琥珀色の戯言

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【読書感想】知らないと恥をかく世界の大問題16 トランプの“首領モンロー主義時代” ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

古典的帝国主義 が世界を覆う!―― 強権国家の熾烈な縄張り争い

アメリカの「第2期トランプ政権」が、古典的帝国主義の再来を決定づけた。予測不可能なトランプの行動に振り回される世界。アメリカ・ロシア・中国――強権国の縄張り争いはますます熾烈になる。ジャングルのルールがまかり通る「弱肉強食の時代」で混沌とする世界。日本はどう対応していけばいいのか? 世界、そして日本が抱える大問題を、歴史的な背景を交えながらわかりやすく解説していく池上彰の人気新書「知ら恥」シリーズ最新第16弾。大転換の時代に必読のニュース解説本の登場。


この『知らないと恥をかく世界の大問題』も、これで16冊目なんですね。
毎年読んで、毎年同じようなことを書いているのですが、「ビジネスマンが飛行機での移動(あるいは、新幹線での東京ー新大阪)の時間で、ちょうど1冊読み切れて、現在の世界情勢の概略がわかるような新書、なのです。

一時は「知っていることばかり書いてある」ような気がしていたのですが、近年は「知っているつもりのこと」を、知識としてあらためて定着させてくれる新書として重宝しています。

最近は、新書も著者の個性、といえば聞こえが良いのですが、著者の偏った主張が信者向けに注釈ナシに語られているものが少なくないので、この池上彰さんのシリーズの「比較的新しい知識が、コンパクトにまとめられている新書」は、かえって新鮮にすら思えてくるのです。

この『16』のメインテーマは、なんといっても「トランプ大統領再選」です。
これを書いている2025年6月下旬の時点では、関税やイスラエルに協調してのイラン攻撃など、あまりにも先が読めず、言うこと、やることがコロコロ変わっていくことに、世界は「トランプ疲れ」を感じ、トランプ大統領が何を言っても以前ほどは大きく株価が動いたり、みんなが不安を表明したりしなくなりました。
どうせ、実際は「それなりのところ」で妥協するんだろう、と。

しかし、それが「気まぐれ」であったとしても、株価が下がって損をする人もいるし、イランではアメリカ軍の攻撃で命を落とした人も少なからず存在するわけで、これがあと3年くらい続くのか……」とウンザリしてしまいます。

それと同時に、僕自身も、政治に「既得権者の転落」や「予想外のこと」を期待してしまう面があって、トランプ政権が終わったら、安心するのと同時に「面白くなくなる」とも感じているのです。
自分の生活や命がかかっているのだから、面白いよりも平和で安定していたほうが良いはずなのですが……

 私がアメリカでトランプ支持者たちに、彼の暴言をどう思うかインタビューしたところ、「人間らしくていいじゃない」「あんなのはただのジョークだよ」という声が多く返ってきました。口ではきれいごとばかりで腹の中は何を考えているかわからない善人ぶったエリートより、上品ではないけど本音をズバズバ言うトランプのほうが”マシ”ということでしょうか。
 トランプ現象は何を意味するのか。『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』(会田弘継・著/東洋経済新報社)によると、「絶望している国(人々)がトランプを生んだのである」。幸福な国はトランプ氏を大統領に選んだりしないというのですね。元FOXニュースのキャスター、タッカー・カールソン氏が、その著書『Ship of Fools』で分析しているそうです。
 では、アメリカ人は何に絶望しているのか。それは、すさまじい格差です。
 ワシントンD.C.に本拠を置く左派系シンクタンク「Institute for Policy Studies(IPS)が、雑誌「フォーブス」が毎年発表する富豪リスト「フォーブス400」のデータ(2017年)をもとに発表したレポートによれば、総資産額でみたところ、アメリカで最も裕福な3人、ビル・ゲイツウォーレン・バフェットジェフ・ベゾスの資産の合計額が、アメリカの国民の下位50%(約1億6000万人)の資産合計額を超えるというのです。彼ら一部の大金持ちへの”富の集中”は新型コロナ以降、さらに加速しているようです。
 その一方で、アメリカは先進国で唯一、白人男性労働者の死亡率が上昇している国なのですね。死因は自殺や薬物過剰摂取、アルコール性肝疾患など。つまり「絶望死」による死者数が、1990年代末から顕著に増加しているというのです。


こんな世界なら、いっそのことぶっ壊してしまえ、という感覚は、僕にもあるのです。
いまの世の中は、インターネットやマスメディアの発達で、「ニュース」や「一般的な情報」は、ほとんどすべての人に届けられます。
そして、多くの人が「人間はみな平等である」という教育を受けてきました。
奴隷制度が「普通のこと」だった時代や、「自由に生きる」という概念が存在しなかった時代に生きてきた人たちは「格差」を「それが世界の摂理だ」と受け入れざるをえなかったのかもしれません。
でも、いまの時代は、みんな「理想」を植え付けられながら、厳然たる格差に直面しているのです。

