琥珀色の戯言

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【読書感想】「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ ☆☆☆☆☆

「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ

「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ


Kindle版もあります(この本に関しては、紙版のほうが書き手の意図が伝わる形になっていると思います)。

内容紹介
任天堂の企画開発者による
ビジネスに活かせる発想法を大公開!

わかりやすく作ったつもりなのに人気の出ないサービス、
盛り上がるよう企画したのに誰も来ないイベント、
性能が優れているのに売れない商品、
ビジュアルを工夫したのにウケの悪いプレゼン、
将来のためにと「勉強しなさい」と言ってもまったくやらない子供たちetc<.br>
相手のことを思って一生懸命伝えようとしているのに、
なぜわかってもらえないのだろうか…。
それは「人が動くしくみ」を知らないから。

人の心を動かし「ついやってしまう」
仕組みと手法について体系的にまとめたのが本書です。

ついやってしまう・思わず夢中になる・誰かにすすめたくなる
商品・サービスのしくみとは 企画・開発・マーケティング・営業等、幅広く役立つ
体験デザイン(UX)の入門書です。

入門書といっても、専門的な解説は一切なく、
だれもが遊んだことのある有名ゲームを題材に、
「つい」の秘密をわかりやすく解き明かしていきます。


 任天堂Wiiの企画を担当していた著者による、「心を動かす体験のつくりかた(=体験デザイン)」。
 僕はもう40年近くテレビゲームをやってきているのですが、これまで「テレビゲームとは、こういうものだ」と意識せずに遊んできたことを思い知らされました。
 制作側にとっては、あるキャラクターが、そこにいることにも、主人公が使えるアイテムや武器にも、すべて「理由」があるのです。
 それらは自然にあるものではなくて、誰かがそこに配置しないと、存在しないものなのですから。

 著者は、「素直そうな子どもたちを呼び集めて、『スーパーマリオブラザーズ』の冒頭の画面を見せながら、「おもしろそう?」と尋ねてみたそうです。
 すると、多くの子どもたちが「おもしろくなさそう」と答えました。

 世界一売れたゲームが、おもしろくなさそう……おかしな話です。万が一にも、本当にスーパーマリオがおもしろくなさそうだとしたら、いったいなぜ、スーパーマリオは世界一売れたというのでしょうか?
  とはいえ、単刀直入に「スーパーマリオはなぜ世界一売れたのか?」という問いについて考えるのは少々面倒です。ものが売れる理由について考えるためには、当時の時代背景のような込み入ったことまで考えなければなりませんから。そこで、あくまでゲームの体験デザインだけに注目するために、少し遠回りにはなりますが補助的な問いを設定したいと思います。
 

 このゲームは、何をしたら勝ちでしょうか?


 何をしたら勝ちか、これすなわち、このゲームでいちばん大切なルールですから、かつてスーパーマリオを遊んだことのある人なら全員即答できるはず……ですよね。しかし予想に反して、この問題に答えられる方はほぼゼロという難問でもあります。いくつか誤答例をあげながら、少しずつ答えに近づいていきましょう。
 
 まずはじめに、こんな誤答からはじめましょう。マリオの宿敵で、最強のライバルで、最後のボスといえば……誰でしたっけ?
 左下の模式図でマリオに立ちはだかっている「クッパを倒せば勝ち」。これこそがもっとも多い誤答です。いやいや、クッパはまちがいなくこのゲームの最後のボスじゃないか、誤答のはずがないと思われるかもしれませんが……。


 著者が示した「答え」はここには書きませんが(すごく面白い本なので、ぜひ自分で考えてみて、答え合わせをしてみてください)、僕はそれを読んで、「ゲームをつくる人というのは、そんなふうに考えているのか!」と感動したのです。
 そして、『スーパーマリオブラザース』の見慣れたスタート画面に込められた「意味」と「配慮」も。
 

 ユーザのことを考えずに「一般的にこういうものが良いはずだ」「常識的にこれが正しいはずだ」などと「良さ、正しさ」を振りかざすデザイン……これこそが、デザイナーを待ち受ける最大の罠です。

 たとえどんな名作ゲームでも、実際に体験してみるまで、ユーザはおもしろさを感じることはできません。おもしろいと感じてもらうためには、遊びかたが「わかる」までユーザを導くことが絶対条件です。要は、「わかる」は「良さ・正しさ」よりも大切なんですね。

