琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】トランピストはマスクをしない コロナとデモでカオスのアメリカ現地報告 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
コロナに負けても負けは認めん!米国史上最大の危機を現場からレポート!澤井健の爆笑イラストも完全収録。特別付録アメリカの闇を撃つ傑作映画10本。


 町山智浩さんの映画の話とアメリカ現地レポートにハズレなし、というのが僕の実感なのです。今回も安定の面白さ。
 とはいえ、ドナルド・トランプ大統領のキャラクターがあまりに強すぎ、影響力が大きすぎるためか、トランプ大統領就任以来、ずっと「トランプネタ」ばかりになっていて、読む側としては食傷気味ではあるのです。
 たしかに、トランプ大統領のやっていることは無茶苦茶だし、アメリカで暮らしている人たちにとっては死活問題なんでしょうけどね。
 僕自身は、「あんな人が大統領になっても、それなりに秩序が保たれているアメリカというシステムの堅牢さ」も感じていたのです。
 ただ、今回は新型コロナウイルスという大きな問題が世界を覆っているなかでのトランプ大統領のさまざまな問題行動が出てくるのです。
 平時であれば、大統領が暴走しようとしてもなんとかブレーキをかけられるけれど、新型コロナの流行のような非常事態になると、どうしても「大統領の対応能力」が問われます。

 マスクの政治的イデオロギーについて、コーネル大学のトム・ぺピンスキー教授らが2400人のアメリカ人にアンケートを取った結果によれば、民主党支持者の75%がマスクをつけると答え、共和党支持者は53%だった。
 (2020年)5月5日、トランプはアリゾナのマスク工場を視察した。もちろんマスクしないで。政府の発注でマスク作ってる現場なのに!
 トランプのアリゾナのマスク工場視察はテレビで全米に報道されたが、工場のスピーカーから大音量で流れていたのは、なぜかポール・マッカートニーが歌った『007 死ぬのは奴らだ』の主題歌だった。その原題Live and let dieはLive and let live(共存共栄)に対する皮肉で「自分は生きるが、他の奴らは勝手に死ね」という意味。
 工場の周りには熱烈なトランプ支持者が集まっていた。彼らに地元紙アリゾナ・リバブリックの記者ブリアンナ・フランクがインタビューしようとして、罵声を浴びせられた。彼女はマスクをしていたからだ。
「マスクするほど怖いのか!」「マスクは服従だ!」「自分の口をふさいでいるぞ!」「臆病者め!」
 しかし、政府の勧告どおりにマスクすると政府に屈していると大統領の支持者に攻撃されるって、もうわけわからん。
 5月1日、ついにマスクで死者が出た。
 マスク着用が義務付けられているミシガン州フリントで、食料品店にマスクなしで入ろうとした少女の母親を、警備員が咎めて、帰らせた。家に帰った女性は夫と息子を連れて戻ってきた。「うちの妻に恥をかかせやがって!」息子が拳銃で警備員の後頭部を撃ち抜いた。

 (2020年)5月23、24日はメモリアル・デー(戦没者追悼の日)の連休で、トランプ大統領バージニアにゴルフに出かけた。
 アメリカの新型コロナによる死者は10万人を超えようとしていた。その数は朝鮮戦争ベトナム戦争の戦死者の合計を上回る。
「国が疾病に直面してるのに大統領がゴルフなんて信じられない!」
 そうツイートしたのは誰あろう、トランプ本人だ。2014年、エボラウイルス感染者がアメリカで発見された時、当時のオバマ大統領がゴルフに行ったことを責めた。トランプがオバマのゴルフを批判した数は27回に及ぶ。いつだって自分だけは特別と思っているトランプは相変わらずマスクなしてゴルフを楽しんだ。


 日本の「自粛警察」のふるまいに、こういう同調圧力がある国って怖いよなあ、とか思っていたのですが、マスクをする、しないで人々の意見がここまで真っ二つに割れ、しかも、大統領がその分断を煽っている、というアメリカは、日本より、もっと感染予防が難しい状況だったのです。
 遺伝子型による新型コロナへの耐性の強さの違いなどの説もあるようですが、日本の「自粛警察」は、感染予防に対しては、たしかに功を奏していた面もありそうです。
 最近、トランプ大統領新型コロナウイルスへの感染が発表され、数日間入院していましたが、そうそうに復帰し、車で支持者に姿を見せるパフォーマンスも行っています。
 でも、トランプ大統領随行していた人は濃厚接触者となり、感染のリスクを負い、しばらく隔離されるのですから、たしかに「自分は生きるが、他の奴らは勝手に死ね」って感じですよね。
 そもそも、トランプ大統領は、あれだけマスクをしないで大勢の人前に出ているのですから、よく今まで感染しなかったよなあ。

