諜報(ちょうほう)員の仕事から離れて、リタイア後の生活の場をジャマイカに移した007ことジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、平穏な毎日を過ごしていた。ある日、旧友のCIAエージェント、フェリックス・ライターが訪ねてくる。彼から誘拐された科学者の救出を頼まれたボンドは、そのミッションを引き受ける。
2021年、映画館での12作目です。
観客は30人くらいでした。
とりあえず、オープニングで、いつものテーマソングが(短いですが)流れて、こちらに向けて発砲するジェームズ・ボンド。
ああ、ダニエル・クレイグさんのボンドも今回で最後なんだな……と感慨深いのと同時に、とりあえず『スター・ウォーズ』と『007』は、このオープニングの「いつものやつ」を観るだけで8割くらい仕事は済んだな、という感じがします。
……とか思っていたら、冒頭からかなり派手なアクションシーンの連続で、これで164分って、新型コロナで待たせた分を全部詰め込んでしまったような上映時間ですよね。
飽きるんじゃないかと不安視してもいたのですが、観ながら時計が気になったのは1回だけでした。
まあ、僕はダニエル・クレイグさん大好きなので、彼のボンドを観ることができるだけでけっこう満足なんですが。
これまでの『ダニエル・ボンド』5作の総決算、ということで、いろんな人が出てきて飽きませんでした。
なかでも秀逸だったのは、キューバのCIAエージェント・パロマ役で登場したアナ・デ・アルマスさん。まだ新人エージェントなんですけど……と言いつつ凄い立ち回りっぷりとその美しさで、すっかり魅了されてしまいました。これが新人エージェントなんて嘘だろ、実はもっと重要な役割があるんじゃないか、どこで再登場してくるのだろう……まあ、それはネタバレなし、ということで。
大変面白い映画ではあるのですが、僕は、これまでの『ダニエル・ボンド』を復習してこなかったことに後悔しました。
2006年からの『007』シリーズ、『カジノ・ロワイヤル』『慰めの報酬』『スカイフォール』『スペクター』を、できれば全部予習して、それが難しければせめて『スペクター』は観ておく、最低限、復習サイトなどで内容くらいは確認しておいたほうが良いと思います。
そうじゃないと、「誰、これ?」っていう登場人物がたくさん出てくることになりますので。
これらの4作品も、それぞれ面白いし。
個人的には、『週刊少年ジャンプ』の長期連載マンガでありがちな「新シリーズになると、前のシリーズのボスキャラやライバルたちが新しい敵を際立たせるために弱く描かれてしまう」というのがこの『ノー・タイム・トゥ・ダイ』でもみられたのが、なんだか寂しかった。
そもそも、今回は、ダニエル・クレイグのボンドが「より人間的に」描かれている一方で、敵役が実力的にもキャラクター的にも、印象が薄いというか、「これがラスボス?」感がありました。やっぱりさ、ラスボスっていうのは、底知れぬ悪さと強さがあったほうが良いのではなかろうか。えっ、ハーゴンで終わり?っていう『ドラクエ2』みたいな感じ。
実際、身体を使ったスパイ映画がつくりにくい時代だとは思うんですよ。
いまや、「物質」よりも「データ」に対するテロリズムのほうが、世界に与える影響は大きいのではなかろうか。
この映画を観て、『007』なのに、『ダイ・ハード』みたいな話になっているな、と思ったのですが、その『ダイ・ハード』も、最新作では、ハッカーが活躍するストーリーでした。
そして、遺伝子情報の解析が進んでいく社会では、リュークの力を借りなくても、『DEATH NOTE』の夜神月と同じことができるようになりそうです。
そういう「悪・即・斬」みたいな世界が「正しい」のか?
その場合、誰が「有罪」を宣告するのか?
まあでも、現実問題として、「監視社会化」は進んでいるし、「悪いことをする人間でなければ、そのほうが生きやすい、低リスクなのではないか」と僕は考えてしまうことがあるのです。
ちょっと脱線してしまいましたが、これが「女王陛下の」007とはちょっと言いづらいし、ジェームズ・ボンドには、もっとうまく立ち回る方法があったのではないか、とは思ったんですよ。
もしかしたら、この映画は「伝統的なスパイ映画の終焉としての集大成」をめざしていて、その結果があのエンディングだったのかもしれません。
ボンドカーがネット経由でハッキングされてしまう時代に、ジェームズ・ボンドは必要なのか?
もちろん、「映画的には必要」だし、次のボンド(たぶん)が、どんな形で出てくるのか?という興味はあるんですけどね。
白土三平方式、なのか?
ボンドも「007というのは、単なる数字にすぎない」と言っていましたし。
僕の記憶にある最初のジェームズ・ボンドはロジャー・ムーアだったのですけど、いちばん好きなボンドはダニエル・クレイグでした。
ダニエル・ボンドが去ってしまうのは悲しいし、次のボンドと僕と、退場するのはどっちが早いか、という年齢になってしまったな、と感慨深くもあるのです。
さまざまな感傷的な要素はあるのですが、この『ノー・タイム・トゥ・ダイ』、164分飽きずに観られる稀有な娯楽映画だと思います。
観ていてニヤニヤできるシーンがたくさんあって、「作品のテーマ」が説教くさく語られることもない。
こういう映画をレイトショーで観て、ちょっといい一日だったな、と、すぐに寝てしまえる世の中が、こんなに貴重に感じられる日が来るなんて。
僕もまだ「ノー・タイム・トゥ・ダイ」だなあ(死亡フラグ)。
余談なのですが、このタイトルって、主題歌の日本語訳では「まだ死ぬべき時ではない」とされていましたが、僕の心には「オチオチ死んでもいられまへん」という言葉が浮かび続けていました。
昔、中島らもさんが、広告会社に勤めていたとき、「こんなええとこおまへんで!」ってキャッチコピーをつけていたんだよなあ、お墓のCMに(余談というより脱線)。
※個人的には、この『ドラゴン・タトゥーの女』のダニエル・クレイグさんがいちばん好きです。