ごく一部の例外の店を除くと、そんなに暴利をむさぼることはできない、ということみたいです。大トロ1貫2000円とか2500円が、高いか安いか、と問われれば、これ一貫でそこそこのステーキが食べられるな……とか、僕は考えてしまうのですが、その値段でも、店はそんなに儲かってはいないのです。


 「マグロ番組」でおなじみの「大間」の現状についても紹介されています。

 現在、大間には何人の漁師がいるのだろうか。
 大間町には「大間」「奥戸」という二つの漁業協同組合がある。マグロが水揚げされる大間漁協には現在、696名の組合員が所属し、正組合員(年間90日以上の操業実績のある漁師)はおよそ347名。そのうち200名がマグロ漁に出る。
 町の少子高齢化に伴い、漁師の大半が60代以上。40代は30名。30代と20代は合計しても20名弱だ。一方、最高齢の漁師は89歳。大間では還暦(数え年で61歳)どころか古希(数え年で70歳)を超えた漁師も現役で海に出て、200キロを超えるマグロと真っ向から勝負する。
 漁師というと、無口で、演歌が好きで、大酒飲み。頭にタオルを巻いて、ヤッケ(防寒用の上着)に長靴姿。そんな画一的なイメージが先行してしまうが、最近の漁師の中には、茶髪にピアスのストリート系の若者もいる。
 農林水産省の発表によると、2018年の漁船漁業の平均収入は840万円で、そのうち、燃料代や漁具代などの支出を差し引くと、いわゆる漁師の儲けの平均は249万円だそうだ。これはマグロ漁だけの数字ではないが、全国的に漁業への若者の参入は増加しているとは言い切れず、日本の漁業は斜陽産業と言われて久しい。
 ただ、大間では毎年、数人ではあるが若い漁師が誕生している。


 漁師は、収入が840万円あっても、経費がかなりかかるので、あまり儲からない、ということみたいです。お正月の「マグロ番組」でも、燃料代とか設備投資のコストがよく話題になっています。
 マグロ漁師には一攫千金の魅力はあるものの、安定した生活には程遠い。

 著者は、この本のなかで、おすすめの「マグロの名店」を紹介しています。
 日常的に通うことは難しいけれど、季節に1回くらいは行けるくらい(おそらく、ひとりあたり2~3万円、というところだと思います)の値段の店のリストは、いつかどこかで役に立つのではないかと思うのです。というか、役に立つといいなあ。
 
 日本橋人形町の『㐂寿司(きずし)』の四代目・油井一浩さんの話。

 油井が店の大黒柱と呼ぶのがマグロである。一年を通じて絶対に切らすことはない。これは創業時からの流儀だという。油井に、マグロはいつが旨いか聞いてみた。
 「マグロの旬は何と言っても晩秋から真冬です。具体的に言うと十月後半から一月下旬まで。この時期の特に津軽海峡の魚であれば外れることはまずないと思います。この時期のマグロ絹のようなキメ細かい脂が乗っていて、口の中に入れるとしっとりとしていて、融けるような感覚が味わえます。魚の香りもありますから、この時期のマグロで、まずはマグロの旨さを知ってほしいと思います」
 油井のこの意見に私も賛成だ。まずは旬の本当に旨いマグロを食べて、その味を舌に刻み込んでほしい。


 「本当に旨いマグロ」「は、けっして安くはないけれど、それが人生を変えるかもしれない味ならば、1貫2000~2500円というのは、「出せない金額ではない」と思います。
 それにしても、みんなマグロが大好きですよね。
 マグロにとっては、なんでこんなに人間に狙われるんだ……って感じなのかもしれませんが。


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