琥珀色の戯言

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【読書感想】やってはいけない不動産投資 ☆☆☆☆

やってはいけない不動産投資 (朝日新書)

やってはいけない不動産投資 (朝日新書)


Kindle版もあります。

やってはいけない不動産投資 (朝日新書)

やってはいけない不動産投資 (朝日新書)

内容(「BOOK」データベースより)
誰がどれだけワルなのか?腐りきった不動産業界のタブーに斬り込む!「投資に興味」と「老後の不安」があるなら、次に狙われるのはアナタの番だ―。エリートをハメて田舎のボロ物件で4000万円荒稼ぎ、水も出ない新築を買わせてそのままバックレる、やったモン勝ちの不正業者は高卒でも年収3000万円、営業スマイルという仮面で隠した「本性」を暴く!


 楽して儲かる話なんて、世の中にそうそう転がっているものではない、そんなことはみんな百も承知のはず、なのですが、給料は上がらないし、年金が出るかどうか不安で、子どもをアテにできる時代でもない、というのも現実です。

 興味を引くきっかけは、現役世代に共通する「将来不安」にある。
 バブル崩壊後から国の借金が膨らみ続け、延々と先送りされる”ツケ”を払うのは、いまの働き盛りとその子どもたちだ。長期安定政権のもとでも社会保障制度の改革はまったく進まず、現役世代が負わされる税と社会保障費の負担はますます重くなり、逃れることもできない。
 そこに巻き起こった”不動産投資ブーム”は、かつてのバブルとは本質的に異なる。不動産価格が上がり続ける”神話”が広まったわけでもなければ、金満な生活に憧れたわけでもない。
 ただ将来への備えを厚くし、安定した生活を長く維持したい。そんな切実な願望が、投資へと突き動かされる原動力となり、業者につけ込まれる隙にもなった。
 業者の暗躍を後押しするもう一つの要因が、2013年春に始まった日本銀行の大規模な金融緩和だ。
 日銀が巨額のお金を市場に注ぎ込み、金利を限界近くまで押し下げた。お金の貸出先がない銀行は融資審査の基準や手続きを緩め、不動産投資向けの”蛇口”をめいっぱい開け放った。
 そうした動向を、強欲な不動産業者が見逃すはずもない。
 金融緩和で銀行貸し出しが緩んだ今こそ「絶好のチャンス!」と客に思わせ、多額のお金を銀行から借りさせるように仕向ける。実績を伸ばすことに必死な銀行は、後で詳述するように、業者がちょっとした細工(=不正行為)を加えることで、物件価格を大きく上回る金額を貸してくれる。ただでさえ高額な価格はさらにつり上げられ、一度の取引で数千万円を抜き取る荒稼ぎが横行するようになった。

 これからどんどん人口が減っていく日本では、空き家が増えていく一方だし、いまは、オリンピック需要で建設費は高騰しています。
 そんな時期の不動産投資はリスクが高そうなのですが、僕と同じくらいの30~50代のそこそこ稼いでいるサラリーマンが、この手の「おいしい投資話」に引っかかっているというのを読んで、愕然としてしまいました。
 そこそこ給料はもらえているのだけれど、支出が多く、子どもの教育費や自分の老後の生活が不安、とりあえず仕事はそれなりにやってきたけれど、経済や社会のことにはあまり詳しくない、という人たちが「ターゲット」にされているというのは、わかるような気がします。

 それにしても、不動産投資というのが、ここまで「やったもの勝ち」の、とんでもない状況になっているということに、読んでいて愕然とさせられました。
 そして、金利が下がり、貸す相手がいなくなり、ネットの普及で余剰人員を抱えるようになった地銀にも、カードローンや不動産投資に力を入れるところが多くなっているのです。
 スルガ銀行の一連の不祥事は、まさにその典型的な事例でした。


fujipon.hatenadiary.com

(『地銀波乱』より)

「数字ができないなら、ビルから飛び降りろ」「おまえの家族皆殺しにしてやる」「死ね」
 スルガ銀行の第三者委員会がまとめて報告書には、生々しいパワハラの実例が記されていた。
 営業は苛烈なノルマやパワハラが横行する異常な職場で、上司の暴力や脅迫が常態化。傷害などの犯罪行為にもなりかねない過酷な事例が並んだ。
「死んでも頑張りますと答えたら、それなら死んでみろと叱責された」。こんな証言を行員にさせるような異常な職場になぜなったか。
 営業ノルマを厳しいと感じたことはあるか――。第三者委員がスルガ銀行のすべての行員を対象にしたアンケート調査で「はい」と答えたのは約40%、投資用不動産への融資などの営業を担当した行員に絞ると、回答者は約87%に達した。およそ10人に9人が苛烈なノルマを感じていた計算になり、営業現場の異常さが浮かび上がる。