「あれはジョークだよ」とか「人間らしくていい」とか、「聞き手が良い方向に解釈しなければならない発言ばかりしている指導者」をなぜ選ぶのか?と僕は思うのだけれど、「とんでもないことをする」からこそ、トランプ大統領を支持している人は、けっこう大勢いるのでしょう。
どうせつまらない人生なんだから、既得権者や自分にとっての「他人」が、堕ちていくところを見てみたい。
そこまで深刻な怨念ではなくて、「どうせ世界なんて変わりはしないのだから、面白いことを言って、やってくれそうな人を選んでしまえ」くらいの感覚なのかもしれませんが。

 また、これまで移民に寛容だったオランダでも、反移民を掲げる新右翼政党が台頭。北欧の国々も移民政策を大転換しています。スウェーデン政府は、自主的に帰国を決めた移民に対し、1人あたり最大35万クローナ(約500万円)を給付する新制度を発表しました。移民の出国を促すのが狙いで、2026年から実施します。「500万円あげるから帰って!」というわけです。
 長年、世界中から移民を受け入れてきた福祉国家スウェーデンですが、近年、ギャングによる銃撃や爆破などが増加。治安の悪化に国民が辟易しているのです。
「寛容さも限界」ということでしょうか。反移民勢力が勢いづくヨーロッパ。世界はどんどん不安定になっています。

 ウクライナ支援でも、ヨーロッパは結束できるのか。イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、フランスとイギリスが提案したウクライナへの停戦後の軍隊派遣について、「私の兵士は行かせない」と協力を断りました。


グローバル化」が進んでいく一方で、「自分(自国)ファースト」を公言することが許されるようになった世界は、どうなっていくのでしょうか。
日本のコンビニでも、若い外国人の店員さんをよく見かけるようになりました。ローソンは支援と労働者確保のため、留学生を積極的に採用している、というのを聞いたことがあるのですが、ローソンに限ったことではないようです。
「外国人が日本人の仕事を奪っている!」と問題になっているかというと、現状は日本人が同じ時給ではやりたがらない仕事をやってくれている、というような認識ではないでしょうか。
いまの日本は、サービス業の人手不足が深刻なのです。
彼らがいなければ、もう、日本のコンビニはこれまでと同じように営業するのは難しそう。

それでも、治安の悪化を理由に外国人排斥を叫んでいる人はネットで大勢みかけます。

スウェーデンの「帰国してくれれば、最大500万円!」という政策には、「お金を払ってでもいなくなってほしい」のか……と驚かされます。むしろ、お金をあげるだけ「福祉国家」なのだろうか……

これからの世界は「商品や情報はグローバル化、人は鎖国化」していくのかもしれません。
国籍よりも、同じ国のなかでも富裕層と貧困層の「断絶」のほうが大きい、とも言われています。

自国ファーストをお互いが貫こうとしたら、最後は戦争しかなくなりそうでもありますよね。
インターネットが普及しはじめたときには、これで発言者の属性や国籍にこだわらない、「先入観なしで正しいことは正しい、と認められる世界」が来るのではないか、と僕もけっこう期待していました。
ところが、2025年の現実では、アメリカの大統領の『X』での発言のひとつひとつに、世界中が振り回されています。

 このごろつくづく選挙制度は「国のかたち」を決めるものだと思います。
 日本は戦後長らく自由民主党自民党)政権が続いていたので、政権交代可能な2大政党制を目指そうと1996年に行われた衆議院選挙で小選挙区比例代表並立制を導入しました。
 小選挙区比例代表並立制とは、1選挙区につき最も得票数が多かった候補者が当選する「小選挙区制」と、得票数に応じて政党に議席が配分される「比例代表制」のハイブリッドです。
 アメリカは完全小選挙区制なのですね。よって「共和党」と「民主党」の2大政党制になっています。選挙戦を取材に行くと、支持者同士がののしり合い、大統領選挙期間中はテレビCMでも相手の悪口合戦です。お隣の韓国(大韓民国)でも、「国民の力」と「共に民主党」が徹底的に相手を潰そうとしています。
 これまでは2大政党制が理想だと思っていました。どちらかが失敗したら政権交代が起きる。こうして民主主義は鍛えられていくものだと。でも、考えを改めました。アメリカや韓国の選挙を見ていると、結局、2大政党制があらゆるところで対立と分断を生み出している実績があるのです。


2010年くらい、15年前に自分が予測していた「これからの世界」と今の現実が、あまりにも異なるものになっていること、そして、池上さんにとっても、この変化は「予測(あるいは期待)していたものではない」のだろうな、と思います。

池上さんほどさまざまな地域、立場の人を取材して、思考をめぐらしてきた人でも、「考えを改め」るほど、世界の未来は「思ったようにはいかない」ものみたいです。
だからこそ、このシリーズも毎年続いている。
「来年のことを言えば鬼が笑う」なんて言いますが、過去に生きた人たちもみんな「結局、先のことはわからないな……」と嘆息してきたのでしょうね。


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