琥珀色の戯言

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【映画感想】ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー ☆☆☆☆

あらすじ
アフリカの秘境にあるワカンダ国には、平和な日々が訪れたかに思われた。だが、若き国王ティ・チャラを失ったワカンダである事件が起きる。遺(のこ)されたティ・チャラの妹シュリ(レティーシャ・ライト)、母親ラモンダ(アンジェラ・バセット)、国王親衛隊を率いる女性戦士オコエ(ダナイ・グリラ)らの前に、新たな脅威が現れる。


marvel.disney.co.jp



 2022年21作目。
 公開から2週間経った平日の昼下がりに観ました。
 観客は10人くらい。

 ほとんどの映画館が新海誠監督の『すずめの戸締まり』推しになっていて、この『ブラックパンサー』の新作は完全に陰に隠れてしまった感じがします。
 あと1週早く日本で公開されていれば……なんて思うんですけどね……

 2020年8月28日、ティ・チャラ(ブラックパンサー)役で主演していたチャドウィック・ボーズマンが43歳で亡くなりました。
 テイ・チャラがいない『ブラックパンサー』って、いったいどうなるんだ?というのと、160分って、上映時間長いなあ、っていうのと。

 20代では、上映時間が長い映画は、料金が一緒なら得した気分だったのですが、年齢とともに、途中でトイレに行きたくならないかなあと不安になり、最近は、配信されてから、家で観ればいいかなあ、なんて思うことも多くなりました。

 160分、そんなに飽きずに観られる映画ではあるのですが、正直、最近のマーベル作品って、僕にはちょっと上映時間が長く感じることが多いのです。
アベンジャーズ』のような「集大成的な作品」は、長くなるのもしょうがないな、とは思うのですが。
 ただ、これを書くためにいろいろ検索していたら、『ブラックパンサー』の前作って、アカデミー作品賞にもノミネートされ、作品の評価も高く、興行収入もかなり大きかったのです。

 日本では『ブラックパンサー』って、「マーベルの(『アイアンマン』や『スパイダーマン』に比べるとややマイナーな)一作品」なのだけれど、アメリカの映画界にとっては、『アベンジャーズ』に近いくらいの期待の超大作だったみたいです。

 この『ワカンダ・フォーエバー』は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降のマーベルのヒーロー映画「フェーズ4」の最終作とされています。
 2025年に、ヒーローたちが集結する二部作「アベンジャーズ ザ・カン・ダイナスティ」「アベンジャーズ シークレット・ウォーズ」(ともに原題)が公開される予定なのだとか。

 正直、『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』のときのヒーローたちに比べると、「うーん、「フェーズ4」で印象に残っているのは『スパイダーマン』くらいかな……たぶん観るけど、これまでの『アベンジャーズ』を超えるのは難しそう」ではあるのです。
 でもまあ、『スター・ウォーズ』にしても、「続くことが大事で、続いていれば、それなりにお客さんは来てくれる」し、それこそが安定した経営にとっては大事なのかな。

 すみません、ダラダラとこの映画の「現実的な背景」みたいなものを書いてしまいました。

 この『ワカンダ・フォーエバー』、娯楽映画としては、けっこうよくできています。
 これだけ、ワカンダという国とその文化や、今回敵となる国の「世界設定とその映像化」に力を入れているのは本当にすごい。
 『アバター』の新作は「海」が舞台になるみたいですが、今のハリウッド映画は「水中を描く」ことがトレンドになっているのでしょうか。
 以前、人気絶頂だったケビン・コスナーが主演した『ウォーターワールド』が興行的に大失敗したこともあり、「海」を舞台にした映画は売れない(しかも予算がかかる)、と言われていたのですが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』がその「呪い」を打ち破ったとされています。
 この『ワカンダ・フォーエバー』も、制作側は、この水中都市を描きたくてこの映画をつくったのではないか?とも感じるシーンがありました。

 ティ・チャラ王(=チャドウィック・ボーズマン)の喪失に対して、残された人々が、どう「その後」を生きていくのか。
 映画のストーリーとしては、そんなに奇抜なものではなくて、「おさまるべきところにおさまった」印象なのです。
 
 でも、「43歳という若さでのチャドウィック・ボーズマンの死」という現実を踏まえて観ると、なんだか登場人物とともに、いち観客としても、「大切な人の喪失とそこからの再生」を体験せざるをえないんですよね。

 ヒーロー映画の主人公を演じていた俳優が亡くなってしまったことで、『ブラックパンサー』というフィクションのストーリーが(たぶん)書き替えられることになりました。
 興行として考えれば、他の俳優を「ティ・チャラ王役」にして、予定されていた物語をそのまま進めていくこともできたはず。
 生きて、活躍している俳優を「降板」させるには、なんらかの理由が必要だし、ファンの反発も強そうです。
 でも、「病気で亡くなってしまった」のであれば、「出演できないのはしかたない」ですよね。

 「現実での俳優の死が、フィクションの世界でのヒーローの死につながった」のは、考えてみれば、きわめて異例です。
 
 そんななかで、「新たなブラックパンサー」は、「新しい時代」を感じさせる存在であるのと同時に、今回の敵役の唐突な登場もあって、「ヒーロー映画としては、ヒーローの存在感が薄い」という気はしました。
 そもそも、なんであの連中が「まずワカンダ」にケンカを売ってくるのかよくわからないし、ワカンダという国は、アフリカの部族社会的な慣習を大切にしつつ、世界唯一のテクノロジーを持った閉鎖的な超大国なのが「セールスポイント」だったのに。
 そのワカンダが、「既知の世界」のなかで、どう立ち回っていくのか、というのが、僕にとってはこのシリーズの「面白み」ではあったのです。
 こうして敵がどんどん強くなり、インフレ化していったら、『週刊少年ジャンプ』のマンガだよなあ(それが悪いことだというわけではないけれど)。

 この『ワカンダ・フォーエバー』に関しては、ティ・チャラ王(=チャドウィック・ボーズマン)を登場人物と観客がともに悼む、というだけで、もう十分ではあるのです。
 ただ、そういう感傷的な要素を外して考えると、「マーベルのヒーロー作品にも、ちょっと飽きてきた」気もします。

 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム 』は、僕にとっては素晴らしい映画だったのですが、あの作品も、「現実世界でのさまざまなしがらみや感傷をフィクションの世界に持ち込んで、観客を感動させていた」のです。


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 こういうふうに「現実と物語、フィクションの世界を融合させていくのが、マーベルの『マルチバース戦略』」なのかもしれませんが、僕個人としては、ずっとこういう作品が続くと、観る側も「予備知識」を求められるし、めんどくさくなるよなあ、とも思うようになりました。
スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム 』は、「この作品だけ、この作品だからこそ」だったし、『ワカンダ・フォーエバー』も、多くの人に愛された俳優の死が背景にあったからこそ、みんな共感せずにはいられなかった。

 現在のところ、「政治的に正しいことが、作品への評価や興行成績にもつながりやすいし、さまざまなリスク回避のためのも重要」なのは事実です。
 そして、現実と仮想空間の境界がどんどん曖昧になってきている世界では、「現実と融合した作品」が増えるのは当然でもあるのでしょう。

 それを頭では理解しているのだけれど、「2時間くらいで終わる、勧善懲悪のシンプルなヒーロー映画」が、なんだか恋しくなってきてもいるのです。


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