 ところで、ビジネスの現場では「ユーザに寄り添え」という表現をよく聞きます。一見するとすばらしい主張のようではありますが、具体的にどうすればユーザに寄り添うことになるのかという問題が残されたままになっています。この問題に、この本はこんな回答をしたいと思います。
 
 ユーザに寄り添うためには、ユーザがたどる「わかる」→「良い・正しい」という体験の順番に合わせて優先度を決めなければいけません。商品やサービスの「良さ・正しさ」を伝えるよりも、まずは商品やサービスとの関わりかたが直感的にわかることを優先すること。これこそが「ユーザに寄り添う」の本質だと考えます。


 たとえば、パソコンに詳しくないお客さんに、目の前のパソコンのCPUの性能のすばらしさを延々と説明しても、「何がすごいのかよくわからない。もしかしたら、高いものを売りつけようとしているのでは……」などと勘繰られてしまうかもしれません。
 「わからない」というのは、それだけで、人を頑なにし、身構えさせてしまうものなのです。
 『スーパーマリオブラザーズ』では、プレイヤーは、制作者に「誘導」されているという意識を持たずに、「感覚的に」遊び始めることができます。実際は「プレイヤーにこんなふうに動いてほしい」という計算のもとにつくられた状況であるにもかかわらず。

 僕は最初に『スーパーマリオブラザーズ』の画面写真をゲーム雑誌で見たとき、「あんまり面白そうじゃないなあ」って思ったんですよ。それが、遊んでみたら、あまりに面白かったので驚きました。最初にプレイしたとき、土管を見かけて「この中に入れたりして……」と土管の上で十字キーの下を押したら、本当に入れたことに、ものすごく感動したのをいまでも覚えています。


 著者は、『ドラゴンクエスト』の名物ともいえる「ぱふぱふ」についても、こんな考察をしています。

 勇者の成長……実によいことです。しかしその裏で、割を食っている人がいます。プレイヤーその人です。プレイヤーはここまで、コマンドの使いかたなどの専門知識を延々と学ばさっぱなし、学習の連続です。たとえるなら休み時間なしで勉強させられているようなもので、どうしても疲れや飽きが来てしまいます。

 疲れと飽き、これこそが、直感のデザインが抱える致命的な欠点なんです。


(中略)


 直感のデザインによる学習の連続をあえてストップし、疲れや飽きから解放するための体験デザイン、デザイナーは決して下ネタを言いたいだけで、「ぱふぱふ」を設計したわけではないはずです。その証拠は、ぱふぱふの登場タイミングです。

 ドラクエ1では、コマンドすべてを学んだ後に、ドラクエ2では、3人の仲間全員ではじめて挑むダンジョンの後に。ドラクエ3では、はじめての強敵を倒した後に。ドラクエ4の場合は少し複雑ですが、か弱い2人の女性キャラクターだけの冒険に苦しみ、夜の町へと逃げ帰ってきたときに「ぱふぱふ」は登場します。いかにデザイナーが細心の注意を払い、タイミングを見計らっているか。

 逆に言えば、ぱふぱふは特定の心理状況でしか効果を発揮しません。適当にセクシーな話を持ち出したところで、ただ下世話になるだけです。シリアスな冒険物語としての世界観が事前にしっかりと描かれていて、プレイヤーもその世界観の中に入り込んでいる状況があるからこそ、ぱふぱふは心をつかみます。

 シンプルに言い換えるなら、こうです。プレイヤーに「ぱふぱふのようなくだらない話なんか出るはずがない」と思わせたとき、はじめてぱふぱふは意味を持つ。予想外のものが目の前に現れたとき、私たちの心は疲れや飽きをかなぐりすてて、興奮します。つまり、ぱふぱふの本質は、予想が外れるという体験にあるのです。


 堀井雄二さんに「ほんとうにここまで考えていたのですか?」と尋ねてみたいものです。本当のことは、答えてくれそうもない気もするけれど。
 こういうのって、「計算している」ことがプレイヤーに伝わると、面白くなくなるものですし。

 「面白さ」を創り出すには、センスだけではなくて、いろんな基礎知識みたいなものがあり、ゲームの世界にあるものには、すべて意味がある。
 これまで、遊ぶ側として「ゲームって、こういうものだよね」と無意識に受け身になっていた僕にとっては、まさに目から鱗が落ちるような読書体験でした。
 ぜひ、多くのゲーム好きの人、そして、仕事でプレゼンテーションをやる機会が多い人にも、読んでみていただきたい本です。


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任天堂“驚き”を生む方程式

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