琥珀色の戯言

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【映画感想】ブレット・トレイン ☆☆☆☆

あらすじ・解説
あるブリーフケースを盗むよう謎の女性から指令を受け、東京発京都行の高速列車に乗り込んだ殺し屋・レディバグ(ブラッド・ピット)。ブリーフケースを奪って降りるだけの簡単な任務のはずだったが、疾走する車内で次々に殺し屋たちと遭遇してしまう。襲い掛かってくる彼らと訳も分からぬまま死闘を繰り広げる中、次第に殺し屋たちとの過去の因縁が浮かび上がってくる。


www.bullettrain-movie.jp


 2022年17作目の映画館での鑑賞です。
 公開から2週間経った、平日の夕方からの回で、観客は10人くらい。
 原作というか、原案となった伊坂幸太郎さんの『マリアビートル』は、たしか読んでいたはずだし、『きかんしゃトーマス』ネタも記憶にあるのだけれど、ストーリーは全然覚えていないな……


 やっぱり『マリアビートル』は読んでいたのですが、もう12年前なのか……この作品と楽しむには、原作との「違い」を徹底的に楽しむか、ネタバレを極力排除して、次から次へと事件が起こる、ジェットコースター・ムービーに身を任せるか、の両極のいずれかが望ましいのではないかと思います。
 中途半端にネタバレをしていると面白くないので、興味がある人は、映画を先に観て、それから伊坂さんの小説の会話の妙、みたいなものを味わうのが僕のおすすめです。
 というか、どのくらい原作に忠実なのかは、原作の詳細をすっかり忘れてしまっていたのでわからないんですが。
 伊坂さんも映画の公式サイトの原作者コメントのなかで「何この日本!?と驚きつつ」と書いておられますが、どこまでわざとなのかわからない「西洋人がこういうものだと思い込んでいる日本」が舞台になっています。
 そのわりには、新幹線(ブレット・トレイン)の停車駅の名前は路線図通りですし(だからといって、本物の駅でロケをやっているわけでもないし、列車も架空のもの)、これを「日本が舞台」と言っていいのだろうか……とは思うんですよ。いかにも作り物の富士山が出てくるのをみると、「日本をモチーフにしてはいるけれど、あんまり深刻に『実際の日本はこんなんじゃない!』とか怒らないでね」っていうことなのでしょう。
 個人的には、最近のハリウッド映画って、興行収入的な影響力もあって、どうしても中国寄りになりがちなので、久しぶりに、日本モチーフの怪しいそれなりの大作映画、というだけで、ちょっと嬉しくもあるんですよね。日本人の俳優さんも出ているし。

 端的に言うと、ブラッド・ピットさんを観ているだけで幸せ、という人か、タランティーノ監督の『キル・ビル』をニヤニヤしながら観ることができる人向け、という感じです。
 『キル・ビル』から、情念とマニアックなこだわりを引いて、次から次へといろんなことが起こるようにして、ブラッド・ピットを主演に据えたのが、『ブレット・トレイン』。
 いや、「タランティーノっぽくない『キル・ビル』に果たして観るべきものがあるのか、という疑念に駆られるのはよくわかります。

 僕自身は9月に入ってから、やることなすこと裏目裏目という状態で、精神的にもかなりまいっていてイライラしていました。
 少しでも日常を離れて、気分を変えるきっかけになれば、ということで、この『ブレット・トレイン』を観たのです。
 この映画、そんな精神状態の僕には、まさにうってつけだったのです。
 まったく教育的でも教条的でも、社会の矛盾を告発することもなく、登場人物が派手に暴れまくり、動く列車のなかで、次から次へといろんなことが起こって飽きさせない。
 この「変な日本」をはじめとして、ツッコミどころはたくさんあるのですが、世界観の作りこみも含めて、「なんかちょうどいいくらいにゆるい」のです。
 
 昔、中島らもさんが劇団を主宰されていたときに理想だと仰っていた「観ているときは笑いが絶えなくて夢中になるけれど、観終えたらどんな内容だったのかすぐに忘れてしまう、そんな作品」なんですよね、これ。
 すみません、「笑いが絶えない」というレベルじゃないんですが、「なんか浮世を忘れられる非日常感」を味わえる2時間。

 個人的に、こういう移動する閉鎖空間(乗り物)の中でのアクションやミステリは好きですし、「人情ドラマ系」の伊坂作品は日本でたくさん映画化されている一方で、エンターテインメントに振り切った「殺し屋集結もの」の映像化は少ないんですよね(『グラスホッパー』がありました)。
 原作は欧米では未翻訳だったそうで、それを「小説を売り込むために、映像化を目指して、ハリウッドに原作(原案)を持ち込んだ」ことがきっかけという記事も見ました。


www.asahi.com


 正直、配信とかDVDで観ても良さそうな映画ではあるのですが、「映画館という邪魔が入らない空間で観ると、気分転換、あるいはこんがらがりすぎた現実の一時停止にもってこいの作品」だと思います。

 12年ぶりに、『マリアビートル』を読み返してみようかな(この「本の感想」も、映画を観るつもりの人は、映画鑑賞後に読むことをおすすめします。先入観や「リアルな日本」へのこだわりが無いほうが楽しめると思うので(ちなみにそこそこ残酷なシーンがあって、R-15指定です)。


fujipon.hatenadiary.com
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