 正直、僕みたいに、この4年間で「トランプ慣れ」してしまい、「誰がなっても似たようなものなのだから、話題を提供してくれる人のほうが面白くて良いんじゃない?」なんて、つい考えてしまう人も増えていたと思うのです。
 町山さんもこれだけトランプネタを書き続けてきたのだから、もっとまともな人が大統領になったら、ネタに困るんじゃない?とか、考えてもいたんですよ。
 
 ところが、この大統領選前に起こった新型コロナ禍で、トランプ大統領の「問題点」があらためて浮き彫りにされ、大統領への支持が揺らいできているのです。
 とはいえ、対抗馬の民主党ジョー・バイデン氏は、トランプ大統領よりも高齢で、政策的にも増税社会保障医療保険の拡充を打ち出してはいるものの、あまり大きな改革をやりそうなタイプではありません(だからこそ予備選挙に勝てた、というのも事実です)。
 果たして「トランプ大統領」は再選されるのか?
 アメリカには、もっと行動力も倫理観もある政治家が少なからずいそうなのにねえ……

 英語辞書の老舗メリヤム・ウェブスターが、毎年暮れに発表するワード・オブ・ジ・イヤー(今年の言葉)、2019年はTheyだった。
「ゼイ」って、「彼ら」? なんでそんな普通の言葉が? と不思議に思う人も多いだろう。
「今年の言葉」は日本のように審査員が選ぶいい加減なものじゃなくて、ウェブスターのオンライン辞書で、もっとも検索数が多かった言葉だ。この辞書には全世界からアクセスできるだが、それにしてもなんで世界中の人々が今さらTheyなんか検索したのか?
 まず4月、連邦議会LGBTの雇用や生活の平等を守る法案(平等法)が審議された。ワシントン州のパラミラ・ジャイアパル下院議員が「私は22歳の、男女に分けられない我が子のためにこの法案を実現したいのです」と涙ながらに訴えた。その際、彼女は我が子をTheyと呼んだ。ひとりしかいないのに。この場合のTheyは「彼ら」または「彼女ら」ではなく、「Non-binary(男女に分けられない)三人称単数の代名詞」を意味する。
 最近、アメリカでは、さまざまな申し込み手続きで性別の欄がMale(男性)、Female(女性)の他にNon-binary(男女に分けられない)という選択肢になっていることが多い。
 これはいろいろ複雑で、男性が好きな男性には、自分のアイデンティティが男性の人もいれば、体は男性でもアイデンティティが女性の人もいる。さらに、どちらでもない人、または、どちらでもある人もいる。
 体が男だろうと女だろうと、自分は男性だと思っている人はHe(彼)と呼ばれるべきだし、体が男であろうと女だろうと、自分は女性だと思っている人はShe(彼女)と呼ばれるべきだが、では、どちらでもない or どちらでもある人をなんと呼べばいいのか?
 10年以上前から、その代名詞をどうするか、論じられてきた。
 HeとSheの間ということで、E(イー)とかEy(イー)とか、Ze(ジー)とかZie(ジー)とか、いろんな呼び方が検討されてきたが、Theyが有力になっていった。Theyは今年、何度も話題になり、その度に検索数が跳ね上がった。


 アメリカでは、ここまで性的マイノリティに対する議論が行われているのです。
 正直、「ここまで細分化されてくると、もう何がなんだか……」とも感じますし、「では、体が男性でアイデンティティが女性の場合、温泉では男女どちらの浴場に入ったら良いのだろう?とか、考えてしまうのです。
 こういう議論が行われている一方で、アメリカの田舎では、「リベラルの連中は、われわれが仕事がなくて困っているのに、トイレの話(性的マイノリティは、どちらのトイレを使うべきか)ばかりしている」と嘆いている人も大勢いて、彼らがトランプ大統領を支持してきた、という現実もあるのです。

 マイノリティを尊重する、多様化を重視する、と言うのは簡単だけれど、すべてのマイノリティに対応したトイレをあらゆる場所に作ることは、現実的ではないでしょう。

 今回も、「アメリカという国の良心と歪み」が生活者の実感をもとに書かれている本だと思います。
 ただ、その「生活者の実感」というのも、アメリカという同じ国にいても、住んでいる地域や置かれた立場によって、全然違うのだろうなあ。


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