琥珀色の戯言

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【読書感想】異端のすすめ 強みを武器にする生き方 ☆☆☆☆

異端のすすめ 強みを武器にする生き方 (SB新書)

異端のすすめ 強みを武器にする生き方 (SB新書)


Kindle版もあります。

内容紹介
橋下徹が贈る、決して後悔しない生き方のすすめ!


変化の激しい現代社会。

組織の構成員としての生き方よりも、ますます個人としての生き方が問われている中で、
いかにして「自分にしかない強み」を武器にし、突き抜けた人になるかが、人生を大きく左右する。

挑戦を続け、自分自身が燃焼し尽した感を持てるような「納得できる人生」を生きるにはどうすべきか?
橋下徹が贈る、決して後悔しない生き方のすすめ。


 橋下徹さんのように生きてみたい人には、すごく参考になる本ではなかろうか。
 そう思いながら読んでいたのですが、「まあ、こういう生き方は、僕には向いていないよなあ」という結論に達してしまったのです。
 というか、橋下さんのような生き方をする人は、むしろ、「そういうふうにしか生きられない人」なのではなかろうか。
 ただ、「やりたいことがあって、身を粉にして働く情熱もあるのだけれど、どうしたら良いのかわからない」という人にとっては、けっこう参考になるところがあるはずです。

 会社組織に属する身として、取引先と丁々発止のやりとりをしなくてはいけないときは、多少ははったりが必要な場合もあります。しかし個人としての商品価値を考える上では、分相応なウリが必要なのです。

 経験不足なら経験不足なり、実力不足なら実力不足なりに、ウリにできるものがあるはずです。

 たとえば僕の場合、駆け出しの弁護士だった頃にウリにしていたのは「スピード」でした。
 20代後半の若手弁護士ですから、得意分野を打ち出そうにも、まだ自分に対する信用は確立されていません。信用という点では10年選手、20年選手の中堅・ベテラン弁護士には敵うべくもない。だとしたら何がウリになるかと考えた末に、当時思い当たったのが、免許制の職業である弁護士はどこか殿様商売的なところがあり、全体としてあまり仕事が素早くないということから、スピードを重視しようとしうことでした。
 経験が浅いというマイナス要素を乗り越えるには、おそらく「料金を下げる」というのが最も簡単な方法でしょう。しかし、「安い代わりに質は低い」と公言し、経験が浅いことを言い訳にしているようで、それをウリにする選択肢は取りたくありませんでした。
 名刺交換の際、大半の人は弁護士と聞くと「何が専門ですか?」と尋ねてきますが、僕は「特定の専門というより、スピードです」と、ひたすら「スピードがウリの弁護士」であることをアピールしました。

 僕が弁護士として働き始めたばかりの頃には、「スピードがウリの弁護士」というからには、その点で「こんな程度か、たいしたことないな」と思われるのだけは絶対に避けなくてはいけない。だから依頼に対しては、「超」スピード対応をしていました。
 弁護士の依頼者は、いうまでもありませんが、何らかのトラブルに巻き込まれています。となれば一刻も早く弁護士に相談したいはずです。しかし当時は、まず依頼者が弁護士と面談するまでに1~2週間かかっていました。しかもやっと弁護士に相談できたとしても、トラブルの相手にアクションを取ってもらうまでにまた数週間かかる。その間に依頼者がトラブルの相手から執拗な要求を受けることも多々あります。最終的に裁判を起こそうとなっても、さらに数か月かかるというのがざらでした。
 
 そこで僕は、依頼者から相談があれば、できる限りその日中に話を聞きました。当時、弁護士は面談して相談を受けるのが普通だった中、僕は電話で相談を受けていました。そして相手方には、相談を受けたその日のうちにこちらの主張を伝える書面を送るようにし、相手の電話番号がわかれば、その日のうちに相手に電話で連絡を取るなど、アクションを起こしました。連絡が取れたらその日のうちに相手と面談することもありました。場合によっては、依頼された当日に、示談交渉でトラブルを解決したということもありました。
 これくらい他の弁護士と異なるスピード感を示して、やっと「スピード」というものが自分のウリとなります。
 この程度のスピード感は、今では一般的なことかもしれませんが、約20年前はそうではなかった。ここに僕は自分のウリを設定したわけです。