 2018年に問題となったスルガ銀行は、個人向けの不動産ローンで業績を伸ばしているようにみえていたのですが、内実は、契約数を増やすためのデータの改ざんや上司からのパワハラなど、とんでもない状態でした。

 長続きしないことを知りながら、「家賃保証」をうたって安心させる。「自己資金ゼロ」というセールストークも、物件が法外に高額であることを隠し、リスクの大きさから目をそむけるためのウソに過ぎない。「高利回り」だと教える数字は、賃貸契約書を偽造してでっち上げる。契約した直後から多額の修繕費をむしり取るなど、隠されたコストを後出しするケースも多い。
 プライドの高いエリートにはとことん下手に出ておだて上げ、気分を高揚させて契約にこぎつける。気が弱く優柔不断な人を見つけたらもうけもの、逃げ場のない袋小路へ容赦なく追い込み、最後は脅すようにして判をつかせることも厭わない。


 銀行や業者は、うまくいかなかった場合も「契約内容の変更」を求めてきたり、失敗する可能性も契約書に記載されていたりして、うまく逃げられるようになっているのです。
 ところが、言いくるめられて、莫大な借金を背負ってしまった個人は、「自己責任」として、徹底的に追い詰められてしまう仕組みなんですよね。
 著者は、「家賃保証」とかいう条件をつけなければ売れないような物件がどんなものなのか、考えてみたほうがいい、と仰っていますが、本当にその通りだと思います。

 割高な物件をつかまされた寺島さんは、O氏の10年来の「カモ」だった。
「節税メリットがあります」「保険代わりにもなりますよ」「先輩の先生もやってますから」
 O氏がまだ大手マンション販売会社で働きながら、医科大学の卒業者名簿をもとに営業電話をかけまくっていたときに引っかけたのが、医師になってまだ間もない寺島さんだった。
「先生の年収なら、あと1室買えば所得税を20万円は取り戻せますよ」
 いい加減な数字と営業トークで誘導し、数年のうちに新築ワンルームを五つも売りつけた。実際に戻ってきた所得税の還付金はO氏が言うほど多くなく、それ以上に赤字は大きかったため、電話が来れば愚痴ばかりこぼれたが、確定申告の手続きをO氏に任せていた関係もあって、付き合いは何となく続いていた。
 O氏が独立し、中古1棟マンションを扱うようになり、ふと浮かんだのが寺島さんの顔だ。寺島さんは30代になって年収は800万円台になっていたが、借金はまだ1億円近くが積み上がっていた。O氏は軽い口調で振り返る。
「借金でぱんぱんやったから、さすがにもうムリやろって思ったけど、販売会社の元同僚から『スルガ銀行が医師ならカネを貸せると言っている』と聞いて、試してみようと思ったんです。若い頃に買ってくれたお客さんやから、喰いモノにしようとか、どうにでもなれとか、そういう気持ちはなかったですけどねぇ、へへへ」
 寺島さんは久しぶりにO氏から連絡を受け、問題の中古1棟マンションを勧められる。O氏の言うことは信用できない、との思いはあったのに、新たに示された物件が「毎月20万円、いいときで30万円のプラス収入がある」と聞かされて興味をひかれた。空室は「M社が家賃の8割を保証する」と言われたことにも背中を押され、買うことを決めたという。


 当直をしているときにかかってくる、「マンション買いませんか」の電話にうんざりしている医者は多いはずです。
「電話一本でマンションとか買うやついるわけねーだろ、バッカじゃねーの」と電話をすぐに切ったあと悪態をついていたのですが、実際に買う人がいるからこそ、あれがずっと続いているんですね……
 この寺島さんという人は、買った物件を自分で見に行ったこともなく、契約内容もよく把握していなかったそうで、「売るほうも売るほうだが、買うほうも買うほうだな……」と嘆息せずにはいられません。
 
 あと、「借金して投資で稼ごうというのは基本的に無理」というのは、知っておいて損はないかと。
 1億円の不動産を自己資金なし、年利4.5%で借りて運用しようとすれば、利子だけで年間450万円になるのです。
 不動産会社が「家賃収入で、年利7%になりますよ」と言っても、マンションやアパートはどんどん古くなって修繕が必要になってくるし、入居者が順調にいる保障はありません。「家賃保証」も、3年間限定で、あとは状況に応じて、とか、「借り手がいないので、条件を下げられる」などの事例が多発しています。

 いやしかし、ひどいだろうと思って読み始めたものの、これは、予想以上にひどいな。

 もし、今、不動産投資を本気で考えている人がいたら、まず、この本を読んでみることをおすすめします。
 「将来が不安」だからといって、安易に不動産投資で稼ごうとすれば、「将来に絶望」することになりかねないから。


2020年マンション大崩壊 (文春新書)

2020年マンション大崩壊 (文春新書)

地銀波乱

地銀波乱

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