琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

ハウルの動く城


以下は映画の感想です。例のごとく激しくネタバレなので、これから観る人は、読まないほうがいいです。


本当にネタバレだからね。


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 で、公開2日間で15億円の興行収入を叩き出した「ハウル」を今日観てきたので感想など。
 正直、観ている最中は、そのストーリーの破綻っぷりに違和感をずっと覚えていたのです。ソフィがあの店にこだわって「お父さんが大事にしていた」とか言っているわりには他の従業員からはあんまり大事にされてなさそうな様子とか、急に老婆になったにもかかわらず、意外と現実を素直に受け入れて「年とるっていうのも大変ねえ」とかリアリティのないセリフが出てくるところとか(半狂乱にとかなるんじゃないか普通)、どういえば、どうしてそのあと店を出てあのヤバそうな山のほうに行ったのか?とか、どうしてあの「呪い」ってやつは、「強力で複雑」なわりには、あんなにすぐにかかったり解けたりするのか、とか、ハウルは弱虫のわりには、どうしてあんなに積極的に戦争に首突っ込んだりするんだ?とか、そもそもどうして戦争しているんだ、とか、あの家の汚さは、依存症チックなのだろうか、とか、ソフィは荒地の魔女を簡単に受け入れすぎなんじゃないか、とか、カルシファーは、あまりにいい人すぎて、それでも悪魔か!とデーモン小暮閣下に説教してもらったほうがいいんじゃないか、とか、最後の「引越し」って、城を壊すという以外に何がしたかったんだ?とか、なんで急に過去に戻ってしまうんだ、とか、そんな簡単に「つまらない戦争」って割り切れるくらいならそもそもやるんじゃないよ、とか、まあいろいろと。

 僕は観ながら、何度か「いや、それでも破綻度としては『キャシャーン』よりは遥かにマシ、だよな?」と自分に言い聞かせました。そもそも、「リアルであること」や「辻褄が合うこと」を過度に要求されるべき映画でもないはずだしね。

 それにしても、この「ハウル」は、最初のあの巨大な城を動かすシーンには感動しましたし、やっぱり「ラピュタ」からは長い時間が経ったのだなあ、と思ったものでした。おそらく、この作品のテーマは、「あの城を動かす」ことだったに違いありません。「反戦」がテーマになのに、あのサリマン先生の「馬鹿げた戦争なんて終わりにしましょう」という心変わりでアッサリ終わってしまうというのであれば、「マトリックス・レボリューションズ」だって反戦映画ということになってしまいます。
 
 以前宮崎駿監督が何かのインタビューで語られていたことをそのまま受け売りすると、「ハウル」は反戦映画でも自然保護を訴える映画でもなくて、単なる【「戦時下のラブロマンス」が描きたかった】ということなのでしょう。要するに、「老婆になる呪いによる年の差」とか「戦争」とか「荒地の魔女」とか「カッコいいけど性格がひねくれた男と自分に自信が持てない女」「カルシファーとの約束」なんていうのは、「2人の愛の障壁」として存在しているだけなのです。「巨大な城が動く特典映像つきラブロマンス」だとシンプルに考えたら、けっこうよくできた話なのかもしれません。ハウルとソフィが志向しているのは「反戦」というよりむしろ「非戦」であり、「世界がどうなっても、自分たちは自由に生きるんだ」という一種の隠者的な決意であるような気がします。「大事なのは、『愛』なのだよ諸君、隣人と愛し合おうよ」という逃避的ヒッピー・ムーブメントのような感触。結論としては、ものすごく個人的なものなのです。だいたい「紅の豚」を観ても、宮崎監督は、「反戦の人」とは考えにくい気がします。「戦争は嫌い」だけど、「戦争のカッコよさ」みたいなものを理解しているし、否定しきれない、というか。
 
 まあ、かなり破綻しているのは事実なのですが、だからといってこの映画の後味はけっして悪いものではなくて、むしろ「うまくいって良かったね」と観客のひとりとしては、それなりに納得できました。なんのかんのいって、ハッピーエンドというのは悪くないものです。カッコいいけどワガママでトラウマ持ちな男の子と内気だけど恋の力によって強くなっていく女の子が魅かれあって結ばれるというのは、マンガの王道でもありますし。そういえば、「ハウル」には、ジブリ映画には珍しい(というか、僕の記憶にはない)キスシーンが2度も出てきて、ちょっとビックリしました。もちろんそんなディープなキスではないのだけれど、唇と唇がモロに触れ合う描写があっただけでも驚きです。映画館でも、途中わけがわかんなくなったらしい子どもが通路を走り回っていたし、少し「大人向け」を意識していたのかもしれませんね。

 あと、声優・木村拓哉については、十分合格だったと思います。木村さんもかなり抑えた演技(「あすなろ白書」の取手君っぽかった)をしていましたし、ハウルのキャラクターというのは、むしろ木村拓哉というタレントのイメージで補完されたのではないか、とすら感じられるほどでした。ソフィの倍賞さんに関しては、本人のせいというより、少女ソフィは普通に若い人にやらせたほうが良かったような気がします。でも、あまりムリして若い声を出そうともしていなかった印象もあるので、「内向的な感じ」を出すために、あえてそうしたのでしょうか?そのほかには、とくに気になる人は主要キャラクターではいなかったかなあ。犬の鳴き声に原田大二郎さんが「起用」されていたのは、ちょっと笑えたけど。

 それと、音楽。まさに久石サウンドの王道で、いい感じでした。どこかで聞いたことあるなあ、と思ったら、ハウス食品のCMですでに流れていたんですね。たぶん、それでなくても「どこかで聞いたことがある曲」と思った可能性は大ですが。

 展開的には、「最後でいきなり大団円」であり、8時45分になると出る猪木の延髄斬りのような気もしたけどね。最後のスタッフロールが、最近の映画にしては異常なくらい短くて、スタッフ名のフォントが大きかったのも印象的でした。最近の映画って、みんなスタッフロール長いから。

 最後に総合評価。僕は5点満点で4点。とりあえず2時間「つぎはいったいどうなるんだ?」ということで(ほんと、「何が起こるか想像してもどうしようもない」から)、飽きずに観られたし、あの城が動くシーンだけでも「凄い!」と思います。少なくとも「イノセンス」よりは抒情的だし、「スチームボーイ」よりは満腹感がある。  「宮崎作品としては…」と思う向きもあるでしょうが、別に宮崎作品って、「大作主義」なわけでもないのだし(お金と時間はかけてますけど、それは「絵」へのこだわりが大部分だと思うので)、これを2時間観て1800円なら、別に不満はないです。破綻している点も含めて「まあ面白いというか、映画館で観る価値はある」のではないかと。「映画的整合性」に優れたものを見たければ、そういうのは沢山ありますから。こういうツッコミどころも「芸」のうちだし、ほんとうにつまらなかったら、いちいち言及する気力も起きないし。

 結局、「船が沈まなくて、ジャックも死なないハッピーエンドのタイタニック」みたいなものか。
 
 …それって、全然「タイタニック」じゃないじゃん!

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