 橋下さんは「弁護士とは、こういう仕事のしかたをするものだ」という周囲の常識にとらわれずに、「スピード処理」を進めていき、それをセールスポイントにしていったのです。
 「士業」というのは殿様商売になりがちなので「まだ相談を受けたばかりだから」と思いがちなのですが、顧客にとっては、さんざん悩んだり困ったしりした末に、ようやく弁護士に相談することに決めたわけで、相談した時点で、かなり追いつめられている状況なんですよね。そういう「意識の差」を、橋下さんの「スピード」は埋めることに成功し、信頼を得ることができたのです。
 こういうのは、病院の医者の対応にも言えるよなあ、と考えさせられました。もちろん、スピードばかり速くて判断ミスだらけではどうしようもないのですが、実際は「やればすぐにできるのに『面倒だから』『この仕事は、しばらく時間がかかるのが当然だから』と先送りにしてしまう」ということもありがちです。
 ただ、橋下さんは自分で弁護士事務所を設立したときに、自分と同じやり方を2人の若手に求めたら、すぐに辞めてしまった、とも述懐されているのです。
 こういうことができるのは、やはり「異端」というか「破格」の人だから、でもあるのでしょう。
 それでも、ある種のワーカホリックなまでの勤勉さがあれば、専門性や実績がなくても、他者と差別化できるところはあるのです。
 
 橋下さんは、他の章で、「ただし、一度ウリになったことが、永続的にウリになるということはありません」とも仰っています。
 一度うまくいったやり方にこだわりすぎたせいで、時代に取り残されてしまう人というのも、かなり多いのです。


 橋下さんは、後悔しない人生を送るためには、「とにかく行動してみること、チャレンジすること」が重要なのだ、と何度も訴えています。

 1997年のある日、僕は突然、高校のラグビー部の先輩だった人から電話連絡を受けました。
 先輩は大学卒業後に放送局に勤め、当時ラジオのディレクターになっていたのですが、その電話は、「担当している深夜番組に出演予定だった弁護士が、急に出られなくなってしまった。橋下、ピンチヒッターで出てもらえないか」という打診でした。
「生放送だから、とにかく弁護士にその場に座ってもらうことが必要なんや。すごいことを話してくれなくていい。ただ席に座って、パーソナリティの振りに答えてくれるだけでいいから、とにかく来てほしい」
 そう言われて、僕は、いきなり生放送でしゃべることができるだろうか、と一瞬迷いましたが、これまでやったことのないチャレンジをやってみよう、という選択をしました。
 テーマは、神戸連続児童殺傷事件だといいます。その事件の犯人が14歳の少年だったことがわかり、世間に激震が走っていた頃のことでした。その日の番組は、少年法などについて見解を聞くために、わざわざその道に詳しい弁護士をキャスティングしていたそうですが、それが急に出演不可となってしまったのですから、先輩が焦るのも無理はありません。
 生放送の当日に連絡を受けたので、準備も何もありません。でも僕は、そのときにチャレンジの選択をし、そのことが結局、僕の人生のすべてを決めることになったのです。
 出演するとなれば、あとは手を抜かずに全力で取り組むことです。
 僕には、少年犯罪について自分なりの意見がありました。当時は、世間でも弁護士の世界でも、少年犯罪に関しては「未成年者である加害者を守れ!」という論調が圧倒的多数でした。でも僕は、未成年者だろうと凶悪犯罪を起こした人間は厳罰に処すべきであり、場合によっては死刑もありうるというのが持論。そこで当日のラジオ生放送では、その持論をはっきり述べることに力を入れました。


 このピンチヒッターでのラジオ出演がきっかけで、「面白い弁護士がいる」ということで、橋下さんはメディアに進出していくことになったのです。
 その機会を「先輩の頼みだから」と無難にやり過ごすのではなくて、持論をぶつけていったことで、道が開けた。
 もちろん、「未成年の加害者をどう処するか」というのは難しい問題であり、橋下さんの主張が正しいかどうかはなんとも言えないのですが、ほとんどの弁護士が、「無難な態度」であったのに対して、橋下さんは、しっかり自分の意見を述べています。
 この本のなかで、橋下さんは何度も、情報をただ集めるだけではなく、その情報を下敷きにして「自分の意見=持論を持つこと」の重要性を指摘しているのです。


 僕は橋下さんのファンではありません。というか、苦手なタイプの人で、もし橋下さんが僕の上司だったら、(やる気のない僕は)職場がつらいだろうな、なんて思うくらいです。
 でも、ここで橋下さんが語っていることが役に立つ人は、少なからずいるはずです。
 とくに、「何者かになりたいけれど、『何者』についての具体的なイメージを持たない若者たち」は、読んでみることをおすすめします。
 すべて準備が整ってから「勝負」しようと思っていたら、人生、いつのまにか終わってしまうから。


fujipon.hatenadiary.com

実行力 結果を出す「仕組み」の作りかた (PHP新書)

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橋下徹の問題解決の授業―大炎上知事編

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  • 作者:橋下 徹
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2017/12/01
  • メディア: Kindle
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