琥珀色の戯言

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あの日からのマンガ ☆☆☆☆


あの日からのマンガ (ビームコミックス)

あの日からのマンガ (ビームコミックス)

内容紹介
緊急出版!
地震津波原発…「あの日」以降の日々を生きる日本に贈る、渾身のメッセージ。
「『たとえ間違えているとしても、今、描こう』と思いました」しりあがり寿

3.11…史上最悪の震災によって、すべてが変わってしまったあの日。
それ以来、しりあがり寿は、誰にも追いつけないスピードとヴィヴィッドさで、東日本大震災をテーマにしたマンガを描き続けている。
震災からわずかひと月後に掲載され、ネットや新聞・雑誌などに大きな反響を呼んだ月刊コミックビーム発表作を中心に、朝日新聞夕刊連載の4コマ『地球防衛家のヒトビト』など、未曾有の危機の時代に挑むように、アグレッシブに天才が発し続けたマンガ作品を集め、今だからこそ、緊急出版。

 「あれから、もう、1年も経ってしまった」のか、あるいは、「まだ、1年しか経っていない」のか。
 この本に収録されている、震災直後から描かれてきた作品を読んでいるうちに、僕はなんだか、不思議な気分になってきました。
 しりあがりさんは、「震災後の世界」を、「被災者の立場からみた悲劇」としては描いていません。
 あくまでも、「周辺にいる人」として、しりあがりさん自身から見えている世界と、そして、もっと俯瞰的に「大きな歴史のなかで、この震災の位置づけ」(として、しりあがりさんが考えていること)が描かれているのです。


 ここには、「感動的なエピソード」はありません。
 「大災害をすぐ傍で体験することになり、戸惑っている人たち」の姿は、描かれているのだけれど。


 そして、しりあがりさんは、「原発」にすら人格を与えて、「もし彼らに命があったら、今回の事故を、どう考えるだろうか?」と問いかけています。
 僕たちには、原子力エネルギーに「希望」や「期待」を持っていた時期が確実にあったし、そのために努力をしてきた人たちもいたはずです。
 それは、震災や事故が起こったとたんに「なかったこと」にしてしまったけれども。
 「絶対安全」なんてことはありえないし、「自分たちに制御できないような大きな力を『利用』するのは、あまりにもリスクが高すぎるのではないか?」と、いまの僕は考えているのですが、こんなことになるまでは、「まあ、とりあえずいま何も起こっていないのなら、いいんじゃない」と思っていたんだよなあ。
 そういう感情が自分にあったことも、覚えておいたほうが良いはず。


 災害の中心にいたわけではない僕にとっては、被災地のことそのものよりも、ここで、しりあがりさんが描いておられるような「震災に対して、世界はどう反応したのか」のほうが、2011年に起こったことの「個人的な記憶」に近いのです。


 「不謹慎」な描写だと責められることを厭わず、第三者の視点で描かれたこれらの作品は、「この時代に生まれた人間として、これからも生きていかざるをえない」ということを、なんだかすごくしみじみと僕に伝えてくれるような気がしています。


けっして、「面白い本」ではないけれど、ぜひ一度読んでみていただきたい一冊です。

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